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[連載]誘客都市 ~IRが変える大阪~ 第1部(6)橋下氏が目を付け、松井氏が決意した大阪の未来図 負の遺産・夢洲を「輝く場所」に

2018/05/05
松井一郎氏、橋下徹氏、吉村洋文氏と大阪湾の人工島・夢洲

「とにかく、すごい計画だ」

 シンガポールのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)視察で、開業目前のマリーナベイ・サンズの工事現場を見て帰国した大阪府知事(当時)の橋下徹氏は、興奮した様子で松井一郎氏(現府知事)にこう語った。平成22年1月のことだ。

 橋下氏を慰労しようと松井氏ら数人が集まった席で、IRの魅力を語る橋下氏は冗舌だった。この会話を機に、IRを誘致しようとの橋下氏と松井氏の思いが重なり、大阪の未来図が動き出した。

 当時は現在のような訪日外国人客もおらず、関西地域は活気を失っていた。しかも、放漫行政で大阪府と大阪市は11兆円超の借金を抱える状態だった。

 大阪湾臨海の夢洲(ゆめしま)、咲洲(さきしま)、舞洲(まいしま)。松井氏はこれらベイエリアの人工島を“負の遺産”と考えていた。

五輪招致に失敗

 バブル期の昭和63(1988)年に大阪市は3島を新都心として開発する「テクノポート大阪基本計画」を策定。公費約7000億円をつぎ込んだが、バブル崩壊で空き地ばかりが残り、打開策の五輪招致にも失敗したからだ。

 しかし、夢洲は梅田など都心部から10キロ余りと近く、170ヘクタールもの用地を使える。IRならば事業者が施設整備を負担し、さらなる民間投資を呼び込んで地域を開発できる。松井氏は「ベイエリアを有効な資産に作り替える」という強い決意を胸に秘めた。

産業・観光の拠点

 府知事としてIR誘致に本腰を入れ始めた松井氏は、平成24(2012)年7月にシンガポールのマリーナベイ・サンズを訪れた。目の前に広がる光景は、橋下氏から聞いたイメージをはるかに上回るものだった。

 地上57階(高さ200メートル)のプールでは摩天楼を見下ろしながら客がくつろぎ、ショッピングエリアには数え切れないほどの高級店が並ぶ。カジノエリアも人であふれていた。松井氏は「シンガポール、ニューヨークにしても、世界各国ではベイエリアこそ産業や観光の拠点。大阪のベイエリアは最も伸びしろがある場所だ」と訴える。

地元財界と連携

 「大阪の成長にはIRが必要だ」。松井氏はシンガポール視察でこう確信したが、府市が進めるIR誘致には課題もあった。地元経済界との連携だ。

 政界引退した橋下氏の後継でもある吉村洋文大阪市長は28年9月のシンガポール視察を前に関西経済3団体に参加を呼びかけた。当時、関西経済連合会と大阪商工会議所はIRへの慎重姿勢を崩していなかった。

 吉村氏と3団体幹部は活況を呈するIRを視察。その後、シンガポールのホテルで行った会議で、大商の宮城勉専務理事は「有意義だった。きちんとIRについて議論していく」と切り出した。吉村氏は「シンガポールの視察以降、経済団体のIRに対する見方や温度感は徐々に変わった」と振り返る。

 府市と3団体は翌29年に夢洲をエンターテインメント性の高い国際観光拠点として整備する「夢洲まちづくり構想」をまとめ、大阪の未来図を打ち出した。ただ、自民、公明両党が進めるIRの設置箇所数や入場料を定めるIR実施法案の議論は現在、ギャンブル依存症への対応などで意見が対立し作業が遅れている。

 法整備に不安が残る中、吉村氏は「ベイエリアを多くの人が集まる輝く場所にしていく。IR誘致はその出発点だ」と力を込める。

【データ編】大阪IRの経済効果、年6900億円と試算

夢洲まちづくり構想では国際観光拠点の運営で見込まれる年間の経済効果を示した

 夢洲にIRの誘致を目指す大阪府市は、IRを核とした国際観光拠点の運営によって年6900億円を超える経済波及効果が生み出されると試算する。

 府市と経済界が昨年8月に策定した「夢洲まちづくり構想」で、国際観光拠点の初期建設における経済波及効果として7600億円を見込む。法人税の増収や地価の上昇などの効果も期待される。

 国際観光拠点の構想では、第1期にカジノや「MICE(マイス)施設」と呼ばれる国際会議場、ホテルなどを一体的に整備。第2期は2025年国際博覧会(万博)を開催した後にビジネス用地として再整備する。第3期には富裕層やファミリー層向けの長期滞在施設などを建設する。

 大阪を訪れる訪日外国人客は平成29年に初めて年1千万人を超えており、府市はIRで観光客をさらに呼び込み、地域活性化や雇用創出につなげる考えだ。

大阪府市のIR誘致構想 橋下徹大阪府知事が平成22年7月に「大阪エンターテイメント都市構想推進検討会」を発足させ、IR導入への検討を始めた。当時の平松邦夫大阪市長はカジノに否定的だったが、市長となった橋下氏が25年12月に府市合同のIR立地準備会議を立ち上げた。29年4月には誘致活動の実務を担うIR推進局が府咲洲庁舎に設置され、同年8月に世界最高水準のIR誘致を目指す「IR基本構想案」の中間骨子が取りまとめられた。

※第1部おわり。この連載は石川有紀、栗井裕美子、黒川信雄、地主明世、永原慎吾、中山玲子、安田奈緒美が担当しました。

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