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[連載]観光立国のフロントランナーたち 台東区 服部征夫区長(2)

2016/12/12
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日本のインバウンドビジネスの開拓に奔走するジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長が、訪日ビジネスの最前線を進む人々を迎え、「観光立国」実現に向けた道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。多くの観光スポットを抱える東京都台東区の服部征夫区長をゲストに迎えた第2回では、世界文化遺産登録を受けた国立西洋美術館についてお話しをうかがっています。

国立西洋美術館を国内外にアピール

中村 今年7月、ユネスコの世界文化遺産にル・コルビュジエの建築作品が登録されました。その中には、東京・上野にある国立西洋美術館が含まれています。台東区にとっても内外の観光客を呼び込む貴重な財産となります。国立西洋美術館の価値をどう考えていますか。

ル・コルビュジエ 建築家・都市計画家。1887年にスイスで生まれ、のちにフランス国籍を取得した。近代建築の原則として、ピロティ(1階の壁を取り払い柱で支える形式)や屋上庭園などを提唱。米国のフランク・ロイド・ライト、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエとともに「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる。絵画や家具なども含め、幅広い創作活動を展開し、1965年に死去。国立西洋美術館の設計のため、55年に来日した。

国立西洋美術館 ル・コルビュジエの日本唯一の建築作品。第二次世界大戦後にフランス政府に押収された、実業家・松方幸次郎(1865~1950)の美術コレクションの返還条件として東京都台東区の上野公園内に整備され、1959年に開館した。ピロティや屋上庭園を備え、渦巻き状に増床できる「無限発展美術館」構想の数少ない実現例とされる。

201612121608_6-400x0.jpg服部 世界遺産登録された「ル・コルビュジエの建築作品」は、世界7カ国に17資産ありますが、美術館は国立西洋美術館だけなのです。また、東京都では、小笠原諸島が世界自然遺産に登録されていますが、世界文化遺産は国立西洋美術館だけです。これも2020年開催の東京五輪・パラリンピックに向けて、東京の魅力を世界に発信する一つになります。「世界遺産のあるまち」台東区ということを国内外にしっかりとアピールしてきたいと思っています。

中村 国立西洋美術館の登録に向けて区民を含め、みなさんがいろいろなご苦労されたのではないですか。

服部 登録に向けた活動は14年前から民間主導で行われてきました。当時の台東区商店街連合会会長が奔走され、区民、台東区や区議会が三位一体となってがんばりました。当時、私は都議としてかかわっていましたが、過去2回登録が見送られているんですね。最初の2009年は「情報照会」、続いて、11年は「記載延期」という厳しい状況でした。商店街も区も啓発運動を行いましたが、当時は、ル・コルビュジエといわれてもピンとくる人がいないような状況でした。

中村 確かにそうかもしれませんね。フランスの偉大な建築家が日本で作品を残していたことは奇跡に近いと思います。

服部 もともと、ル・コルビュジエの建築作品群の申請は、フランス政府が関係国を代表して行うものでした。その意味で、われわれは国立西洋美術館の応援団という立場です。私は昨年3月に区長に就任した後、在日フランス大使を訪問しました。

大使から「フランス政府も台東区も同じ思い。台東区とフランスは一緒の船に乗っている」と言っていただきました。当時の舛添要一都知事も「東京五輪・パラリンピックに向けた魅力になる。大いにやりましょう」と、渡仏した際にフランスの首相にお願いされました。

世界遺産委員会の文化遺産に関する諮問機関であるICOMOS(イコモス、国際記念物遺跡会議)の勧告では、国立西洋美術館について「地元コミュニティーの積極的な参画が認められる」という評価をいだたきました。おそらく17資産の中でも国立西洋美術館だけだったと思います。地域が盛り上げて世界文化遺産を勝ち取った施設なのです。

松方コレクションの歴史的背景も知って

201612121608_7-400x0.jpg中村 区長は、国立西洋美術館が建造されるに至った松方コレクションの歴史的背景を知ることも世界文化遺産として大事なことと常々おっしゃっていましたね。

服部 これが大事です。それは、産経新聞のコラム「産経抄」(2016年5月19日付)で紹介されていたのですが、松方コレクションを収集された松方幸次郎氏は、大正時代に川崎造船所(現・川崎重工業)社長として財をなし、海外の絵を収集しました。ロダンの彫刻やモネ、セザンヌなど第一級の作品ばかりです。当時の金で費やしたのは3000万円でした。今のお金に換算すると900億円くらいになるのだそうです。これは今の台東区の予算に匹敵する額です。

モネの邸宅はパリ郊外にあるのですが、実は11月にそのアトリエにうかがう機会がありました。松方氏もそこでモネに会いました。そして、邸内の絵をすべて買いたいと言って、モネを怒らせたそうです。すると、松方氏は「自分のために買うのではなく、日本の若い芸術家にすばらしい作品を持ち帰って、一流のものを見せたい」と説得して、モネに納得してもらった。この話には感動しました。

中村 美術にかける意欲や若手を育てようという意欲がモネを動かしたんですね。

201612121608_8.jpg建築家ル・コルビュジエの代表作、国立西洋美術館(伴龍二撮影)

服部 国立西洋美術館に話を戻しますが、戦後、フランスにあった松方コレクションをフランス政府が日本に返還する際の条件として出されたのが、新しい美術館の建設でした。設計者には、当時、世界的に有名なル・コルビュジエが選ばれました。建築費は当時の額で1億5000万円だったそうですが、日本政府が用意できたのは500万円だったそうです。

そこで日本の美術界が立ち上がりました。画家の皆さんは国立西洋美術館を建設しようと、自分の絵を売ったりして1億円を集めて政府に寄付したそうです。これは建築費の3分の2に上る額です。政府も残り3分の1の5000万円を予算化して、なんとか建設にこぎつけました。

そういう先人たちの思いを、世界から訪れる観光客のみなさんに知ってほしいですね。台東区としてもしっかりと発信をしていこうと思っています。

中村 ありがとうございました。次回は、訪日外国人の方々にアピールしたい台東区のスポットについておうかがいします。
 

服部征夫(はっとり・ゆくお) 1943年生まれ。日大法学部を卒業後、ブリヂストンタイヤ東京販売に勤務。衆院議員秘書を経て、75年台東区議会議員選挙に立候補し、初当選。区議を5期務め、87年には区議会議長に就任した。99年東京都議会議員補欠選挙に立候補し当選。5期16年にわたり都議を務めた後、2015年3月の台東区長選に立候補、初当選した。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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