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[連載]観光立国のフロントランナーたち 台東区 服部征夫区長(1)

2016/12/05

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日本のインバウンドビジネスの開拓に奔走するジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長が訪日ビジネスの最前線を進む人々を迎え、「観光立国」実現に向けた道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。今回のゲストは、東京都台東区の服部征夫区長です。浅草や上野をはじめとする東京有数の観光スポットを抱えた台東区は、訪日外国人観光客の人気の高いエリア。飲食店向けにムスリム(イスラム教徒)の戒律に沿ったハラールの普及を進めるなど先進的な政策に取り組んでいます。台東区のインバウンド戦略について話を聞きました。
 

マレーシア訪問でハラールの理解深まる

中村 台東区は2015年10月から区内の飲食店にハラール認証取得の助成制度をスタートさせました。台東区は、浅草や上野など多くのムスリムの方が観光に訪れる街で、区の取り組みは全国の各自治体にも広がってます。区のハラール対応戦略についてお聞きかせください。

台東区ハラール認証取得助成事業 台東区内に店舗を構えるレストラン、喫茶店、弁当屋、和菓子店、洋菓子店などの事業者がハラール認証を取得する際に要する経費のうち、台東区長が必要かつ適当と認めた経費(備品の購入及び施設整備に係る費用を除く)について、対象経費の2分の1以内、上限10万円を助成する制度

服部 前置きの話になるのですが、私は都議会議員時代、国連NGO(非政府組織)のオイスカ(本部・東京都杉並区)の活動に参加して東南アジアの国々の植林活動を行っていました。4、5年前になりますか、都議会の仲間とマレーシアを訪問することになったんです。訪問する前に在日マレーシア大使を訪ねたのですが、そこで「こんな人に会ったらいかがですか」と、いろいろとアドバイスをいただきました。おかげでマハティール元首相にもお会いすることができたのですが、紹介していただいた中に現地のある財団の方がいたんです。その方からハラール食品のことを教えていただいた。それまではハラール食品のことをよく知りませんでした。

201612051449_2-300x0.jpg中村 それがハラール食品のことを知るきっかけだったのですね。

服部 そうなんです。帰国すると、当時のマレーシア大使から連絡がありました。「ハラール食品をアピールするイベントをやるので、ぜひ参加してほしい」ということでした。観光課長と東京・汐留のホテルで行われたイベントに参加しましたが、おどろきました。正直、最初は、現地で作られたレトルト食品のようなものを販売するようなことだと思っていたのですが、そうではなくて日系製造工場のマレーシア誘致の話だったんですね。大手の食品企業も数多く参加をされていました。

中村 マレーシアはハラール食品を供給するハブ拠点を目指しています。マレーシアを中心にハラール認証を得た食品を製造し、ムスリム諸国に輸出をするというような取り組みをしています。日本企業への働きかけだったんですね。

服部 浅草や上野なとの観光地にはムスリムの方が大勢いらっしゃいますから、区としても積極的に取り組むよう私も働きかけをしました。それで、区も主要な事業として取り組み始めることになったのです。私が区長になったのは2015年ですが、区では、その前の2014年ごろから実際には、動き出していました。担当の職員が地元のムスリムの礼拝所を訪ねたり、ムスリム関連の団体に相談したりと地ならしをしていった。そこから今があるのです。

“政教分離”の壁…観光政策で助成制度

中村 そういったバックグラウンドがあったのですね。浅草をはじめ台東区内に多くのムスリムの観光客が来られる中で、ハラール対応の食事がとれないという課題と結びついたんですね。

服部 国も都もムスリムへの対応に動いていましたが、政教分離の問題があってなかなか進まない。一方で、台東区には多くの外国人が訪れる観光地としての責任があります。ここは一歩踏み出そうということにしました。あくまで観光の対策ということで、助成金をつけることで、区内の食品業者や飲食店が関心を持ってくれるだろうと考えました。

当時は、説明会をやっても2、3件しかこないのではと思ってましたが、それでもハラールに関心を持ってもらい、ハラール認証をとらなくても食材の表示などに配慮する流れになれば、ユニバーサルツーリズムにつながると考えました。ところが、ふたを開けてみると、認証を受けた業者の数は18件まで増えました。全国に先駆けたということもあって、メディアが大きく取り上げくれました。

中村 先進的なハラール対応というのが、台東区のブランドになりましたね。

服部 シティーセールスに結びついた点では大きなうねりになりました。先日もイランの新聞社が取材に来られました。台東区のブランドとして飛躍しているイメージがありますね。

中村 私も18の取得された店舗のうち6店舗以上を実際に見せていただきましたが、ムスリムの方が多く来店してました。成果が実感できました。

服部 最初に試食会を行った時、在日マレーシア大使を招きました。日本のマスコミに取り上げてもらったのですが、それ以上にムスリムのマスコミにも取り上げてもらいました。ハラール食品のハブ拠点である、マレーシアに発信され、「日本でハラール食品なら台東区」というのことが知られるようになりました。

さまざまな文化を受け入れる土壌がある

201612051449_3-300x0.jpg中村 先日、シンガポールのハラール関係の国際セミナーに出席したのですが、その時、シンガポールが繁栄している理由は、リー・クワン・ユー初代首相が行った多文化共生というビジョンにあるからだと思いましたね。

華僑やムスリム、ヒンズーなどさまざまな宗教文化、バックグラウンドの違う人たちが共生している国なので、ハラールに関する法律もできています。それに基づいて、政府がハラール認証を行っている。その結果、この都市国家はASEAN(東南アジア諸国連合)のさまざまな経済・文化の中心になっています。浅草を中心とした台東区のハラールの取り組みは、シンガポールやマレーシアと同様に意味深いことだと思いますね。

服部 ただ、ムスリムの方々が安心して食事をできる場所が台東区にあるだけでは、日本に来ようというインセンティブにはなりませんよね。東京都、国のどこでも対応できるような形にすることが大事なことです。

中村 日本には8000人以上のムスリムの大学生がいます。そういう方々にとって台東区が居心地のいいムスリムフレンドリーな街というブランディングは大きな意味があります。その方々が、SNSの時代、そのことを世界に発信すれば、大きなポテンシャルが出てきます。その意味でも区として、ムスリムに対する幅広い支援があればいいと思います。

さらに一歩踏み込んだ、文化理解など単なるビジネスではなく、おもてなしのようなものを啓発ができるといいですね。区内の事業者にとどまらず、異文化共生の姿を学びたければ台東区にくれば分かるという形になってくれるといいですね。

服部 大事なことだと思います。民族や宗派を超えた一つの文化として、多少の差異を認め合うことが大事ですね。その意味でも今回の取り組みがいい形で発展してほしいです。単なる食だけでないところまで発展してくれるといいですね。

こんな話があります。今では恒例行事となった浅草のサンバカーニバルですが、30年ほど前に始めることを議会に諮った時のことです。当時、私は区会議員だったのですが、議員のみなさんに理解されるまで大変でした。サンバはキリスト教のカーニバルですよね。「観音様のおひざ元で、異教徒のサンバ…、裸踊りをやるなんてとんでもない」「盆踊りなから分かる」といった声もありました。それでも、「まず、やってみよう」ということになったんです。

でも、サンバを踊れる人がいない。区にサンバのチームを作ったり、サンバ教室をつくったりしました。他の区からは「(誤解されて)台東区は産婆さんの教室をつくった」なんていわれるほどでした。でも、マスコミが大きく取り上げて、すごい人気になりました。なぜ大きく取り上げられたのか。斬新なんでしょうね。観音様のおひざ元の浅草で、キリスト教の祭りをやる。そんなすべてを受け入れる度量はもともと浅草にはあるのではないでしょうか。

中村 次回は、世界文化遺産に決まった国立西洋美術館を中心とした観光政策についてお話をうかがいます。

服部征夫(はっとり・ゆくお) 1943年生まれ。日大法学部を卒業後、ブリヂストンタイヤ東京販売に勤務。衆院議員秘書を経て、75年台東区議会議員選挙に立候補し、初当選。区議を5期務め、87年には区議会議長に就任した。99年東京都議会議員補欠選挙に立候補し当選。5期16年にわたり都議を務めた後、2015年3月の台東区長選に立候補、初当選した。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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