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特区にのさばる〝闇民泊〟1万件 宿予約最難関の大阪で急増…ハードル高い取り締まり

2016/12/23

「2カ月先でも予約がいっぱい…」「ビジネスホテルのシングルで2万円!?」-。最近、出張や遊びで大阪を訪れようとして、こんな思いをした人は少なくないだろう。それもそのはず、訪日外国人の増加で大阪は今、全国で最も宿が取りにくい場所になっている。その一方、マンションの一室などに観光客らを有料で泊める「民泊」が急増しているが、大半は正式な許可のないまま営業する〝闇民泊〟だ。大阪市はこうした動きを逆手にとり、ルールを守る民泊にお墨付きを与える「特区民泊制度」を10月末に開始した。ところが、「適法民泊」に認定されたのはわずか十数部屋にとどまる。のさばる闇民泊に対して、市はどんな対策を打ち出そうとしているのか。(杉侑里香)

通報の電話ひっきりなし

「プルルルル、プルルルル」。大阪市阿倍野区の市保健所の一角に設けられた「違法民泊通報窓口」。市が10月31日に開設して以来、ひっきりなしに鳴り続ける電話に、職員たちが慌ただしく対応に追われている。

市の推計では、旅館業法の許可などを得ず違法に営業する闇民泊は市内に1万件近くあるとみられる。以前から市のさまざまな窓口に苦情や相談が寄せられていたが、規制緩和の一環である国家戦略特区を活用した民泊制度の開始に合わせて専用の通報窓口をつくり、情報提供を呼びかけると、その件数は急増した。

通報はわずか1カ月あまりで約200件を数え、昨年度1年間(184件)をあっという間に追い越してしまった。

住民たちの不安の種

201612221654_1-300x0.jpg具体的にどんな情報や相談が寄せられているのだろうか。

「近くのアパートにスーツケースを持った外国の人がよく出入りしているんですが…」

「住んでいるマンションと思われる物件が民泊仲介サイトに載ってんねんけど、違法ちゃうの?」

最も多いのが、こうした近隣での不審な人物の出入りなどから闇民泊を疑う声だ。通報の半数以上を占めている。

「もしかして」という疑惑レベルから、さまざまな資料を自ら持ち込み「ここで違法民泊が開かれている!」と訴える人までさまざまだが、市の担当者は「良い意味でも悪い意味でも、民泊についての関心が市民の中で高まっている」ためだとみる。

次いで多いのが、闇民泊が開設されていると思われる場所での「ごみ」と「騒音」に関する苦情。ともに通報の1割ほどを占める。

例えばこんな内容だ。

「収集日を守らずにごみを捨てていく人がおる。民泊でもしてるのとちゃうんか」「夜中に出入りする人が多く、しゃべり声とか騒音もひどい。どうも住民やないようやったけど…」

平穏な暮らしを送りたい住民にとって、営業実態も出入りする人の素性も分からない闇民泊は大きな不安の種なのだろう。住民と民泊利用者の間でのトラブルなどはまだ発生していないとみられるが、通報の中には火の始末の不備に関するものもあり、治安に対する懸念は根強い。

深刻な宿泊施設不足

民泊利用者の大半は、外国人旅行者とみられる。背景にあるのは、勢いの衰えが見えない訪日ブームだ。

日本政府観光局(JNTO)によると、今年の訪日外国人数は10月末までで2011万人に上り、初めて2000万人の大台を突破。この時点で昨年1年間(1974万人)を上回った。

訪日客の3人に1人が、大阪を訪れているとされる。関西国際空港による積極的な格安航空会社(LCC)誘致の効果などもあり、1~9月の来阪外国人数は前年同期の1.35倍にあたる711万人(大阪観光局調べ)。大阪城や道頓堀などの観光地や盛り場は外国人らでにぎわい活性化しているが、その一方で顕在化しているのが中心部の大阪市内をはじめとした宿泊施設不足だ。

観光庁によると、都道府県別の宿泊施設の客室稼働率(9月、全国平均62.0%)では首都・東京を唯一上回り、大阪が82.6%を記録してトップに。また大阪など関西4市の宿泊需要の動向をまとめた日本政策投資銀行関西支店のリポートは、現時点ですでに「大阪市では客室数の絶対数が不足している」と指摘。さらに14年後の平成42年(2030年)には外国人客数が日本人客数を上回り、約2万室の客室不足が生じるという驚きの試算もはじき出ている。

闇民泊が増える背景

大阪では宿泊施設不足を背景に「民泊」をうたう施設が増え続けている。しかし、12月15日までに市が民泊として認定しているのは4業者の14施設のみ。つまり、これ以外の民泊は大半が闇民泊ということだ。

特区民泊の許可を得るには民泊施設であることを周辺住民に知らせたり、ごみ処理の方法を外国語で案内したりすることが必要。24時間体制で対応できる受付窓口の設置も必須だ。こうした手続きや出費の面倒を嫌う事業者が、許可申請に尻込みをしているとみられる。

一方で、インターネット上の仲介サイトには無許可とみられる民泊の情報が氾濫している。市は闇民泊の一掃に向けて積極的に対策に乗り出しているが、取り締まりはすんなりといかないのが実情だという。

まずぶつかる壁が、場所の特定の難しさ。仲介サイト上では、多くの施設が大まかな地図上で示したり、「道頓堀まで徒歩5分!」といった表現でぼかしたりしており、具体的な場所は明かされていない。

マンションの部屋番号など、詳しい住所が明かされるのは料金の支払いが完了した後がほとんど。市は通報窓口に寄せられる情報をもとに聞き込み調査も行っているが、特定するには多大な労力と時間を要している。

部屋の特定に至っても、まだハードルはある。運営者がその物件に実際にいることはほとんどなく、仲介サイト上に電話番号を掲載しているケースも少ないため、直接接触することは困難だという。実際に10月末以降、職員が対面で指導できた事例は20件程度にとどまり、400件近くはポストに警告書を投函(とうかん)するなどの文書指導にとどまっている。

闇民泊は1部屋あたりの料金を支払う形で、大阪市内ではおおむね2000~2万円近く。複数で宿泊すれば1人あたりの料金が抑えられることも人気の要因といえそうだ。

刑事告発も辞さず

ただ、市も手をこまねいているつもりはない。当初国が設定した「6泊7日以上」という特区民泊の要件は「観光客の実態にまったく即していない」として、吉村洋文市長や、先行して特区民泊を実施している大阪府の松井一郎知事が反発。この強い働きかけに政府も動き、11月に要件は「2泊3日以上」に変更された。

市は条例改正の手続きを進め、来年1月から実際に緩和されることが決まった。より利用者が利用しやすい形態での営業が可能になることから、合法民泊への移行や新規の申請が増えることを期待している。

それでも、再三の指導に対して是正がみられない民泊には刑事告発も辞さない構えだ。「闇民泊をのさばらせ続ければ、きちんとした手続きと対策を講じて合法に営業している事業者がばかを見ることになる。そんなことは許されない」と語気を強める担当者。観光客が増え続ける大阪で合法民泊は根付くのか。今後の動きが注目される。

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