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[連載]観光立国のフロントランナーたち 観光カリスマ JTIC.SWISS代表・山田桂一郎氏(1)

2018/05/30

一般社団法人日本インバウンド連合会(JIF)の中村好明理事長(ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)代表取締役社長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回からスイス・ツェルマットでボランティアによる日本語の観光案内活動を展開するJTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)の山田桂一郎代表が登場します。

山田代表は、観光振興を成功に導いた功労者を選ぶ「観光カリスマ」の一人です。対談の第1回では、山田代表の活動内容、日本のインバウンドの現状についてお話をうかがいました。

地域の稼ぐ力が必要

中村 現在の山田さんの活動について、具体的に教えてください。

山田代表 月に1~2回のペースでスイスと日本を往復しながら、北海道から沖縄の離島まで各地に出向き、観光を基軸とした地域振興の事業化を推進しています。特に今はインバウンドとDMO、エコツーリズムの推進が中心になっています。

日本版DMO 「Destination Marketing/Management Organization」の略称。地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人のこと。(出典:観光庁ホームページより)≫

中村 そのような活動を通して、今、山田さんは日本のインバウンドの状況をどのように捉えていらっしゃいますか?

山田代表 ご存知の通り訪日外国人旅行者数が順調に伸びていること自体は数字として結果が出ているので評価に値します。しかし、業界の努力と言うよりは政府の力技が無ければ達成しなかった数字ではないでしょうか。特にビザの緩和やローコストキャリア、クルーズ船の誘致等の施策が大きく影響しました。もちろん、その結果を否定する訳ではありませんが、明確な経済政策としての成果を問うならば旅行者数を増やすことよりも消費額を増やす方が重要です。

ツーリズムの場合、業界だけでなく地域として稼ぐ必要がありますが、その力はまだまだ弱いと感じています。政府も目標として、訪日外国人旅行者の消費額は2020年に8兆円、2030年に15兆円の達成を目指していますので、旅行者数の増加よりは消費額の増加を最優先事項として動くべきだと思います。

中村 数も大事だけれども、質のほうがさらに大事です。最終的には利潤が生まれ、雇用が創出され、地域の人々の暮らしに資するものにならなくては、ただの数字で終ってしまうという事ですね。

山田代表 そうですね。目的のために必要なKPI(目標数値)があるのはいいと思うのですが、地域によっては、最終的な目的が明確でないばかりに何のためにインバウンドを推進するのかが理解できておらず、KPIが曖昧なところもあります。せめて、地域住民の幸せや地域社会の豊かさを支えるために必要な経済基盤を構築する上で、人口減少社会という状況に対応するためにもインバウンドによる外貨獲得が重要であることがもっと意識されてもいいのではないでしょうか。

特に地域でインバウンドによる消費増を狙うならば、旅行者数増加よりも質の高い商品やサービスで客単価を上げることが重要になります。そもそも、その地域に高付加価値なものがなければ、旅行者がわざわざ旅先として選ぶ理由や必然性がありません。どこにでもあるものなら、近くて、安い方がいいのですから。高付加価値化はイコール販売額を上げることになるので生産性を向上させることにもなります。どちらにしても、しっかりと利益を確保できなければ意味がありません。

中村 客単価を高めて質の高いサービスをする方が労働力も不足する中で有益ですね。

過去の成功体験からのマインドセットが重要

山田代表 また、これまでの日本では、多くの経営者が過去に客単価を上げるという戦略をほとんどとっていませんでした。客単価をアップしなくてもどうにかなったのは基本的に過去の人口ボーナス時代の恩恵です。年々消費者が増える時代ならば、安売り商売でも利益が出たわけです。しかし、今、日本国内では人口減少社会に入り、それが出来なくなっています。

今のところ、劇的に数が増えているインバウンドであったとしても、いつまでも安売り商売だけでは長続きはしません。付加価値を高め、販売額アップにつなげる戦略をとり、収益構造をよくしていかない限りは、観光による一次消費額がどれだけ増加してもあまり意味がありません。

中村 各地の人々の中にまさに過去の生産年齢人口がどんどん増えていた時代の、すなわち過去の成功体験があって、時代が変わっているにも関わらず、過去の方程式に基づいて今でも勝てると思っている。そこが大きなマインドセット転換の必要なポイントですね。

山田代表 年齢関係なく、市場の変化に合わせて進歩、進化しようとしない人たちは過去の知見と経験値だけに捉われます。しかも、古い体質の人たちがマインドセットからの転換ができるかというとかなり難しい。そういう意味では、やる気のある若い世代にどんどんチャレンジしてもらいたいです。今後、これまで以上に選択と集中が大事にはなるのですが、ベストチョイスを意識しながら、とにかくトライ&エラーを重ねてベターチェンジしていく方がいいと思います。

下手に何かに固執してしまったばかりに失敗して立ち直れなくなるよりも、可能性が見えた時に一気に集中した方が成功確率も高くなります。製造業でのイノベーションは技術革新ですが、ツーリズムでは稼ぎ方を変えることがイノベーションです。最初にするべきことは、付加価値と共に客単価アップを目標にイノベーションを起こすしかないと思います。(続く)

山田桂一郎(やまだ・けいいちろう) 1965年三重県生まれ。87年スイス・ツェルマット観光局で日本人対応インフォメーション、セールスプロモーションを担当後、92年に日本人向けに旅の相談や情報の発信するJTIC.SWISSを設立し、代表を務める。2005年、内閣府・国土交通省(観光庁)・農林水産省から観光カリスマに認定される。世界各地でのマーケティングとブランディングの経験を活かし、国内各地で地域振興や活性化に関するさまざまな事業化を進めている。内閣官房地域活性化伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房クールジャパン地域プロデューサー、北海道大学客員教授、和歌山大学客員教授。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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