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[連載]観光立国のフロントランナーたち 三重県 鈴木英敬知事(3)

2017/03/30
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。2016年の伊勢志摩サミットの舞台となった三重県の鈴木英敬知事を招いた対談の第3回は、三重県の魅力を掘り起こします。伊勢神宮が鎮座する三重県には日本人の精神文化の原点が残っているとの考えで一致しました。知られざる三重県の魅力を再認識する内容です。

新旧の融合と目に見えない日本の文化の聖地

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中村  昨年5月20日のポストサミットで松阪地区を訪問して、大台町や多気町などを県や各市町村の職員さんとともに視察をさせていただきました。その時、驚いたのは三重県の広さや多様性でした。他の都道府県にはない魅力が三重県にはありますね。

鈴木知事 その一つは、対照的なものが共存している県というところです。伝統的なものと非常に新しいイノベーションを駆使したものの共存、あるいは動と静の共存といったものがあるんです。伝統的な日本人の心のふるさとと呼ばれる伊勢神宮のような日本の伝統がある一方で、イノベーション(技術革新)を駆使したF-1日本グランプリが開催される鈴鹿サーキットがあります。

もう一つの魅力は、目に見えない日本の文化の聖地であるという点です。日本人が大切にしてきた心の部分を育んできたものが数多くあります。伊勢神宮を中心とする神道は宗派や人種、性別、世代を超えて寛容に受け入れています。日本人の心の素地といえるでしょう。

また、俳聖・松尾芭蕉は伊賀の出身です。「奥の細道」の旅の中で見出した「不易流行」という言葉は、守るべきものは守り、時代に合わせて変えるべきものは変えるということです。これも日本人が大事にしている部分です。

江戸後期の国学者・本居宣長は松阪の出身です。「古事記伝」を著し、鎖国から開国に向かう時代に日本人のルーツは何たるかを説き、源氏物語の研究で、「もののあわれ」という移ろう四季や人の感情、日々の暮らしなどをありのままに受け入れ、それを美しいと感じる日本人の感性を明らかにしました。

また、熊野信仰にある「よみがえり」も日本人の心の原点です。もう一回再生して頑張っていこうという日本人の心の要素が詰まった場所であることが一つの観光の魅力だと思っています。

中村  確かに日本人の精神文化に大きな影響を与えた場所が存在し、さらに日本人の精神文化を体系化した人物を輩出していますね。

鈴木知事 もう一つは、ありきたりかもしれませんが「自然」です。三重県民に「三重県のどこが好きですか」と聞いたら、「自然」と答える方が最も多いんです。県民が誇りに思い、大事に思っているものは何と言っても自然なんです。

例えば、菰野町(こものちょう)に御在所ロープウェーがあります。これは日本一高い鉄塔が建っているロープウェーです。御在所は、紅葉や雪氷が美しく、その先に四日市のコンビナートが見えるんです。美しい自然とともに人間が作った造形物の夜景のコントラストが非常にきれいなんです。

2020年を目標にインバウンド対応を計画的に実施する「国立公園満喫プロジェクト」に伊勢志摩国立公園が選定されましたが、その中に天空カフェという英虞(あご)湾に浮かぶ島々を一望できるカフェを整備しますが、遠くに四日市のコンビナート群が見えて、夜景がきれいなんです。自然の美と人間が作った美のコントラストを楽しむことができるんです。

国立公園満喫プロジェクト 2020年の訪日外国人旅行者数を4000万人達成に向けて政府が策定したプロジェクト。国立公園のブランド化を目指し、8カ所の国立公園で訪日外国人を引き付ける取り組みを計画的、集中的に実施、日本の国立公園を世界の旅行者が長期滞在したいと憧れる旅行目的地にする。選定された国立公園は、伊勢志摩のほか、阿寒、十和田八幡平、日光、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島

201703301334_2.jpg英虞湾のパノラマが楽しめる「天空カフェ」が整備される伊勢志摩国立公園(環境省提供)

「持続可能なシステム」「エコロジカルの聖地」…新たな観光資源に

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中村  自分が感じる三重の魅力というのは、戦国時代以前の古い時代の原風景が、自然と人間の文化を重層的に積み重ねて、しかも、断絶せずにつながっているところではないかと思うんです。日本のほとんどの地域は、応仁の乱、そのあとの戦国時代からできた町がほとんどです。内藤湖南は、応仁の乱より前の日本は違う国だと言っていました。三重県はそんな江戸時代の文化よりもっと古いものが残像として残っているのではなくて、そのまま残っているんです。

鈴木知事 おっしゃる通りですね。伊勢神宮の大宮司が「伊勢神宮は古くて新しい場所です」とよくおっしゃるんです。いま、中村社長がおっしゃっていただいたような要素が三重県にはあると思いますね。

中村  伊勢神宮の遷宮というシステムでは、単に社(やしろ)を建て替えるのではなく、そのシステムが世界とともに変わっていく。いろいろな宝玉や宮大工の技術、しきたりなどが途絶えないようにしている。次の遷宮に向けてヒノキ材を神宮の森で育て、植樹する。持続可能性がある。それもものすごい長いスパンで貫流しています。その説明をうかがった時は大変感銘を受けました。

鈴木知事 遷宮で使う柱は、最初の20年間神宮の内宮正殿の棟持ち柱として使われた後、内宮の宇治橋の鳥居として20年間使われます。次にまた桑名市にある七里の渡しの鳥居と、関(亀山市)の東の追分の鳥居として20年間使われます。最低60年間は再利用されるシステムが残っています。

中村  100年後、200年後を考えてやってらっしゃるんですよね。

鈴木知事 そうなんです。今回の遷宮では神宮林の木が2割ぐらい使われたのですが、100%神宮林にするにはあと100年ぐらいかかるんです。これには試行錯誤があります。明治から大正時代にかけて、近代化の中で燃料にするために神宮の木を切ってしまった時期がありしました。大火事があったり、木がないために大雨による山崩れ被害を受けたりして、「これではいけない」と大正7年ごろから植林を始めたんですね。人々の生活の中で迷いが生じたり、間違ったことをしてしまったりしましたが、もう一回反省して、持続可能なサイクルのシステムを作り上げた歴史もあります。それは本当に誇るべきものです。先人たちに感謝します。

中村  修学旅行や教育旅行で三重県を訪問するケースが以前に比べて減っているということを嘆いている関係者がいました。伊勢神宮だけじゃなくて、もっと高い視点で、エコロジカルな聖地としての存在感をアピールしたら面白いと思うのですが。

鈴木知事 おっしゃる通りですね。そういったストーリーは、個人旅行で訪問される方にヒットすると思います。表層的に見て終わり、聞いて終わりではなくて、その深いストーリーを体感するような仕掛けが必要ですね。

中村  海女の話もそうですね。

鈴木知事 海女は全国で約2000人いるのですが、そのうちの半分は三重県の鳥羽と志摩にいるんです。例えば、地区によってルールが違うのですが、一家に3人海女がいても、ウェットスーツは1着しか認められないこともありました。なぜかというと、みんなが着たら、すぐたくさん潜ってたくさん獲ってしまうからです。一家に一着であったり、潜るのは1日2時間までと決めたり、なるべく獲る場所も7つくらいに分けて、はじめはここ、次はここ、次はここと両の期間を違う場所で獲るようにする。そういう形で資源管理をやってきたこと。また、昔から船上の夫が海に潜る妻の命綱をもって安全を守るという、夫婦の役割分担がありました。そういった生活文化も過去から受け継いだ大切な財産なんだと思います。

中村  分野こそ違えども同じ思想ですね。まさに持続可能性です。(続く)

鈴木英敬(すずき・えいけい) 1974年生まれ。東大経済学部卒業後、98年通商産業省(現経済産業省)入庁。2009年三重2区から衆議院選挙に立候補するも落選。2011年4月三重県知事に就任。2015年4月に再選し、現在2期目(現在も現役最年少知事)。内閣府少子化危機突破タスクフォース構成員、全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長などに就任。家族はシンクロナイズドスイミング五輪メダリストの妻・武田美保と一男一女。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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