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[連載]観光立国のフロントランナーたち 三重県 鈴木英敬知事(2)

2017/03/21
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。2016年の伊勢志摩サミットの舞台となった三重県の鈴木英敬知事を招いた対談の第2回では、思い出に残る旅行についてうかがいました。人と人との出会いを生んだ旅行経験を踏まえ、県民一人ひとりの「おもてなし」の精神を醸成することが大事だと説いています。

県民のアイデンティティを確立する機会になったサミット

201703211331_1-300x0.jpg中村 伊勢志摩サミットはある意味、一過性のイベントですが、この経験は外国人を含む三重県の観光客を増やす新しい基盤になるのではないでしょうか。

鈴木知事 本当にそうですね。サミットの際には、300人くらいの外国語案内ボランティアに手伝ってもらいました。サミットの開催に合わせて、G7各国の高校生が集まる「ジュニアサミット」が桑名市を主会場に開催されましたが、そこに携わってもらったボランティアの皆さんは、最初は知らない同士だったのですが、サミット終了後、桑名市をインバウンドで盛り上げるためのボランティア連絡協議会を組織して、子供たちへの英語教育や外国人が訪問した時のサポートをするボランティア活動を始めています。サミットに関わって、「もっと、この地域をよくしたい」というネットワークが生まれています。これは非常にいいことです。

誇りやアイデンティティを大事にする住民ほど一生懸命地域づくりに頑張ってくれると思います。サミットを、三重県に新しいアイデンティティを与え、それを確立する機会にしたいと私自身思っていたんですが、その通りになっていると思います。

三重県というと、伊勢神宮や鈴鹿サーキットなどを思いつく人が多いと思いますが、それだけではなく、G7伊勢志摩サミットで各国首脳が日本の精神文化の中心地であることに感銘を受けたところにもなりました。サミットは次につながる有形無形のものを地域にもたらしてくれました。

中村 観光地を訪れると、地元の方々との素敵な出会いや触れ合いができるとリピートにつながります。サミットで培ったボランティアの精神は将来の大きな成果につながるのではないでしょうか。ところで、知事ご自身も旅行がお好きと聞いていますが、そんな経験をされたことがあるのでは。

201703211331_2.jpg桑名市で行われたG7ジュニア・サミット=2016年5月

「もう一度行きたい」思いにさせた2つの旅行

鈴木知事 一番印象に残っている旅というのは国内と国外に2つあります。
実は、坂本竜馬をはじめ幕末の時代背景が大好きなんです。それで、結婚する前に竜馬ゆかりの地を一人でめぐる旅をしていました。長崎に旅行したときのことです。竜馬が作った日本最初の会社と言われる亀山社中の史跡や風頭公園を見に行ったんです。

長崎行ったら、ちゃんぽんを食べるわけですね。そこで、本で探して、シンガーソングライターのさだまさしさんが常連だというちゃんぽん店に行ったんです。店にはぼくひとりだけでテレビのプロ野球中継を見ていました。すると、知らないうちに男性が入ってきていて、話しかけてきたんです。

「あなた、どこの方ですか」「いや、あの東京で働いています」「で、今回何しに長崎に来たんですか?」「幕末が好きで…」とやりとりをしていると、その男性が長崎大学の経済学部長さんだったんです。当時、私は経済産業省に勤めていたので、経済の話で盛り上がりました。「じゃあ今から居酒屋に行こう」ってはしごをして、そこで郷土の愛するものを説明してもらいました。

旅の動機はいろいろあると思いますが、人との出会いやおもてなしなどいい思い出があると、あそこに行こうという動機づくりになります。三重県にももっとそういうのがあって、観光事業者だけが観光なのではなく、みんながいいといえるものがあるべきだと思います。

県民一人ひとりの「おもてなし」がリピーターを生む

201703211331_3-300x0.jpg中村 海外での旅行というのは。

鈴木知事 大学の卒業旅行でトルコに行ったときのことです。アンカラ大学の日本語学科に勤める方がカッパドキアに観光する際、ガイドとしてついてくれたんです。その時は、大学のサークルの同級生と一緒に行ってたんですか、カッパドキアの一番高いところまで登りました。頂上に着いて、そこに立っていたトルコの国旗を2人で持って「将来、一番になるんだ」という約束みたいなものをして別れました。これも人との出会いになりますが、共感できる人がいる場所というのは心に残り、もう一回行きたいと思いました。

県民の皆さん全員がおもてなしの精神で接して思い出づくりを手伝えるようなことができればいいですね。別に背伸びをする必要はなく、三重県の人たちの一番いいところは人柄ですから、みんながそれを意識できれば、もっとよくなるんじゃないかなって長崎とトルコの旅行を通じて思いましたね。

中村 対価を超え、求められているものを越えたおもてなし、人のハートというものはずっと記憶に残ります。インバウンド(訪日外国人観光客)の誘致でも、2016年夏くらいから、団体旅行からこのFIT(個人観光客)へと劇的に変化しました。ある意味、MICEという領域を除けば、これからはFITが中心になっていきます。プロのおもてなしだけではなく、まさに知事がいわれたような市民の皆さんがオープンマインドで、旅人を見つけたら「よく来たね」ともてなす文化になっていくといいですね。

鈴木知事 そうですね。サミットでは、市民の皆さんにもテロ対策を手伝ってもらおうと、テロ対策三重パートナーシップ推進会議を18の警察署管内全部に立ち上げて、自治会や市民の皆さんに入ってもらいました。このテロ対策によって、不審者情報を空振りでもいいから、たくさん集めることができます。「あそこの駐車場にあんな箱は置いてなかった」「うちの建設現場にはあんな車停まってなかった」「隣の空き地にはあのドラム缶なかった」というささいな情報が大事なんです。地域の一番安全な状況は地域住民が一番よく知っていますからね。

食べ物でも松阪牛やイセエビ、アワビは目立ちますけど、アオサの生産量は三重県が日本一です。食物繊維がたくさん入っている海藻をたくさん食べる習慣があるので、三重県はBMI(肥満度指数)が全国で男女とも一番低いんです。日常の中に光っているものがあります。松阪牛もすき焼きではなく、あえてホルモンを食べてもらうのもいいんです。煙がモクモクする中で市民の皆さんが食べているようなものなどありのままの魅力を伝えることが非常に実は楽しい旅になるんじゃないかなという風に思いますね。(続く)
 

鈴木英敬(すずき・えいけい) 1974年生まれ。東大経済学部卒業後、98年通商産業省(現経済産業省)入庁。2009年三重2区から衆議院選挙に立候補するも落選。2011年4月三重県知事に就任。2015年4月に再選し、現在2期目(現在も現役最年少知事)。内閣府少子化危機突破タスクフォース構成員、全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長などに就任。家族はシンクロナイズドスイミング五輪メダリストの妻・武田美保と一男一女。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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