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[連載]観光立国のフロントランナーたち 三重県 鈴木英敬知事(1)

2017/03/13
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。今回から2016年の伊勢志摩サミットの舞台となった三重県の鈴木英敬知事が登場します。主要国のリーダーが集う伊勢志摩サミットが開催され、三重県は世界的にも大きな注目を集めました。サミットのレガシーをどう生かし、今後の観光戦略につなげるのか、お考えをうかがいました。

伊勢志摩サミットが残したレガシー

中村 2016年は三重県で伊勢志摩サミットが開催され、大成功を収めました。13年の伊勢神宮式年遷宮の年にも増して三重県を観光などで訪れた方々が増えていると聞いています。サミットが残した「レガシー(資産)」はどういうものだったのでしょうか。

伊勢志摩サミット 2016年5月26、27日の両日、三重県志摩市の賢島で開催された第42回主要国首脳会議の名称。日本のほか、フランス、米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダの7カ国の首脳やEUの欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加。世界経済や政治・外交問題などについて議論した。G7伊勢志摩首脳宣言では、G7伊勢志摩経済イニシアチブがまとめられた。公式行事として、首脳らは伊勢神宮を訪問したほか、ランチやディナーでは三重県産の食材で作られた料理がふるまわれた。

201703131732_1-300x0.jpg鈴木知事 サミットによって有形無形にもたらされた影響をとらまえますと、まず3つぐらいあると考えています。まず一つは、やはり、知名度などが向上し、それによって観光客が増えたという点です。もう一つは、会議自体の成果です。例えば、首脳宣言にまとめられた女性の活躍などのコミットメントがG7伊勢志摩経済イニシアチブとしてまとめられました。そして、3つ目は、地域全体の総合力が向上したというところだとおもいます。

中村 なるほど。サミット開催前に開催されたフォーラムに私が参加させていただいた時、「レガシーというのはそのかかわる人たちの明確な意図、意思なくしてはレガシーというのは生まれない」という話をしましたが、そういった点で「地域の総合力」が向上したということですね。そのお話は後でうかがうとして、まず、第一点に挙げられた知名度の向上というところは、どういった分析をされているのでしょうか。

鈴木知事 一点目の知名度の向上によってもたらされた最も顕著なものは、延べ宿泊者数の伸びです。2016年の宿泊者数は約1003万人と初めて1000万人を突破しました。13年の式年遷宮の時が969万人を大きく上回りました。対前年の伸び率は沖縄についで全国で2番目でした。

加えてなのですが、サミット開催をきっかけにマスメディアが三重県を紹介した効果を広告換算で計算したところ、なんと3098億円という結果でした。これは、08年に北海道で開催された北海道洞爺湖サミットの1013億円の3倍になります。特に海外メディアでの紹介が多く、海外分だけで約1874億円でした。分析すると、特に中国や台湾、香港といったG7の国以外の国・地域でのインターネットメディアによる情報発信が非常に多かったんです。それからテレビメディアは米国が非常に多かったです。その結果というか、インバウンド(訪日外国人観光客)も大幅に増えています。

中村 2つめに挙げられた会議の成果というのは。

鈴木知事 G7伊勢志摩イニシアチブを含むG7伊勢志摩首脳宣言にあらゆる分野の女性の活躍ということが盛り込まれ、発信されました。そこで、女性活躍の取り組みを三重県としても行おうということで、このテーマによる国際フォーラム「ウィメン イン イノベーション サミット2016」を昨年9月に開催しました。また、実は、認知症のことも首脳宣言に盛り込まれているので、「認知症サミット in Mie」を四日市市で開催しました。国際会議の開催件数は16年で4件を目標にしていましたが、結果として17件開催されることになりました。

中村 いわゆるMICE(会議や招待旅行、学会、展示会などのイベント)のインパクトを県民のみなさんが実感され、そのノウハウが蓄積されたということも一つのレガシーかもしれませんね。

MICE(マイス)  Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字で、多くの集客が見込めるビジネスイベントをという。一般の観光旅行に比べて、参加者の消費額が大きく、国際会議などでは海外からの誘客も期待できることから、各自治体が誘致に力を入れている。

鈴木知事 おっしゃるとおりです。特にMICEについては、国際的な統計では訪日した人が平均で使うお金は30万円くらいといわれています。昨年、観光庁が出している、宿泊統計、訪日の消費動向調査では、だいたい1人15万円でしたが、その2倍にもなります。海外からの観光の旅行ですと、為替などに影響されますが、国際会議はもう何年も前から決まっていますので、その意味では需要を確実に見込めます。

でも、最初はみんな半信半疑だったんです。伊勢志摩サミットをやって、さらに国際会議をたくさん誘致しようと呼びかけても「うちにそんなでっかいコンベンションホールもないのに。知事、そんなん無理やさぁ」って言う人も少なくありませんでした。

実は日本で、国際会議の開催されている施設トップテンのうち8つは大学です。いま世界の国際会議の8割が500人未満なので、ホテルや大学、あるいはユニークベニュー(歴史的建造物などの特別な印象を与えられる会場)として神社、仏閣を使ったものが大部分を占めています。三重県としても伊勢志摩サミットを開催して「国際会議をやれる場所だ」という認知が高まったと思っています。

世界に発信されて伊勢神宮と海女

201703131732_2-300x0.jpg中村 コンベンション都市として売り込むには、会議の充実ということもさることながら、アフター・コンベンションといいますか、スタッフや同行したご家族などが、そのあとも楽しめるところが三重県は豊富にあります。

鈴木知事 そうですね。特に注目を浴びたのは2つです。一つは伊勢神宮です。G7首脳が伊勢神宮を訪問されましたが、メルケル首相が特に喜んでおられました。安倍晋三首相に「日本の強さの源泉を見た。シンゾウ、ありがとう」という言葉を残されました。伊勢神宮が各国に発信され、参拝客数も昨年は過去4番目に多かったですし、前回の1993年の式年遷宮よりも多い数になりました。

あとは海女(あま)さんですね。1月に国の審議会で、「鳥羽・志摩の海女漁の技術」が国の重要無形民俗文化財に指定答申され、3月3日付の官報告示により正式に国重要無形民俗文化財になりました。今後、県ではユネスコの無形文化遺産登録を目指していきます。海女は日本書紀にも書かれています。また、獲りすぎないよう資源管理もずっとやってきました。女性の活躍という視点もあり、伊勢志摩サミットを契機に海外メディアからの取材は増加傾向にあります。エクスカーションでの小旅行で行くような場所としての伊勢神宮や海女に対するこの注目度が高まってますね。

私たちもプレスツアーをサミット前までに22回開催し、36カ国地域の皆さんに来ていただきました。そこも試行錯誤で、最初の方は記事にならなかったものも多かったんです。例えば海女でも海女のかっこうだけを見せるのではなく、やはり資源管理や女性の活躍、夫婦間の役割分担といった深い情報を提供することで、より記事に取り上げられ、仏ルモンド紙にも書いてもらいました。国際会議を開催するためのバリエーションとして、まあいろんなメニューがあるということが認知されたということは非常に大きかったと思いますね。

201703131732_3.jpgG7伊勢志摩サミットに合わせて伊勢神宮で行われたG7首脳による記念植樹。一番左が鈴木知事=2016年5月26日

中村 成果の一つは、伊勢志摩が食の宝庫だということを世界的に認知してもらえたことではないでしょうか。

鈴木知事 そうですね。首脳会議や配偶者プログラム、国際メディアセンターで三重県産の食材などが少なくとも269品目使用されました。特にその後、大ヒットしたのが日本酒なんですね。三重県には35の酒蔵があるんですが、サミットでは8つしか使われてないんです。しかし、サミット後も含めて昨年の日本酒販売額は対前年約10%伸びています。銘柄によっては1年手に入らないというものもあります。三重の酒全体が伸びたということは、今後日本酒の輸出を進めていくにあたって非常によかったのかなと思っています。

ワーキングディナーでは、伊勢海老のクリームスープが首脳には好評でしたが、それだけではない仕掛けもしました。松阪牛のステーキの横に三重県産のワサビを添えています。三重県では、ワサビを作っている農家がわずかしかありませんが、大台町(おおだいちょう)というところで栽培しています。それがもう全く手に入らない状況になってしまいました。

中村 自分たちが作っているものが、世界の人に喜ばれる水準のものなんだとプライドと言いますか、郷土への誇り。県民のみなさんにとって大きなレガシーになったのではないでしょうか。

鈴木英敬(すずき・えいけい) 1974年生まれ。東大経済学部卒業後、98年通商産業省(現経済産業省)入庁。2009年三重2区から衆議院選挙に立候補するも落選。2011年4月三重県知事に就任。2015年4月に再選し、現在2期目(現在も現役最年少知事)。内閣府少子化危機突破タスクフォース構成員、全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長などに就任。家族はシンクロナイズドスイミング五輪メダリストの妻・武田美保と一男一女。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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