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[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本政策投資銀行・藻谷浩介特任顧問 (2)

2018/04/09

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(一般社団法人日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。政策投資銀行の藻谷浩介・地域企画部特任顧問との第2回対談では、人口動態の変化が日本社会や観光に与える影響などについてお話をうかがいました。

人口動態の変化による影響は甚大

中村 日本は少子高齢化が進行するとともに、本格的な人口減少の時代に突入します。これからの人口動態の変化が首都圏や地方に及ぼす影響をどうみていますか。

藻谷特任顧問 現役世代の数の減少は、まず労働力を減らし、人手不足を生みます。これは経済学でも重視していることですが、経済学がなぜか見落としている点として、需要量をも減らすのです。労働力が減っても機械化・自動化で供給量を維持することはできますが、需要量の減少を防ぐには、むしろ供給力を抑えて単価を上げなくてはなりません。顧客単価を上げて、給与を上げなければ人手不足にも対処できないのです。

観光についていえば、まず人手不足が深刻化します。ですが同時に、顧客の数の減少も進むのです。今は外国人観光客が急増しているわけですが、そこを取り込めているところとそうでないところでは、客数に破格の差が出て来ていますね。景気とは無関係に進む、日本の現役世代減少の当然の結果です。「不景気だから景気対策を」と旧態依然なことを言っている限り、人手不足と売上減少のはさみ撃ちに合って、廃業に向かうことをまぬがれません。

「人口の増える東京と、減る地方」という認識もまったくの間違いです。問題なのは「現役世代の減少」で、「人口の減少」ではありません。2010年から15年までの5年間に、日本の総人口は96万人だけ減ったのですが、15~64歳に限れば448万人も減っていました。この年代を生産年齢人口と言って、世界共通に現役世代と定義しています。範囲は日本の実態に合わないという人もいますが、これを20~69歳にしても結果に大差はありません。

経済に影響を与えたのは、もちろん総人口の減少ではなく生産年齢人口の減少です。このようなことが起きた理由は、1000万人いる昭和20年代前半生まれが、この間に65歳を超えたことです。そのため65歳以上人口は438万人も増えました。

首都圏1都3県の数字を見ますと、総人口は51万人増えましたが、15~64歳に限れば75万人も減りました。対して65歳以上は134万人も増えたのです。この間に首都圏では、地元の子供が152万人も15歳を超え、全国から15~64歳の世代が差し引き42万人も流れ込んだのですが、昭和20年代前半生まれの首都圏民が269万人も65歳を超えたので、このような数字になりました。ですから首都圏も、人口増加にもかかわらず人手不足ですし、外国人客のいない商売は軒並み需要数量の減少に悩んでいます。

中村 観光業はAI(人工知能)、機械化などで自動化が進んだとしても、人手がかかる産業であることに変わりはありません。

藻谷特任顧問 エイチ・アイ・エスが展開している「変なホテル」などの試みはありますが、観光は基本的に人と人との触れ合いを売っている以上、労働集約産業であり続けます。日ごろ、コンビニエンスストアやファストフードで食事を済ませている人でも、観光先ではテーブルサービスを受けたいもの。となれば観光事業者の活路は、低単価→低賃金の路線を捨てて、中単価→中賃金、高単価→高賃金の路線へとシフトしていくほかにないはずです。

ところが、戦後の日本では、1995年までの半世紀もの間に現役世代人口が倍増してきたという経験をしてきたため、いまだに「客も労働者もいくらでもいるので、薄利多売で」という旧態依然の発想が、特に高齢経営者の頭の中から抜けていません。

彼らにとって訪日外国人客の急増は、体に染みついたビジネスモデルの復活のチャンスにしか見えていないかもしれませんね。ですが、それは、日本の観光産業が「高利少売」に転換するのをかえって遅らせているようにも思うのです。

それどころか、長野県山ノ内町の地獄谷野猿公苑や、京都伏見稲荷のように、基本的に無料で着地型有料ガイドサービスもなく、多くの観光客が1円のお金も地元に落とさずに去る観光地が、最大人気になってしまっています。これは日本の観光地が、基本のキを理解していないことを示して余りあります。
 

既に人口は半分に減っている?

中村 人口減少による将来の消費の減退は日本にとって深刻な問題です。

藻谷特任顧問 1995年をピークに始まった現役世代の減少によって、国内の個人消費(家計最終消費支出)は1997年から横ばいのままです。「アベノミクス」でも増えていません。消費の減退は将来ではなく既に20年前から起きているのです。

また、人口は「減る」のではなくて「既に減った」のです。毎年の出生者数は、1973年をピークにもう45年間も減り続けて、当時の半分を切りました。毎年の出生者数が半減したということは、将来の現役世代の数も半分になったということです。これはもう起きてしまったことで、予測ではありません。

日本の人口が1億人を切るころには大きな話題になるのでしょうが、そのころにはすでに現役世代は5000万人台に減っています。見ている指標が、現在の総人口(高齢者を含む)だと、現実の把握が実態より大きく遅れてしまいます。

逆に深く考えもせずに、「人口はもう減って行くのが当たり前」と言う人がいます。確かに出生数が半減した以上、半減するところまでは確定していますが、その後どうなるかはまだ決まっていません。今出生数が増え始めれば、半世紀ほどのタイムラグを置いて人口はまた増え始めます。

実際問題、出生数は首都圏を筆頭とした都市部では増える気配がありませんが、山間過疎地や離島では、実は再度増え始める兆しが出ています。島根県の場合、19市町村のうち約半分の9市町村で、2013年3月末と2017年正月の最新データの比較で、0~4歳児が増加に転じています。

首都圏では全国から集めた団塊ジュニアが亡くなり始める40年後まで後期高齢者が増え続けるのに対し、かつて若者を都会に出す側だった過疎地ではもう後期高齢者が減少し始めており、医療福祉負担の実額やマンパワーが減り始めているのです。その分を子育て支援に有効に回せれば、子供は再度増え始めます。

そもそも人間のDNAは数万年単位でも変わらないものでありまして、つい数世代前までどんどん生まれていたこともが急に生まれなくなったのは、体や本能が変わったのではなく環境が変わったからにすぎません。環境が昔に戻れば、本来のDNAのポテンシャルが再発動するのです。

中村 出生率もそうですが、そもそも若者が結婚しない、またそれ以前に、恋愛したがらないという社会傾向も起きています。

藻谷特任顧問 出生率の高い市町村や沖縄県などでは、「女性が必ず結婚して2人ずつ産む」というようなことが起きているわけではありません。それどころか沖縄は母子家庭の世帯が多いのです。3人以上の子供を産む人がいるので、結果として出生率が2になるのです。全員右にならえでやるのではなく、育てられない子供を生んでしまう一部の母親を支える体制ができてこそ、出生は増えます。

先進国では唯一少子化していないフランスでは、結婚せずに子供を産む人が多数派です。事実婚が当たり前に行われている社会という点で、フランスも沖縄も似ています。結婚にこだわらなくても安心して女性が子供を産むことができ、子育てができるような社会環境を整備する取り組みが求められるのではないでしょうか。(続く)

藻谷浩介(もたに・こうすけ) 1964年山口県生まれ。東京大学法学部を卒業後、1988年日本開発銀行(言日本政策投資銀行)入行。94年ロンビア大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。2012年から日本総合研究所主席研究員、日本政策投資銀行地域企画部特任顧問(非常勤)。平成の大合併前の全国3200市町村、海外94カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などについて精力的に研究し、執筆、講演活動を展開している。著書に『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(KADOKAWA、2010年)、『里山資本主義』(KADOKAWA、2014年)、『しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社、2014年)、『和の国富論 観光立国の正体』(新潮社、2016年) など。近著に『世界まちかど地政学 90カ国弾丸旅行記』(毎日新聞出版)。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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