Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 観光カリスマ JTIC.SWISS代表・山田桂一郎氏(最終回)

2018/07/24

一般社団法人日本インバウンド連合会(JIF)の中村好明理事長(ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)代表取締役社長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。山田代表との対談最終回では、アジアに加え欧米やオーストラリアからの訪日客を呼び込むためには何が必要なのかご提言をいただきました。

ラグビーW杯、東京五輪…一過性にさせないために

 

中村 2019年はラグビーワールドカップ(W杯)、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、アジアだけでなく、欧米やオーストラリアからの訪日客増加にも期待ができます。

 

山田代表 それぞれビッグイベントとしての効果は少なからずあると思いますが、私見としては、政府やマスコミが期待するほど全国的に波及する大きな効果にはならないと思っています。以前、サッカーW杯の仕事に携わった時にも実感したのですが、スポーツ観戦や応援など旅の目的がはっきりしているものほど、それ以外のことにはほとんど関心を持ってもらえません。

サッカーファンは試合を観戦するのが最大の楽しみであり、サポーターの皆さんは自国チームの応援をしたくて現地に来ているのです。ベースキャンプ地や試合会場の近くに世界の誰もが知っているような名所旧跡などがあれば、少しは立ち寄ったりしますが、わざわざ遠出をしてまで観光にはでかけていませんでした。

日本からも現地に直行して、その日のうちに帰ってしまう弾丸ツアーがありますが、観戦以外の時間がほとんどなくても誰も文句は言いません。スポーツイベントで他の地域に波及効果を出したいのならば、スポーツをテーマやコンセプトにした商品やサービスなどで地域への人の流れを作ることを考えるべきです。

中村 今から準備が必要ですね。

山田代表 必要ですね。例えば、ラグビーであれば、ただキャンプ地を誘致し、受け入れるのではなく、その地域の人たちがラグビーを徹底的に楽しむことが大事です。地元の子供たちから大人、男女別などのさまざまなラグビーチームを作り、そして、大会中にはラグビー好きの観戦者がいつでも地元民と一緒にラグビーを楽しめるようなコミュニティ活動を行えば、大会後もその交流から次に繋げることが可能です。

サッカーW杯日韓大会の時も、各国代表がキャンプ地として日本各地に滞在していましたが、その後、代表国と滞在先の自治体が長期にわたった交流やそこからインバウンドを戦略的に広げているところはほとんどありません。

中村 ラグビーW杯はアジアで初めて開催されますが、アジアではラグビーの人気が高くありません。今回のラグビーW杯で大会当局が期待していること、そして、極東のアジアで初のW杯をやることの意義は、ラグビーの文化をアジアに根付かせたい、日本に根付かせたいということがあるのではないでしょうか。その意味では、W杯をきっかけに参加国との間で国際交流が深まるなどのレガシー(遺産)を作りたい。しかし、レガシーというのは、大会期間中には生まれないし、大会期間後にも生まれず、結果的に大会の準備期間にしたことしかレガシーになりませんね。

山田代表 スポーツでも何でも、ライフスタイル化しないと地域に根付かず、しかも誰も楽しみにやって来ません。今からでもラグビーW杯のキャンプ地がラグビーを地域で盛り上げてライフスタイル化していくのならば、将来の芽はあると思います。でも、もし、何もせずにただチームの受け入れだけで喜んでいるようであれば、一過性のお祭り騒ぎに終ってしまうでしょう。

「何もない」「当たり前」と言う前に

中村 先日、オーストラリアのシドニーを訪問したのですが、現地の方に「今度、日本でラグビーW杯が開催されるが、興味があるか」と聞きました。すると、口をそろえたかのように「オーストラリア人でラグビーに興味のない人間はいない」と言われました。なかには日本に行くつもりだという方もいましたが、要するに日本に興味があるわけではなく、ラグビーに興味があるんですよね。

山田代表 そういう意味では、私がオーストラリア滞在中に「日本はセーリング競技ではオーストラリアや世界ではなかなか勝てない…」と感じたのも同じ理由です。海洋国家であるはずの日本でセーリングがライフスタイル化していないのが大きな要因だと思います。

中村 インバウンドを推進する上でも日本各地のライフスタイルは重要になりますね。

山田代表 そもそも旅の基本は「異文化体験」です。人がその土地に住み始め、その環境の中で築いてきた伝統風習や生活文化こそが、インバウンドに対して本質的な価値になるはずです。住民からすれば、ふだんの生活に存在するものは、どれほどの価値があったとしても全ては「当たり前」なのです。他の地域の人から見れば、全く「当たり前」ではなく、とても「有難い」価値あるものだということが分からないのです。

日本各地から呼ばれ、地元の方々と話をしていて気が付いたことなのですが、地域振興や活性化がうまく進んでいない地域の人がよく使う言葉に「何もない」があります。多分、地方の人たちは都会的なものがないとでも言いたいのかもしれませんが、逆に都会から見れば豊かな自然環境や景観、豊富な食材など、都会にはないものばかりです。

人間はない物ねだりをするものですが、地方や田舎だからと言って「何もない」わけではありません。やはり、一度、外の世界をしっかりと見ることや、外の視点で地域を見直すことをしていかないと「当たり前」が「有難い」ものだと気付かないのだと思います。

中村 日本の地方には外から見れば有難い宝物だらけじゃないですか?

山田代表 そうなんです。でも、こちらが「とても素敵ですね!」とか「他の地域では見た事がない!」「他で食べた事がないほど美味しい!」と素直な高評価の感想を述べたとしても、地元の価値に気が付いていない人たちは「そんなのはうちにとっては当たり前なんだ」と言ってしまいます。「何もない」と並んで「当たり前」も旅行者にとっては旅先では聞きたくない不愉快な言葉だと思います。

中村 やはり、ほとんどの住民は地元の価値を認識していないのではないでしょうか。

山田代表 地域振興や活性化で注目されているところや元気なまちの住民は「何もない」と「当たり前」を口に出しません。それどころが、地域にある素材や資源を自慢し、誇りを持って勧めてくれる人たちの方が圧倒的に多いのです。地域の価値が何であるかを本当に認識しているからこそ、地域の資源や素材は自然や文化財なども保護保全がしっかりとされ、利活用するのもうまいと思います。だからこそ、顧客に合わせて商品やサービスを提供する時も質や付加価値が必然的に高くなり、わざわざ遠くからでも手に入れたいものになるのです。

住民も観光客も幸せに…「感幸地」を目指そう

中村 住民が地元をないがしろにしているところには外国人旅行者だけでなく、日本人も行かなさそうですね。

山田代表 住民が地域を良くしようと努力しているところは外部の人たちも応援したくなります。一生懸命にがんばるスポーツ選手を多くの人が応援する気持ちに似ています。地元が努力してどんどん良くなっている地域から出てくる商品やサービスならば、顧客は地元が同じぐらいがんばって作ったものだからと思って買いたくなるし、そんな素敵なところなら行ってみたいと思います。

住民が地域に対して自信と誇りを持ち、地域をより良くしようとしているところは、自然と人々が集う地域になるだけでなく、自立と持続可能性も高くなるでしょう。そして、旅行者の満足度とともに住民のライフスタイルも豊かな地域を目指すならば、その地は「観光地」ではなく「感幸地」と表してほしいと思います。旅行者と住民にとって幸せになる感幸地を目指すことが大切なことなのです。(おわり)

山田桂一郎(やまだ・けいいちろう) 1965年三重県生まれ。87年スイス・ツェルマット観光局で日本人対応インフォメーション、セールスプロモーションを担当後、92年に日本人向けに旅の相談や情報の発信するJTIC.SWISSを設立し、代表を務める。2005年、内閣府・国土交通省(観光庁)・農林水産省から観光カリスマに認定される。世界各地でのマーケティングとブランディングの経験を活かし、国内各地で地域振興や活性化に関するさまざまな事業化を進めている。内閣官房地域活性化伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房クールジャパン地域プロデューサー、北海道大学客員教授、和歌山大学客員教授。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

あわせて読む

東京五輪

もっと見る
「東京五輪」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る

地方創生

もっと見る
「地方創生」の記事をもっと見る

旅行業

もっと見る
「旅行業」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

ラグビーW杯

もっと見る
「ラグビーW杯」の記事をもっと見る

観光カリスマ

もっと見る
「観光カリスマ」の記事をもっと見る

山田桂一郎

もっと見る
「山田桂一郎」の記事をもっと見る