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[連載]観光立国のフロントランナーたち 百戦錬磨 上山康博社長(最終回) 

2016/11/28
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「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」は、日本のインバウンドビジネスを切り開いてきたジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長が聞き手となり、訪日ビジネスの最前線を走る人々を迎え、「観光立国」日本に向けて、いま何が大切かを探る対談連載です。マンション・古民家などの空き部屋を宿泊施設として活用する民泊支援事業を展開する百戦錬磨(本社・仙台市)の上山康博社長をゲストに迎えての最終回は、民泊事業が地方創生に与えるインパクトや日本に民泊事業を普及させる上でのポイントについて話を聞いています。

中村 日本はこれから急速な高齢化社会、人口減少社会になります。このままでは、あと10年、20年後に経済のパイは相当縮小していきます。定住人口が減る一方で、国際的な観光人口が増えていく状況のもとで、インバウンド(訪日外国人観光)をいかに取り入れていくかという問題は東京・大阪のような大都市も大事ですが、地方にも焦点が当たっていくのではないでしょうか。その意味で、上山社長の仕事の領域で、地方や地方創生をどう考えますか。

地方の空き家を民泊で活用しよう

上山 私の場合、民泊や民泊に関連するところが事業領域になりますが、その中では、空き家問題と民泊はとても相性がいい。なぜ空き家になるかというと、それは住む人がいないからです。一方、旅行者は一時居住者みたいなものですよね。旅行者が交代交代で空き家に泊まれば、その空き家に継続的に住んでいるのと一緒だと考えられます。そういう意味では、長期に居住する需要はないけれども、短期の居住なら需要はあるのです。

中村 なるほど。地方に増えている空き家を民泊に活用する。

上山 民泊と空き家の組み合わせは都市部でもあるとは思いますが、地方は大都市よりも空き家が多く、使い道も少ない分、民泊としてのチャンスがあります。さすがにボロボロの空き家は無理ですが、ちょっと手を加えるとものすごい価値がある空き家…、つまり、古民家や歴史的な文化財は価値があるのに手を加えないせいで朽ちていこうとしている。そういったものを再生させて、そこに訪日客をはめていくのは大事だと思います。

中村 東洋文化研究家のアレックス・カーさんがそんな取り組みをしていますね。
 

アレックス・カー 東洋文化研究家。1952年米国生まれ。エール大学で日本学を専攻後、1977年から京都府亀岡市に居住し、日本と東アジア文化に関する執筆や講演などに携わる。2004年から10年まで、京都で町家を修復し、宿泊事業に営む。その活動を地方に広げ、伝統家屋の修築保存活動、景観コンサルタントを各地で展開。日本での滞在型観光の振興に努めている。

201611281201_2-300x0.jpg上山 あの事業をスケールしたい。うまく仕組み化したい。そこでのポイントは「誰がやるか」「どうやって投資して形にするのか」「お金はどうするのか」「どうやって顧客を引っ張っていくか」ということなんです。さらに情報発信とマーケティングが重要になってきます。その部分を私たちが仕組み化して地方に提案したい。地方に人が来るような仕組みを作っていきたいですね。

中村 その仕組みがないと、投資家も地方に投資できませんね。

上山 そこに大きな問題があるのですが、古民家をリノベーションすると、固定資産税などが上がっていく。でも、それは間違っていると思います。文化財や古民家は、もともと個人のものかもしれませんが、社会の公共財として残すという視点を考えてほしいですね。古民家などに手を加え、宿泊客を集め、継続的に収益を上げる。その収益の部分で税金を支払うのはいいと思いますが、投資した建物の税が上がってしまうと、減価償却を一から考え直さないといけなくなってしまう。これでは投資しようという意欲がなくなってしまいます。

中村 前提のハードルが上がってしまうのは困る

上山 そこは何かしらのルールを作るべきでないかと思います。助成金や補助金だけの話ではなく、税制であったり、地域に行く人たちがどうかかわるかという点であったり、総合的に考えていくべきではないでしょうか。われわれは、農家や漁家に観光客を宿泊させるグリーンツーリズムを振興しています。そこに取り組んでいる農家や漁家の人たちは、家に宿泊客を招き入れています。こうした人たちが古民家や文化財の管理者になってもらうのもいいと思います。

旅館、ホテル経営のプロこそ民泊で新しいビジネスを開拓して

上山 もう一つ、私はもっと積極的に地域の旅館やホテルが民泊に携わってもらえればいいと考えています。旅館・ホテルは1泊、2泊対応でつくられていますが、住宅をもとにしている民泊は台所があって、洗濯もできる。ロングステイ(長期滞在)ができるのです。ロングステイ用に古民家をホテルや旅館が管理することで、地域の使われていない資源を活性化でき、彼らにとっても新しい需要をつくることができると思います。

中村 民泊は旅館やホテルのコンペティター(競争相手)でなく、旅館やホテルの新たなビジネス分野になるということですね。

201611281201_3-300x0.jpg上山 古民家に2~3週間滞在するような旅行は欧米型のスタイルです。欧米型の旅行を地方に持ち込むことで、日本そのものの旅行のスタイルを変えることができます。例えば、新たな現代版の湯治が始まる。やるならそこまでやるべきだし、われわれはそこを仕組み化していきたい。

中村 実際に今も古民家ツーリズムは各地で始まっていないわけではないですが、地域との連携をやらずに点だけになっているイメージがあります。それでは、1泊、2泊で満足してしまい、長期滞在をしようというコンテンツにならないですね。
 

上山 コンテンツは何かというと、地域の人とのコミュニケーションなんです。地域の人たちと何か理由を作って一緒にやるとか、対話をするとか…。なんの観光資源がなくても、地域の人たちとのコミュニケーションが実は最大の観光資源なんです。

中村 それが結果的にリピーターを生む。

上山 コミュニケーションがもとで地縁ができると、「あの人の家に行こう」「あの人に会いに行こう」ということになります。そこに人が集まる。諸外国の方々が地方の人を訪ねるということが繰り返されると、地方が変わってきます。地方は日本の中でも閉じている。もともと日本自体が閉鎖的ですが、地方はさらに閉じている。その鎖国をやめさせることが大事なんです。

中村 閉じていると滅びてしまいます。その意味では、民泊というのはニッチな分野のようにみえて、ど真ん中なのかもしれませんね。

上山 民泊は、ホテルや旅館のようなど真ん中の方々がメーンプレーヤーになっていいんです。ホテル経営者が集まる講演会にパネリストとして出たことがあるのですが、そこで、参加者から「民泊はホテルの競合で、ルールを守らない」といった内容の質問を受けました。

そこで私はこう説明しました。

「昨年時点で数千億円の市場が旅館やホテルの『外』に流れているんです。本来、それは皆さんが取るべきところを捨てているんです。そこを自覚してください。今年になってそれが数倍になっている。みなさんはプロでしょう。プロがアマに負けてどうするんですか。アマの需要をしっかり取り込んでいって仕組み化するのが、プロのやるべき仕事です。アマが悪いというのではなく、ユーザーの需要があるのでそこをしっかり形にしようではありませんか」。

中村 被害者の意識になっている面はありますね。旅館やホテルの経営者の方々は、多くの投資をして、保健所や消防署の指導をまじめに受け来た。その中で、「ルールを守らず、けしからん」だけで終わってしまっている。

上山 けしからん民泊業者がたくさんいるのなら、それは取り締まるべきです。それをやめさせ、一方で、需要はあるのだから、ノウハウをしっかりもったホテルや旅館業のみなさんがビジネスすればいいんです。内閣府が国家戦略特区法のアイデア募集をした時にわれわれは民泊特区を提案しましたが、提案の中には「ホテル旅館の人たちが、民泊をすることで新たな観光需要を生み出せる」とも書いています。

中村 今やっている仕事の中で閉じるのでなく、今まで違うところでどう生かすか。空き家を民泊で生かすのと同じようにチャレンジがありますね。でも、そういったものをパッケージしていかないと上山社長の言葉はなかなか理解されないかもしれない。

上山 実は、この考えをもとに自分で実際にビジネスにすることも考えています。とにかく自分たちで、一軒家やマンションを借りて、民泊運営をすることで、こうすればこう儲かるということを皆さんに開示をする。この分野は、新しいものを提示することが必要なのではと考えています。
 

世界の旅行需要をどう日本が獲得するのか考える時

中村 最後に上山社長が「観光立国フロントランナー」として考えているビジョンについてお話をうかがいます。観光立国として、これからの日本に求められることは何だと思われますか。
上山 偉そうなことを言わせていただくと、日本では、まだ観光業・旅行業が産業として成り立っていないという気がしています。民間レベルでも、国レベルでも将来の成長に向けた計画や将来展望が必要だと思います。

諸説ありますが、2020年には14億~16億人が全世界を旅行するといわれています。ビジネスやレジャーなどで今までよりも多くの人々が移動する。その旅行需要をどうやって日本の企業が取り込んでいくか。インバウンドや国内の移動もそうですが、海外から海外へのインターナショナルな移動も含みます。全世界の旅行需要を日本の企業がどれだけ獲れるかという視点が必要なのではないでしょうか。

もちろん、自社でも獲りに行こうと狙っています。まずは、日本というジャングルでゲリラ活動をやりながら、全世界に踏み出していきたいですね。

上山康博(かみやま・やすひろ) 情報通信会社KLab取締役事業本部長を経て、2007年9月楽天トラベル入社。執行役員として新規サービスの立ち上げに従事した。12年6月、百戦錬磨を設立し、代表取締役社長に就任。観光庁の観光産業政策検討会委、OTAガイドライン策定検討委員会委員などを歴任。首都大学東京非常勤講師。大阪府出身。55歳。

中村好明(なかむら・よしあき)1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。


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