Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 日南市 﨑田恭平市長(3)

2017/01/26
201701261154_1.jpg
日本のインバウンドビジネスの開拓に奔走するジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長が訪日ビジネスの最前線を進む人々を迎え、「観光立国」実現に向けた道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。海外からのクルーズ船を誘致し、訪日外国人観光客の取り込みに成功した宮崎県日南市の﨑田恭平市長の第3回は前回に続き、民間活力を応用した日南市のまちづくり戦略について話を聞いています。

みんなで育てる「AKB方式」の街づくりを実践

中村 行政のお金で改修して民間に貸すというスキームは全国的になくはないのですが、日南市の取り組みは大変ユニークだと思います。特に地域の活性化に向けて「まちなみ再生コーディネーター」という役職を設けて、やる気のある民間企業と組んで優秀な人材を日南市に派遣してもらい、実際に赴任して住んでもらう。市の投資は最小限に抑え、彼らの取り組みを市側が見守る。そんな官民連携のパイロットケースになるのではないかと感じました。

まちなみ再生コーディネーター 日南市は2015年、古民家の老朽化と、地区住民の高齢化や世代交代によって、放置空き家が増加した城下町の飫肥(おび)地区再生のため、空き家の利活用と魅力の向上などの事業を中核となって進める人材として「まちなみ再生コーディネーター」を民間から募集した。応募条件は個人または企業で、飫肥地区に居住可能であることなど。契約期間は15年8月~18年3月末まで

201701261228_1.jpg﨑田 この事業に市が支払うのは人件費と事務経費だけです。通常、民間活力の活用という点では「指定管理制度」というやり方があります。公共施設の管理や運営を民間に委託することで、サービスの向上と経費の削減を図ることができるのですが、実施している他の自治体で、委託を受けている民間事業者などからは「施設の改修段階からかかわらせてもらえれば、もっと使い勝手のいい建物にしたのに」といった声がよく聞かれるそうです。

施設は行政が改修しますが、行政の側の都合で、汎用性が高いオールマイティな改修になってしまう。でも、それでは、運営する側が活用しにくい場合もあります。

中村 改修段階から民間の意向が反映されていれば、もっと効率的で有効に施設を利用できるということですね。そこをクリアにしたのが日南市の制度なんですね。

﨑田 日南市の街づくりの取り組みのもう一つの特徴が、コーディネーターの仕事をする人間が「街に住む」ということを条件にしていることです。一般的にコンサルティングをする方は、別に居住地があったりして、たまに現地にやってくるだけというケースが少なくないと思います。そうではなく、地元に根付いてもらい、地元の方々とコミュニケーションをとってもらうんです。

「誰がプレーヤーとして実行するか」が大事だと思っています。少々粗いプランでも、熱意をもって進めていけば、どんどん良くなっていくこともあると思います。都会にいる人が地方にやってきて「民間はこういうやり方です」と頭ごなしに言われても逆に引いてしまいます。

中村 突然、都会の異文化を持ち込まれても、結局、勝手が悪くて浮いてしまう。

﨑田 コーディネーターには、キラク・ジャパンから専任として、徳永煌季(こうき)氏が就かれたのですが、就任した時に彼にこう言いました。ちょうど夏祭りがあったので「テント張り、焼き鳥焼き、かき氷づくり、そこからやりなさい」と。地元の自治会長たちには「今度、来るのは若い人なので、どんどん使ってください」とお願いしました。

そこで彼がしっかり汗をかいたから、信頼関係が生まれたんですね。古民家を改修するとなると、中にある荷物などの整理をしなくてはなりません。業者に頼むとお金もかかるのですが、徳永氏の呼びかけに地元の自治会のみなさんが手伝いに集まってくれたんです。みんなで応援してやろうという機運が生まれた。これが大きいですね。

みんなで作っていく…。これを私は「AKB方式」と言っています。育てていくアイドルではないですが、途中経過を「見える化」して「わがこと(自分事)化」していく。難しいプロジェクトをみんなでやっていこうという風に持っていく。この手法が今回の事業の肝なんです。

世界の回り舞台が動き、地方がメーンステージに

201701261228_2-300x0.jpg飫肥城下町の古民家(日南市提供)

中村 今回の事業が成功すれば、次につながっていきますね。飫肥に来たのは3回目です。これまでは観光客の目線で見ていましたが、今回は街づくりの目線で拝見させてもらいました。すると、飫肥のポテンシャルと同時に課題も見えてきました。城址に近い方はかなり整備されていますが、城址から離れるにしたがって減退化してしまっていると感じました。

個人的な意見ですが、もっと市民のみなさんに、飫肥の街並みの価値に対するコンセンサスを形成していくことが大事なのではないでしょうか。「この街はいい」だけでなく、「世界的に価値がある」という自信や誇りにつながっていくのではないでしょうか。

日本のほとんどの城下町は近代化し、古いものを捨てて、新しいものを取り込んでいます。でも、飫肥は過去とそのままつながっています。一部、近代化したところもありますが、その度合いは全国的にもまれなくらい少ない。その価値に地元の人たちが気づいていない。そこを外部の人を巻き込んで、住民のみなさんに「これは宝なんだ」ということを今のうちに認識してもらうことが大事だと思うんです。

﨑田 おっしゃる通りです。私自身も飫肥で生まれ育ちましたから、ずっと価値に気づいていなかったんです。地元の人たちも、今でも「まあまあ城下町ですごいんだ」というのは何となく分かっていると思うんですが、「どのレベルですごいのか」というのは気づいていないことが多いです。今回の事業をきっかけに注目されれば、地元の方のコンセンサスを取りながら、次のステップとして景観条例や建築条例なども考えていきたいですね。

なかなかこうした強制権のある条例というのは、市民の皆さんの協力がないとつくることができません。条例に反して自分の家をいじれなくなりますから。強制的にやるのではなく、街づくりの過程の中で、少しずつ理解を深めていった方が、より主体的に景観をつくろうということになっていただけると思います。ここ2、3年のうちに理解を高めていきたいと思います。

201701261228_3-300x0.jpg飫肥城の大手門(日南市提供)

中村 そこはなかなか日本では成功していない部分ですね。これまで日本は人口も増え、右肩上がりでしたが、これからの日本は人口が減っていきます。その中で、いかに国内や海外の交流人口を増やしていくか。その時に歌舞伎の回り舞台が動くように遠隔地がアジアのフロントになるでしょう。

油津も世界の船が集まるようになったように世界という回り舞台がガラリと変わって、これまで陽が当たらなかったところがメーンステージになっていきます。そういう時に「古いものを残しておいてよかった」ということを賭け値なしにみんなが実感するステージになっていると思います。

﨑田 行政だけがわあわあ言っても市民に伝わらないところがあります。現場の取り組みと行政のしっかりとしたリーダーシップ、加えて、メディアの取り上げが大きいと思います。その意味では、菅官房長官が「古民家再生をしっかりやる」と夏に話されていましたが、日南市でも取り組みを始めていたところだったので、ラッキーと思いました。古民家再生の取り組みは菅長官のおかげで、テレビでもとりあげられました。うまく取り上げられると、メディアを通じて住民がより気づくことになります。

中村 そして外部からも優秀な人材が手を挙げて、集まってきます。正の循環が生まれます。

﨑田 ぜひ、この波に乗っていきたいですね。

中村 次回は中心商店街の再生などの日南市の地域創生戦略についておうかがいします。

﨑田恭平(さきた・きょうへい) 1979年日南市生まれ。九州大学工学部卒業後、宮崎県庁に入庁。地域振興や医療行政に携わった。2012年退職後、13年4月の日南市長選に無所属で立候補。初当選を果たし、全国で2番目、九州で最年少の首長となった。「できない理由ではなくできる方法を考える市役所」をモットーに市政を運営。市長就任後は民間人の登用や民間企業との連携を積極的に推進し、その行政手腕は全国から注目を集めている。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

あわせて読む

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る

地方創生

もっと見る
「地方創生」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

崎田恭平

もっと見る
「崎田恭平」の記事をもっと見る

日南市

もっと見る
「日南市」の記事をもっと見る