Logo sec

進化するアニメの“聖地巡礼”…地元はファンや痛車を歓迎、街おこしの新しい原動力に

2017/03/04

ファンがアニメのモデルとなった場所を巡る“聖地巡礼”。最近は国内外で大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」でも注目を集めたが、こうした「聖地」を観光振興につなげる動きが全国で進んでいる。過去にも「らき☆すた」で知られる埼玉県久喜市の鷲宮神社や「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)の茨城県大洗町など、聖地を生かした街おこしの成功例は多い。テレビアニメ「咲-Saki-」の舞台で世界遺産の吉野山がある奈良県吉野町では1月、「全国アニメ聖地巡礼サミット」が開催され、大勢のファンとともに、キャラのステッカーを車全体に貼った自慢の「痛車(いたしゃ)」も集結した。高校3年から自他共に認めるオタクな記者もサミットを訪ね、聖地にまつわる現状を探った。(神田啓晴)

聖地巡礼とは

実は、“聖地巡礼”経験は初めてではない。中国に留学中だった23歳のとき、神戸市の実家に帰省ついでに当時一大ブームを巻き起こしていた「ガールズ&パンツァー」の聖地、大洗町を巡礼したことがある。

201703031649_1.jpg茨城県大洗町を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」のキャラクターをあしらった列車=2016年4月、大洗町の大洗駅

大洗駅に着くと、景色がアニメとほぼ同じであることにまず感動。売店にはガルパンのクリアファイルやキャラのストラップなどのグッズも販売されていて、さらにテンションが上がった。

鹿島臨海鉄道の車両はガルパンキャラでラッピングされており、商店街を訪ねると店主たちがキャラクターのステッカーをプレゼントしてくれた。まさに、街をあげて地域振興にガルパンを生かしていた。

銭湯に行けば、主人公・西住みほらが入浴するシーンのパネルまで。ファンとしては「アニメの世界に入り込んだみたい」とうっとり。これこそ、聖地巡礼の醍醐味(だいごみ)なのだろう。

何より、街全体がアニメを愛してくれているような様子はすごくうれしかった。
「この場所はきっと、あのシーンで戦車が走っていたところだ」などと、街のあちこちで見る風景すべてが想像を膨らませてくれる。「作品を現実世界でも楽しめる」ことは、画面を眺めているだけでは得られない感動だった。

アニメの聖地巡礼は「らき☆すた」から始まった

昨年8月の公開から240億円以上の興行収入を記録し、韓国や中国でも大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」では、作品の舞台となった岐阜県や東京都に海外からも多くの“巡礼者”が訪れている。そもそも、アニメの聖地巡礼はいつ頃から始まったのだろう。

アニメなどのコンテンツを生かした地域振興を研究している奈良県立大の増本貴士特任准教授(41)は「平成19年にヒットした『らき☆すた』が注目を浴び始めたきっかけでは」と指摘する。

「らき☆すた」は19年4~9月にテレビ放映されたアニメ。アニメやゲームが好きなオタクの主人公・泉こなたら4人の女子高生を中心としたほんわかとした雰囲気の、いわゆる「日常系アニメ」だ。

メインキャラクターの柊かがみ、つかさ姉妹は神社の娘だが、そのモデルとなったのが埼玉県久喜市に実在する鷲宮神社。アニメ放送後の正月三が日は参拝客が通常の倍以上の30万人となるなど、聖地として一躍有名になった。

キャラが描かれたみこしが作られたほか、当時の鷲宮町も「特別住民票」を発行。ファンと地域住民が街を盛り上げた。

増本准教授は「らき☆すた」の聖地を生かした街おこしが成功した理由にまず、「埼玉は東京からアクセスがよく、中央のマスコミも取り上げやすかった」点を挙げた。さらに、「地元民が作品に偏見を持たず、真摯(しんし)に理解しようとした姿勢も成功の秘訣(ひけつ)」と評価する。

当時、高校3年生だった記者もリアルタイムで作品を見ていたが、そういえば神社がたびたびテレビで取り上げられていたことはよく覚えている。

だが、聖地巡礼にも失敗例はあるという。増本特任准教は「『これだけやればオタクが来るだろう』と、金もうけを念頭においた取り組みはダメ。お金のにおいが強いことに、オタクは敏感ですから」。作品への理解が不足したままイベントを開催するより、「ファンの気持ちを踏まえた街おこしの方が長く続く。自然なことでしょう」と話す。

放送から5年後も続くファンと聖地の絆

201703031618_1-300x0.jpgアニメ「咲-saki-」の原作にも登場する金峯山寺銅鳥居前=奈良県吉野町

女子高生がマージャンの全国大会(インターハイ)で優勝を目指し奮闘する姿を描き、24年にテレビアニメ化された漫画「咲-saki-阿知賀編(あちがへん) episode of side-A」。山深い奈良県吉野町が、その聖地だ。

ヒロイン、新子憧(あたらしあこ)が住む神社のモデルは世界遺産・吉水神社。松実姉妹の実家「松実館」のモデルは創業約300年の温泉旅館「さこや」-と、地元にゆかりの場所が次々登場。現地を歩けば、作品のさまざまな場面が思い浮かぶ。

「さこや」を訪ねると、館内には咲グッズを並べた「咲-saki-ルーム」も。原作本やポスターカレンダー、フィギュアが所狭しと並び、訪れたファンたちが感想などを書く「交流ノート」は感激のメッセージで埋められていた。松実姉妹の誕生日の8月と3月には“誕生日会”も開かれるという。

さこやの女将(おかみ)、大村成子さん(80)によると、聖地巡礼はアニメの放送開始に伴い始まった。漫画もアニメも知らなかったという大村さんは「こんな世界もあるんやな、すごい熱意やな」と最初は驚いたという。

201703031618_2-300x0.jpg麻雀アニメ「咲-saki-」の舞台となった奈良県吉野町の旅館「さこや」の館内には、麻雀台やアニメのポスターカレンダーが

だが、「ファンはマナーもええ人ばっかりやし、吉野のことも好きになってくれたから、それで街おこしにも繋がってくれるとええな」と好意的だ。実は、巡礼の末「さこや」で住み込みバイトを始めたファンもいるという。

確かに、さこやは作品で見た風景そのまんま。「ここで玄ちゃんと宥姉が暮らしていたのかな。時間あったら温泉も入りたかったな…」。そんなことを思いながら写真を撮っていると、大村さんから「あんたも『咲』、好きなんか」と突っ込みが。マージャンを始めたきっかけは「咲」だったし、アニメも原作も大好きだと明かすと、「咲のファンは大歓迎や。また、みんな集まるときは呼んだげるわ」とうれしい一言をいただいた。

世界遺産の吉水神社も、佐藤一彦宮司(75)自らがファンと一緒にヒロインたちの全国大会必勝祈願を行うなど、ファンにとって大切な聖地だ。境内に入ると、普通の絵馬掛け所とは別に、ヒロインが描かれた“痛絵馬”が掛けられた場所があった。

聞けば、佐藤宮司も原作を読んで愛犬のトイプードルを「憧ちゃん」と名付けたという。「『マンガなんかのために』という人がいるかもしれないが、人に勇気と希望を与える神社でありたい。町や県も、アニメでの地域活性化に積極的に協力してほしい」と話す。

吉野での「全国アニメ聖地巡礼サミット」にはあの白石涼子さんも来場!!

そんな聖地を観光資源として生かした地域振興を考える「全国アニメ聖地巡礼サミットin吉野」が1月22日、吉野町で開催され、約600人が参加した。会場は、旧吉野小学校を改修した吉野山ふるさとセンター。開会式には北岡篤町長も参加、地域を挙げてファンを歓迎した。

増本准教授も基調講演。富山県を舞台に女子中学生の日常を描いた「ゆるゆり」のイベントでは1600人が集まり、1700万円もの経済効果があったことを紹介し、「制作者、ファン、地域住民がお互いを尊重し、ウィンウィンの関係を築くことが大事」と指摘。「聖地巡礼を通じてファンが特産品を知ることで地域振興につながったり、地元住民が作品を理解することで持続的な取り組みが可能となり、制作者も協力しやすくなる」と、聖地でのイベント成功のポイントを解説した。

山に囲まれ、決してアクセスが良いとはいえない会場だったが、アニメキャラのステッカーを車に貼り付けた「痛車」約20台も全国から集結。松実姉妹やマージャンパイのステッカーを貼り付けて自作した痛車を東京都檜原(ひのはら)村から1人で運転してきたというアルバイトの男性(20)は「聖地に痛車を置きたいと思って参加した。奈良は3回目ですけど、やっと車を見せられてうれしい」と疲労の色もなく、興奮した様子だった。

201703031142_1.jpg松実姉妹のステッカーで彩られたワゴンR(手前)など、ズラリと並んだ痛車。ファンの思いが伝わってくる=奈良県吉野町(一部画像処理しています)

岡山市から泊まりがけで参加したという男性会社員(46)の痛車は、ヒロイン、片岡優希の特大ステッカーを貼ったかなり手の込んだワゴン車。「工賃」を聞いてみると、「これぐらいですかね」と指を3本立ててみせた。「前の車は給料2カ月分くらいかかりましたよ」とサラリと答える姿に、キャラへの強い愛を感じた。「吉野には、泊まりでも絶対来たかった。世界遺産もあるし、また新たな聖地巡礼のリピーターが出てくるといいですね」

イベントには、奈良県香芝市出身で染谷まこ役の声優、白石涼子さんも参加していた。実は、記者はアニメ「ハヤテのごとく!」の綾崎ハヤテで白石さんを知って以来の大ファン。取材を申し込むと10分間だけインタビューが許可された。

201703031649_2.jpg「アニメを見て聖地巡礼することで地域も盛り上がるといいですね」と話した白石涼子さん=吉野町

吉野に初めて泊まったという白石さんは「私自身、吉野葛とか利休鍋を食べて、地元の名産品を知ることもできた。吉野は歴史も世界遺産もあって、アニメを入り口に訪れるのもいいですよね」といい、「今日は北海道、沖縄から来てくれた人もいた。聖地巡礼は、街の活性化にきっと貢献できる」と話してくれた。

たくさん聞きたいことがあったはずなのに、あこがれの人を前に人生最高潮なぐらい緊張。お礼を述べて退席しようとすると、「今日はありがとう」と握手までしてもらえ、「もう一生手は洗えない」と真剣に思うほど感動した。

「咲-saki-阿知賀編」は放送から5年になり、ファンによる巡礼ブームも落ち着きを見せ始めている。だが、今回のようなイベントがあれば、大勢のファンがやはり吉野に駆けつける。サミット前日には、30人近くのファンが「さこや」で一夜を過ごしたそうだし、持続的に巡礼を続けているファンもいる。制作側、地元住民、ファンがともに歩み寄り、末永く付き合うことが、聖地巡礼を本物の地域振興につなげる鍵なのかもしれない。

あわせて読む

奈良県

もっと見る
「奈良県」の記事をもっと見る

アニメ

もっと見る
「アニメ」の記事をもっと見る

オタク

もっと見る
「オタク」の記事をもっと見る

キャラクター

もっと見る
「キャラクター」の記事をもっと見る