Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 観光カリスマ JTIC.SWISS代表・山田桂一郎氏(3)

2018/07/02

一般社団法人日本インバウンド連合会(JIF)の中村好明理事長(ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)代表取締役社長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。スイス・ツェルマットでの視察対応やコンサルティング、旅の情報提供等の活動を展開するJTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)の山田桂一郎代表との対談第3回では、日本各地のインバウンドの事例や課題についてお話をうかがいました。

地域で稼ぐ体制作りがカギ

中村 山田さんが全国各地に出かけられて、「この街のこういうところが面白い」と思うところはありますか?

山田代表 訪日外国人旅行者からの評価と支持の高さならば、岐阜県飛騨市の「美ら地球(ちゅらぼし)」ですね。サイクリングツアーを通して地元の人々の暮らしぶりや日常を垣間見る体験がとても人気です。改めて旅の基本は異文化体験だということがわかります。他のツアーも地域が持つ生活文化の価値を伝えるだけでなく、お客様のフェーズに合わせ、満足度を高める内容になっているところが素晴らしいと感じています。

ロケーションからすれば、高山市のお隣とは言え、空港・新幹線・高速道路などの交通アクセスの条件が不利な上、基本的なコンテンツはどこにでもあるような里山の風景です。彼らの取り組みやツアー内容を知れば知るほど、インバウンドの受け入れは日本のどこでも可能だと言えます。

一方で、地域経済の活性化を推進するという点では宮城県気仙沼市です。気仙沼市は地域全体のマネジメント体制としくみ、組織が構築されています。現在、インバウンドならば飛騨市ですが、地域全体で「稼ぐ力」を伸ばして行くのは気仙沼市ですね。

中村 気仙沼はどういう点が優れているのですか?

山田代表 現在、気仙沼市全体が一つの会社のような体制になっています。地域全体で戦略策定と意思決定する経営ボードを設定し、市内の組織・団体が連携しながらも役割分担を明確にすることで事業のダブリやムダをなくしています。そして、これまで地域全体で取り組んでこなかったエリアマーケティングを進め、域内経済循環を向上させることを目標として稼ぐことを実践しています。

2年程前の話になりますが、気仙沼の関係者からDMOの相談を頂き、その後、気仙沼市の若手を中心とした方々が地域経営の視察にスイスに来ました。地域全体で稼ぐと言っても個々の事業者による経営努力には限界があり、地域が一体となって利潤を追求することが成功確率を高めることに気付いた点が大きかったと思います。

現在、市内の74事業者を中心とした連携でエリアマーケティングを進めています。既に実体経済に影響を与えるほどの活動になっていますが、今後はもっと大きな成果を上げるでしょう。

スイスではツェルマット以外の自治体でも、自分たちの街を一つの会社として見立て、シンプルな地域経営活動をしているところがあります。日本では市役所・役場や商工会議所・商工会、観光協会などが個々で観光振興の事業や活動を進める場合が多く、他の団体・組織が何をしているかはほとんど把握できていません。組織内でも縦割りの弊害で同じような事業が乱立することがあります。日本の人口減少社会を考えれば、年々労働力不足に陥るのは確実で、今以上にダブリやムダなことはできないはずです。まだまだ日本では馴染みがないやり方なのですが、今後は各地で地域経営のシンプル化は必要になると思います。

中村 なるほど。地域で稼ぐということに対し、座学の頭ではなく、実際に10人の方々がスイスで体感したのが大きいですね。共通目的を最初に共有しているからこそ、「私たち」が作れますよね。

地域内での意識統一を図り、子供たちを巻き込む

中村 気仙沼でできつつあるモデルが他の街でできない理由は何でしょうか?

山田代表 住民、事業者、行政職員が地域経営を理解できていないこともありますが、それ以上に街としてのビジョンがなく、思想や哲学がないのも問題です。体制化やしくみづくりをするベースとして街の理念がない場合が圧倒的に多いですね。

中村 気仙沼の場合は、健全な危機感というか、東日本大震災の復興特需が終わっていく中で、ある意味、切実な危機感を共有できる状況があったのが成功要因のひとつとしてあるのではないでしょうか。

山田代表 おっしゃるとおり、それも一つの要因です。私が関わってきた地域でも、急速に落ち込んだ経験があるところほど危機感があり、地域全体が問題や課題解決に対して動き出すのが早いです。やはり苦しい状況を経験し、共有していないとなかなか地域として一致団結することができないのかもしれません。地域振興や活性化の成功事例としてマスコミに取り上げられているようなところはほとんどが僻(へき)地か離島です。

地域が本当に困っているからこそ多くの事業者や住民が積極的に取り組もうとします。日本には地域としては問題だらけで困っているところが多いのですが、住民が普段の生活の中で日々困窮しているようなことはほとんどありません。誰も食うに困っていないのです。そういうところは、誰が何を言っても動かないものは動かないです。誰もが同じだと思いますが、率先して面倒なことはしたくないですからね。

中村 本当は日本で「困っていない地域」なんてないですが、その「困る」という自己認識のないところがほとんどだと思います。そういうところをどう動かしていくのかが重要ですね。

山田代表 そうですね。住民が自分たちの住んでいる地域をどうしたいかという問題意識だと思います。私自身は地域振興の事業化でさまざまな人たちと協力関係を築きますが、連携するのは事業者だけではありません。重要なのは地域活性化などの活動から無関係なように見える地元の子供たちとお母さんです。

自分たちの子供たちやその先にまで、「この地域を良くして残してあげなければ…」と純粋に思っている人たちほど真面目で活動には熱心です。事業者からすれば自分たちの普段の事業から一番縁が遠そうな子供たちやお母さんをあえて中心に据えた活動をした方が、最終的には地域全体が動くことになります。

お年寄りや上の世代から変えていくのはとても大変ですが、子供たちの意識や行動が変われば、両親もおじいちゃんもおばあちゃんも変わります。地域としてなかなか連携が取れない中で、合意形成を含めて地域をより一体化させるという意味では、子供たちやお母さんと一緒に活動すべきだと思います。

中村 それを実際にできているところはありますか?

山田代表 三重県鳥羽市の離島では「島っ子ガイド」という小学生がボランティアガイドとして島内を案内してくれるツアーがあります。実は日本各地で子供たちのガイド活動は盛んになってきています。

中村 今も根付いているところは何地域くらいありますか?

山田代表 年々、増えていると思います。北海道弟子屈町では摩周湖展望台で高校生が英語ガイドとして活動しています。大人にはボランティア活動ではなく、プロのガイドとしてしっかりと稼いでもらい、今後、ボランティアガイドを残すとするならば子供たちだと思います。彼らがガイドとして活動することで地域のことを深く知ることによりアイデンティティが根付き、知らない人に地元の本質的な価値を伝え、喜んでもらえることでコミュニケーション力が付き、地域への自信と誇りにも繋がります。もちろん、他にも副産物的な好影響が子供たちや地域に表れてきます。このような事例を見ると、観光産業が外貨獲得以外にも地域社会に対して貢献できることはまだまだあると感じています。

一方で、どれだけ素敵な子供たちのガイド活動でも学校だけに全てを任せてしまうと、学校長、教育長、担任が変わった瞬間に活動そのものがなくなることがあります。学校だけではなく、鳥羽市の「島っこガイド」のように地域活動として取り組んでいるところは地元でもどんどん評判も良くなり、継続した事業になっています。

中村 中間支援組織がしっかりしていない限り、現場がバージョンアップできないんですよね。(続く)

山田桂一郎(やまだ・けいいちろう) 1965年三重県生まれ。87年スイス・ツェルマット観光局で日本人対応インフォメーション、セールスプロモーションを担当後、92年に日本人向けに旅の相談や情報の発信するJTIC.SWISSを設立し、代表を務める。2005年、内閣府・国土交通省(観光庁)・農林水産省から観光カリスマに認定される。世界各地でのマーケティングとブランディングの経験を活かし、国内各地で地域振興や活性化に関するさまざまな事業化を進めている。内閣官房地域活性化伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房クールジャパン地域プロデューサー、北海道大学客員教授、和歌山大学客員教授。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

あわせて読む

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る

地方創生

もっと見る
「地方創生」の記事をもっと見る

旅行業

もっと見る
「旅行業」の記事をもっと見る

岐阜県

もっと見る
「岐阜県」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

宮城県

もっと見る
「宮城県」の記事をもっと見る 「欧州」の記事をもっと見る

観光カリスマ

もっと見る
「観光カリスマ」の記事をもっと見る

山田桂一郎

もっと見る
「山田桂一郎」の記事をもっと見る