Logo sec

カジノとの差別化に注目集まる遊技産業 ファクトデータや社会対応からその実態に迫る

2017/02/24

カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置に向けた法整備を進めるため「IR推進法」が成立するなど、カジノ実現に向けた動きが本格化している。この動きと連動し、日本の伝統的な娯楽である遊技(パチンコ、パチスロ)の位置づけやカジノの違いがにわかに注目され始めた。しかし、最近の遊技産業をめぐる報道などは、この産業の姿がほとんど理解されていない、という実態を浮き彫りにしている。では、遊技業界の実像とはいかなるものなのか。折しも、フジサンケイビジネスアイがレジャー産業面を創設してまもなく5年。これを記念し、これまでの報道で得た知見をベースに、産業としての“遊技”に迫る。(青山博美)

売上高にひそむ死角

201702201109_1-300x0.jpgシンガポールのカジノを含む統合型リゾート(IR)施設のマリーナ・ベイ・サンズ(ブルームバーグ)

そもそも遊技産業とはいかなるものなのか。いわゆるパチンコ業界のことではあるのだが、厳密にはパチンコ、パチスロそれぞれに遊技場としてのホールや遊技機メーカー、機器の商社、周辺機器メーカーなどで構成されている。このうち、中核をなしているのはパチンコホールだ。

全国に1万1300店あるホールの売り上げ規模は、22兆3000億円と推計されている。ただ、この数字は扱いが難しい。

最近でも「パチンコ産業の売り上げは世界のカジノの売上とほぼ同じ」という報道や有識者の発言が相次いだ。しかもそれらの多くは「カジノこそなくとも、それほど巨大なパチンコ産業が形成されている日本は、すでにギャンブル大国だ」という論法になっている。

実は、ここに出てくるパチンコホールの売上高は、プレーヤーが遊技のために借りた玉やメダルの合計額だ。パチンコは、制度の上ではギャンブルではなくレジャーに分類されている。このため、玉を借りて遊技するという部分が、プレーヤーによるパチンコという遊技サービスの消費そのものだ、と考えられている。こうしたことから、パチンコホールの売上高は貸玉料の合計額という形で会計上計上されている

これに対し、カジノの場合はプレーヤーが投じた賭け金の総合計からプレーヤーが勝ち取った金額の総合計を差し引いたものが売上高となる。つまり、両者の売上高は聞えこそ一緒でも、内容は大きく異なっているわけだ。

では、実態はどうなのか。

201702201110_1-300x0.jpg

パチンコホールの売上高から出玉分を差し引いた、いわゆる粗利なら、カジノにおける売上高と直接比較が可能だ。ちなみに、パチンコホールの粗利は、貸玉料の合計である売上高の15%程度。つまり、パチンコでは貸し玉の合計に対し、85%が出玉となってプレーヤーに還元されていることがわかる。

この、カジノの売上高にあたるパチンコホールの粗利は、昨年実績で総額3兆3200億円程度となる。これに対し、カジノ売上高の世界市場合計は2015年時点推計で22兆1000億円。そう。実態を理解した上で両産業の実力を比較した場合、パチンコ市場はカジノ市場の7分の1程度の規模であることがわかる。

ちなみに、この数字の間違った比較は、パチンコ産業をより大きく見せたい、こんなに稼いでいる、という論旨で使われることが多い。実態は前述の通りだが、これは違った視点に転ずると、カジノ産業の経済社会に対するインパクトがいかに大きいかを垣間見ることもできる。

折しも日本では、統合型リゾート(IR)の導入、整備に向けた推進法が成立。今後実施法を含むIR実現に向けた制度設計が進んでいく。その最大の狙いは経済効果にあるわけだが、遊技業よりもインパクトの大きいカジノを含むIRへの期待が大きいのもうなづける。

知られざる経済効果

そんなIRの経済効果に目を奪われがちだが、遊技産業についても地域に根差したサービス産業として、経済社会の重要な一部になっている。

例えば雇用。遊技産業が抱える雇用は大きい。パチンコホールだけでも30万人に迫る雇用者数があるとみられている。これに加えて、遊技機メーカーや周辺機器メーカー、それらの販売会社などの従業員も含めると、50万人規模にのぼるとの観測もある。これは百貨店や総合スーパー業界に迫る大きさだ。

折しも、深刻な人手不足に直面している日本では、雇用確保に対する意識は薄い。しかし、有効求人倍率や賃金に関わる統計などをひもとけば明確だが、深刻な人手不足は都市部での話。地方ではむしろ深刻な雇用不足が続いているともいえる状況なのだ。その点で、遊技産業には都市に極端な偏りがあるわけではない。地方にとって、貴重な“職場”となりうる可能性を秘めている。

地方の雇用は、経済成長期以降の工場誘致などで一息ついていた側面もあるが、製造業における工場の海外移転が進み、これに伴う雇用の減少が続いてきた。一方で、工場の閉鎖は地方の街や都市から活力を奪う結果となっている。地方からは、若年層の雇用を吸収できる産業が減少、大都市の一極集中に拍車をかける結果となっている。

半面で、地方を支えている農業や地場の産業は、後継者不足に苛まれている。若年層が住める地方。そのためには、多様な雇用の供給が必要だろう。遊技産業のもつ独特の活力には賛否両論あるものの、そのメリットの面については活用しない手はない。

これ以外にも、遊技産業がリードしている経済的な効果がある。

例えば製造業である遊技機メーカーには、いくつもの株式公開企業がある。それらのメーカーは、1980年以降の遊技機の電子化の中で、多くの電子部品を消費するようになってきた。

その種類も、半導体はもちろん液晶やマイクロモーターなど多岐に及ぶ。セキュリティーが問われる半導体については、カスタムICを使用するなど、半導体メーカーにとっても多くの恩恵をもたらしてきた。90年代のカード化時も同様だ。カードのセキュリティーには問題もあったが、プリペイドカード時代には、その用途の大きな柱にもなった。

法人税納税額という面でも、2000億円規模と大きい。これは、サービス業全体の15%弱を占めていることを示している。遊技産業は脱税が多いとよく言われる。そういう面はあてはまる部分もあり得るが、多くの事業者は他の産業と同様に正しく納税しており、その総額は少なくないといえる。

産業規模という面では、前述の22兆3000億円をとる場合、物流の21兆円弱、電気・ガスなどの約22兆円、銀行の約16兆円などよりも大きい。雇用、納税、資材などの調達といった面でも、その規模に準じたスケールとなっている。

賛否分かれるレジャー

遊技産業は、有史以来どうも不当な扱いを受けやすかったといえそうだ。

戦前からその片鱗こそあった遊技だが、現在につながる明確な系譜は戦後の焼け野原で復活したときからだろう。そのころの遊技、すなわちパチンコは、現在のものとは少し趣が違っていた。

当初のパチンコは、スマートボールなどから派生する形ではじまった純粋なゲームだった。その景品が、いつしかたばこになっていく。そのたばこは、当時の闇市では高値で売買されていた。これが現在につながっていく景品のルーツでもある。

ただ、当時は製造業を筆頭に、産業の戦後復興が最優先課題。景品のいかんに関わらず、レジャー産業は肩身の狭い状況に置かれてきた。そんな見方が定常化する中で、業界に対する要人の発言や報道にも偏向が見られるようになってきた。中でも、事件や事故に関係する遊技産業関連の報道には特徴がある。

その一つに夏場になると「パチンコホールの駐車場で車に乳幼児が長時間放置された」というニュースに触れることがある。これは由々しき事態であり、こうしたことが起きないようにしていく必要があるのはいうまでもない。ところが、こうしたニュースはいつも遊技産業が全て悪いかのように報じられてしまうのだ。

しかし、パチンコホールの取り組みをみると、そうとばかりは言えない。なぜなら、パチンコホールではこのような事故が起こらないように様々な取組みをしている。例えば、子どもの車内放置撲滅を訴えるポスターの掲示、警備員やスタッフによる定期的な駐車場の巡回と店内放送などを行っているのだ。こういうことはあまり知られていないし、報道されてもいない。

過剰な依存症問題

2014年8月に厚生労働省研究班からギャンブル依存の疑いのある人が536万人いるという発表があったが、この数字の信憑性に関して根拠が疑問と言う意見もある。厚労省は現在見直し調査中で、早ければ今年度中に新しい数値が出てくるらしい。

しかしながら、遊技業は、かねてから一部顧客の依存(のめり込み)問題が社会的に問題視されることは、大衆娯楽を提供する立場として憂慮すべき状態であり、顧客自身の自己責任として等閑視することなく、問題解消に積極的な取り組みを重ねていくことが、遊技産業の社会的責任であると考え依存症対策についても研究や対策に取り組んでいる。

たとえば、2006年に遊技関連の業界団体が一丸となって、依存症の当事者からの電話相談に応じる機関「リカバリーサポート・ネットワーク」を設立しているほか、同機関を周知するポスターをホール内に掲示。依存症問題に関するガイドラインも策定し、プレーヤーに予防対策を講じている。

その他にもチラシへ「パチンコは適度に楽しむ遊びです。のめり込みに注意しましょう」という標語を必ず入れて広く社会一般に啓蒙している。TVCMにその標語を入れる企業もある。また、各企業でNPO法人と依存問題への共同研究や、自己診断チェック表を配布したり顧客を守る活動をしていることもあまり知られていない。

パチンコ依存症は、薬物依存などと違って他人や自らの健康を直接的には害しにくい。精神科医も、治療の目標を「遊技と上手に付き合えるようにすること」に据える。何事にも依存症はあるが、パチンコ依存症の対策とは、断つことが目的ではなく、ストレス解消や気分転換に向けて上手に楽しめるようにしていくことでもある。そのあたりの理解はなかなか得られていない。

下がり続ける射幸性

パチンコ遊技はかつて、参加人口が3000万人ともいわれた一大レジャー産業だった。ところが、射幸性が高まるにつれ参加人口は減少。近年は1000万人程度で推移を続けている。一方で、産業規模はファン数の減少ほどの低迷はみられなかった。このことは、ファン1人当たりの消費、つまり客単価が上昇してきたことを意味している。

ここにきて、その流れにも陰りがみえてきた。業界はここ数年、その対策として射幸性の低減を志向。

「身近で手軽なレジャー」に立ち返る取り組みを続けていた。例えば、1個1円などの低貸玉料遊技の普及にも取り組んできた。現在では、全部または一部に「低貸玉営業」を導入しているホールは全体の90%をこえるという。

こうした中で業界を管掌する行政(警察)から指摘のあった「検定機と性能が異なる可能性のある遊技機」の問題と合わせて、業界は合計72万台もの高射幸性遊技機の回収・撤去に乗り出した。

これにより売上・利益の減少は避けられないが、パチンコファンを守るために業界は身を切る覚悟で対応したのだ。

遊技産業の賛否と存続

遊技産業は、大きな雇用、経済波及効果を備えている。にもかかわらず、社会からのバッシングを受け、ときにより存続の可否まで脅かされかねない議論の遡上にものぼる。この背景には、業界がイメージだけで判断されているという事情がある。

フジサンケイビジネスアイでは、前身である日本工業新聞の時代から20年にわたって遊技業界をエンターテインメントビジネスの提供者ととらえ、産業としての実像に焦点を当ててきた。そこで得られた業界観は、他のサービス産業と同様の企業群、というものだった。

日本の産業は、高度経済成長期のような製造業主導からサービス業への傾斜を強めてきた。今や国内総生産(GDP)の7割以上を第三次産業が占めるに至っている。しかも、消費は“モノ”から“コト”へと軸足を移しつつあるなど、日本の経済社会は、大きな転換点に差し掛かっている。

こうした中で、生活のベースとなる雇用や経済環境をどう維持していくのかは大きな課題だ。特に地方の創生は緊急の課題であり、さまざまなアプローチが求められている。そんな中で、遊技産業の活躍もまた地方の活性化に資するのではないか、という期待がある。

遊技産業は、好き嫌いも含め、賛否が問われやすい面がある。とはいえ、産業として成長し、多くの雇用を抱えている現在、その賛否を問うべき対象なのだろうか。むしろ、その活力を、経済社会の発展に生かせないものだろうか。そんな視点で遊技産業を眺める時期にきている。

もし、その存在、あるいは活動の一部でも経済社会にとって不都合があるなら、そこを正していく。そういう視点で遊技産業を育成できれば、活性化に向けた施策の幅も広がるのではないだろうか。

あわせて読む

「IR法」の記事をもっと見る

カジノ法案

もっと見る
「カジノ法案」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る