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[連載]観光立国のフロントランナーたち 観光カリスマ JTIC.SWISS代表・山田桂一郎氏(2)

2018/06/12

一般社団法人日本インバウンド連合会(JIF)の中村好明理事長(ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)代表取締役社長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。スイス・ツェルマットでボランティアによる日本語の観光案内活動を展開するJTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)の山田桂一郎代表との対談第2回では、山田代表がなぜスイスのツェルマットへ移住したのか、山田代表が感じる日本とスイス、ヨーロッパとの違いについてお話をうかがいました。

学生時代の海外生活で価値観に変化が

中村 山田さんは、三重県の出身ですが、どのような経緯でスイスのツェルマットに住むことになったのですか?

山田代表 学生の頃、ロンドンから日本へヒッチハイクで旅をしている時、たまたまスイスへ立ち寄ったのが最初のきっかけです。住み始めたのは1987年冬からです。最初は観光局のインフォメーションカウンターでの案内業務やスキーガイドをしていました。

中村 学生時代は海外で過ごしていたのですか?

山田代表 オーストラリアのパースに留学していましたが、勉強よりもセーリング競技が目的で日本から飛び出しました。幼少の頃、父親の知り合いにたまたまモントリオールオリンピックの代表選手がいて、その方にヨットの基本から教えてもらったのがきっかけです。

中村 優秀な人に習うと楽しいですよね。しかし、なぜオーストラリアでヨットのセーリング競技をすることになったのですか?

山田代表 日本での現役時代の成績はそれほど良くなかったのですが、当時、セーリング先進地のオーストラリアではまだ日本人がほとんどいなかったので新しい世界にチャレンジしようと思いたったからです。それと、私立の中高一貫の男子校に通っていたのですが、そこは教員の多くが外国人でした。英語は得意ではなかったのですが、外国人アレルギーのようなものはなかったです。

中村 そういう環境が前提にあったんですね。そしてオーストラリアで長期間滞在されたのですか?

山田代表 はい。パースに長く住んでみて改めて感じたことは、思った以上にイギリス以外の国々からも多くの外国人が移住していたことでした。近所にはイタリアやインドネシアからの移民家族がいて、仲良くなるに連れて彼らのライフスタイルや価値観の違いに興味を持ちました。もちろん、オージー(オーストラリア人)たちも陽気で楽しい人が多かったのですが、中には白豪主義の人もいて嫌な思いをしたこともありました。

当時、1980年代後半でしたから日本はバブル最盛期。日本人の価値観からすると「世の中の価値は全てお金だ!」という雰囲気や感覚が学生の私にも少なからずありました。それを根底から崩してくれたのがオーストラリアに住むさまざまなルーツを持つ人たちのライフスタイルでした。特に同じ海洋国家として日本よりも圧倒的にウォータースポーツを楽しんでいる彼らの生活は日本との単純な所得差では説明はできないものがありますね。

ヨットレースは週末だけでなく、水曜日の午後にもクラブ単位で開催され、サーフィンならば波が良い日はサーフショップのドアに「スタッフは海にいます!」という札が掛かっているようなところでした。とにかくアウトドアスポーツだけでなく、週末やバカンスの楽しみ方も日本とは全く違っていました。

それは人生の楽しみ方にも繋がっていると思います。そんなことに気が付いてからは自分が持っている狭い考え方や拝金主義的な価値観、人生のあり方そのものにも疑問を持つようになりました。また、一方で世界中の人々のライフスタイルや価値観、思想にとても興味が湧いたのです。

中村 ショックを受けたんですね。

山田代表 そうですね。だからこそいろんな国に直接行ってみて、そこに住む人々と生活そのものに触れないとだめだと思いました。世界の観光地や名所・旧跡めぐりや自分探しの旅ではなく、世界各地の人々の多様な生活風習を訪ね歩きたくてロンドンから日本に向かう旅をしようと思ったのです。ロンドンが旅の起点だったのはパースから一番遠くて、一番安いフライトがロンドンだっただけなんです。

中村 なるほど。自然にダイバーシティが根付いているパースという街で、関心が広がったんですね。

山田代表 欧州をヒッチハイクしていた頃、スイスは物価が高いので避けていたのですが、これも今思うと必然だったと思いますが、気が付いたらスイス国内で降ろされていました。

多様性を認めることで多様な人々が訪れる

中村 日本とスイス、ヨーロッパとの違いはどんなところにありますか?

山田代表 欧州自体はそれほど広い大陸ではないにも関わらず、オーストラリアよりも多様な生活文化や伝統の違いを感じました。でも、それ以上に住民の地元愛や思想の根底にあるアイデンティティーの強さを感じたのです。

スイスについてはあらゆる意味で住民の意識の高さに驚きました。一見きれいな風景が多いのですが、実は資源そのものは日本と比べたらかなり貧弱です。土地がやせているから畑が少なく放牧地ばかりです。昔は売るものと言えば男たちの体力ぐらいなので他国への出稼ぎと傭兵の歴史が長かったわけです。今でこそ豊かなイメージがあるスイスですが、永世中立や連邦制、直接民主制を見ても彼らのアイデンティティーとともに危機意識の高さと強かさは、どこにも頼れず自分たちで何とか自立していくしかないという決意と覚悟の表れです。

その考えの延長線上に地域を良くして次世代に引き継がせようとする意識や活動があると思います。限られた資源しかないので、価値を上げようとする努力も同様ではないでしょうか。とにかく、住民が持つ理念やビジョンが明確でブレないことが凄いと感じました。

中村 それはそのまま今の日本の地方に全く同じことが言えますよね?

山田代表 言えますね。実際、国内でも地域振興や活性化で成功していると言われる地域はほとんどが僻地や離島で住民の危機感が高く、地元愛があり、明確な思想や理念があるところが多いです。逆にダメなところほど資源が豊かで危機意識が無く、正反対なパターンの地域が多いと思います。日本全体でも基本的にはほとんどの国民が生活に困っているわけでもなく、現状容認派の人々が多いために世の中を変えようとする意思を感じることがありません。

中村 にもかかわらず、たまたま日本は人口ボーナスを長く享受できた。その成功体験が強すぎて、健全な危機感を醸成できていないところが多いですよね。

山田代表 日本では住民の危機感のなさも感じますが、それよりも、「自分は何もしなくても、最後は誰かが何とかしてくれる…」という責任感のなさと依存心の強さをとても感じます。それは先程も述べたように、豊かな環境や資源へ頼り切ってきたことや行政が何でもやってしまったことで住民を甘やかせてきたツケが回ってきたのだと思います。それ以外でも、日本と欧州の人々の意識の違いでは、確固たるアイデンティティーと将来への思いや考え、行動力についてはかなり大きな差があると思います。

中村 その差は何なのでしょうか?

山田代表 地域を次世代以降にどうやって残すのかというときに「より良くして次に渡さなければ、地域も自分たちの生活も将来は衰退していく」という意識より、「自分たちは何だかんだ言っても食えてきたのだから、今後も放っておいても大丈夫…」という怠惰な意識が垣間見えます。日本で活動していると、誰が真剣に地元や将来のことを考えているのかわからなくなる時があります。住民の地元と将来に対する責任放棄ですね。

中村 それは多分、無意識ですよね。

山田代表 ほとんどの人は無意識です。今の生活に余程困らない限り人はなかなか動かないし、本当に面倒なことはしたくないということはよく分かります。その弊害として、日本では地方に行けば行くほど一部の住民の独り善がりな考えや行動が目立ち、その人の一言で全てが決まってしまうことがあるので決して良い方向には進まないですね。

中村 日本とヨーロッパの違いというのは、山田さんが指摘されたことだと思うのですが、もう1つ違うのは、ヨーロッパというのは人と違うということを評価する社会で、そのイノベーションこそがまさに未来を作るという土壌があります。しかし、日本の場合は、出る杭は打たれるというか、他と同一化することに価値があります。異質化していく人を排除したり、いじめたりするじゃないですか。

山田代表 日本でもダイバーシティ(多様性)という言葉が定着してきましたが、豊かな社会は多様性こそ命です。スイスは人口840万人で公用語は4つありますし、4人に1人は外国人です。そういう意味では、多様性が上手く機能しているからこそ成り立っているところがあります。最終的に多様性を認めるか、認めないかという社会の根本的なところでは教養の高さが必要なのかもしれません。

日本人の同一性がだめなのではなく、教育水準は高いし、教養もありますが、まだまだ異質なものを認めることや、考えの違う人たちと一緒に社会を構築していくことに関しては弱いと思います。ビジネスの世界でもイノベーションを起こして新しい価値を生むことについては決して欧州諸国に劣るとは思いませんが、多様性の中から新たな価値を創造することは欧州各国の方が先を行っていると思います。

中村 日本の場合は同一性に価値がある。一方、スイスは多様な価値観があることが、さまざまな国籍のツーリストを集めている背景の一つになっているわけですね。

山田代表 多様性が活かされた国だからこそ、多様な人たちを快く受け入れることが出来るという意味では、スイスにおけるユニバーサルツーリズムのベースになっていると思います。(続く)

山田桂一郎(やまだ・けいいちろう) 1965年三重県生まれ。87年スイス・ツェルマット観光局で日本人対応インフォメーション、セールスプロモーションを担当後、92年に日本人向けに旅の相談や情報の発信するJTIC.SWISSを設立し、代表を務める。2005年、内閣府・国土交通省(観光庁)・農林水産省から観光カリスマに認定される。世界各地でのマーケティングとブランディングの経験を活かし、国内各地で地域振興や活性化に関するさまざまな事業化を進めている。内閣官房地域活性化伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房クールジャパン地域プロデューサー、北海道大学客員教授、和歌山大学客員教授。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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