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[連載]観光立国のフロントランナーたち 百戦錬磨 上山康博社長(3)

2016/11/24
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東京と大阪で始まった民泊の現状は

中村 2017年4月めどに民泊の法制度が進んでいます。現在は「国家戦略特区のみ認可する」アプローチと「全国的に合法化しよう」というアプローチの2つがあります。まずは勉強したい人のために基礎コースで民泊解禁の動きを解説してください。

上山 もともと、たとえ自宅であっても、不特定多数の人からお金をとって宿泊させる場合には旅館業法をはじめとする法律に従うことが必要になります。現在、合法で民泊をする方法の一つとして、国家戦略特区の第13条「旅館業法の適用除外」を使うやり方があります。東京都大田区、大阪府(一部の地域を除く)大阪市ですでに開始されています。
並行して、全国的に合法化しようというアプローチは、民泊に関する新しい法律を施行する動きです。民泊新法とよばれるものですが、これに関しては5月に大枠が閣議決定しています。国会での検討はこれからです。本来は今の臨時国会で議論されることになっていたのですが、さまざまな事情があり、年明けの通常国会で検討されることになっています。

国家戦略特区 安倍晋三政権が掲げる成長戦略の目玉政策の一つで、地域を限定し大胆な規制緩和や税制優遇措置で企業の投資拡大や国際拠点の育成を目指すもの。2014年に東京都と神奈川県、千葉県成田市で構成する「東京圏」、大阪府と兵庫県、京都府の「関西圏」、沖縄県の「観光特区」など6カ所を指定。18年までに6地域が追加された。

中村 そうなると、来年4月には実現しない可能性がありますね。

上山 来年4月の実現はもうないでしょう。ですので、民泊新法がスタートするのは、早くて来年の秋以降ではないでしょうか。当初の見通しよりも半年ほど後ろ倒しになっています。このため、民泊新法を使って民泊をやろうと考えている事業者は1年後にスタートを考えているところが多いのではないでしょうか。

「国家戦略特区」に話題を移しますと、そもそも国家戦略特区法では、国が特区の指定区域を選定します。特区に選ばれましたが、やるか、やらないかは自治体の判断です。その中で、一番先に手を挙げたのは大阪府と大阪市でした。しかし、大阪は曲折があって、結果的に先に条例を作ってスタートしたのは東京の大田区になりました。

大田区は今年1月にスタートしました。大田区は1月に条例を施行し、民泊事業を行う上でのガイドラインもつくりました。この条例は、大阪府や大阪市が作った条例とは若干違った内容になっています。それぞれ地域の事情に配慮していることが背景にあります。

中村 大田区と大阪府、大阪市とは何が違うのですか。

201611241110_1.jpg上山 10月31日に開始した大阪市の場合、例えば、現状は近隣住民の方々に対して個別訪問または説明会による対面での説明を求められています。近隣に集合住宅や商業ビルが含まれている場合、説明が必要となる戸数がかなり多くなるケースもあり、この個別訪問自体が近隣に対する迷惑行為となる可能性もあります。一方で、大田区の場合は「何かあった時はこちらへご連絡ください」というポスティングのみによる周知が認められています。これは一例ですが、消防や管理組合への対応など、いくつかの違いはありますね。

中村 そうですか。ところで、大阪府の場合、すべての市町村が民泊施設を設置できるのですか。

上山 この条例は基本的に保健所を設置している自治体ベースでつくらないといけないのです。つまり、大阪市や堺市のような政令市や、高槻市のような中核市は、独自に保健所を持っているので、そういう自治体は独自に条例をつくる必要があります。
例えばですが、泉佐野市のように市が保健所をもっておらず、府が保健所を設置しているような自治体は府の条例に従って民泊施設を置くことができます。

中村 なるほど。大阪府が直接、行政指導ができるようなところなのですね。

上山 そうです。ただ、大阪府が民泊を始めたのはいいのですが、大阪市内にすでにヤミ民泊が多く存在し、立地的にも価格的にもフェアな競争環境にないため、なかなか普及しなかった面があります。その意味で、大阪市か始めたのは、大きなポイントになりました。大阪市は、府が民泊実施を決めた時に参入を決めましたが、「半年、様子をみたい」ということになったんです。府が4月に条例を施行したのに対して、市は10月になりました。先日、ようやく議会で決議し、10月31日から受け付けを開始しました。東京の大田区ではじめて実施するのは画期的でしたが、今回の大阪市は需要が大きいだけに、経済の視点からいえば、大田区に並ぶか、それ以上の大きいインパクトがあります。

宿泊施設が不足する大阪…安全・安心な民泊の提供目指す

201611241110_2-300x0.jpg中村 大阪で民泊の議論が進んだ理由はなぜなのですか。やはりホテルが少なくて、予約が取れないという状況があったからですか。

上山 日本でホテルの稼働率が一番高いのが大阪なんです。昨夏から冬にかけてはだいたい90%を超える状況でした。現在でも80%は越すのではないかと思います。これは相当なものです。ホテルや旅館だけで絶対量が足りない。

関西空港に格安航空会社(LCC)が来たのが大きかった。成田空港よりも便利なので、多くの外国人が関空から入国するようになった。でも、ニーズは増えているのに泊まるところがなくて素通りしてしまえば、経済的なメリットを得られません。宿泊の受け入れ環境が不足しているのは大阪にとって喫緊の課題です。そんな状況なので、大阪ではヤミ民泊が1万数千件も存在しています。

中村 そこをきちんと法制化して、見える化し、管理できるようにしていく。その中でちゃんとした競争ができようにすることが求められます。

上山 私は以前よりヤミ民泊増加に対して危機感を持っていました。最近、メディアなどで、近隣住民の方との騒音やゴミの問題などが報じられていますが、これはルールを守らない中で行っているヤミ民泊だから起こる問題です。まずは民泊事業者をしっかりと指導する。取り締まる必要があるものは、しっかりと取り締まる。その上で新しいルールのもとで民泊をやろうという動きになっています。

特区民泊を先に開始している東京都大田区では、公認民泊運営において、近隣住民の方々からのクレームは全くないですし、ルールを作ることでヤミ民泊が減少したという結果も聞いています。特区民泊は良い制度であると実感しています。

さらに大阪では一歩進んで、日本で安心・安全な民泊を提供できるエリアであることをアピールしていくそうです。ゲストに一定の満足をしてもらえる民泊施設を提供していること発信する。そこまで大きく流れが変わろうとしています。

最低宿泊日数の短縮で広がるマーケット

201611241110_3-300x0.jpg中村 6泊7日の最低宿泊日数が2泊3日に変更されました。大阪府や大阪市の対応はどうなりますか。

上山 現時点では、大阪府も大阪市も最低宿泊日数は6泊7日ですが、9月定例議会で2泊3日に条例を改正する意思表示をしています。政府は10月末に6泊7日の最低宿泊日数を2泊3日に変更する国家戦略特区法の政令改正を施行しました。これを受けての対応です。

大田区は6泊7日でスタートしました。6泊7日の予約申し込みは確かにあるのですが、6泊7日でやると宿泊期間が長すぎて、施設を提供する側にとっても、宿泊する側にとっても使い勝手が非常に悪い。民泊をやっても経済的に合わないと、見直しを求める声が強かったんです。条例改正が施行されれば、訪日外国人の方々が使う上でも経済的にもなります。

大田区の民泊開始の際、当社に約1000件の事業者から相談がありました。でも、最低宿泊日数の問題などで「もう少し様子をみよう」という動きもあって、最終的に本格的に乗り出したのは50件くらいに減りました。大阪での2泊3日の緩和により民泊に関心のある事業者が動き出すのではないでしょうか。

中村 民泊新法ではいろいろな議論があります。どう考えますか。

上山 私の立場では、民泊新法がどういう内容であれ、まずは早く決めてほしいの一言です。もう一つ言えば、しっかりとしたルールを決め、ルールを守らせるような実効性を担保してほしい。ルールを作ってもちゃんと守るのか。守る人がいなければ元も子もありません。そういう意味では、違反者に対する厳罰化は大事だと思っています。軽微な罰金で済ませてほしくない。厳罰化をしないと実効性は保てません。

民泊市場が世界の流れとして生まれ、ようやく日本にも広がってきました。ちょっとした事故や間違いが起きれば、その芽が摘み取られ、すべてだめになってしまう懸念もあります。そうならないためにも、国として考えてほしいと思っています。

中村 次回は、上山さんのビジネス領域での地方創生のあり方について、お話しをうかがいます。

上山康博(かみやま・やすひろ) 情報通信会社KLab取締役事業本部長を経て、2007年9月楽天トラベル入社。執行役員として新規サービスの立ち上げに従事した。12年6月、百戦錬磨を設立し、代表取締役社長に就任。観光庁の観光産業政策検討会委、OTAガイドライン策定検討委員会委員などを歴任。首都大学東京非常勤講師。大阪府出身。55歳。

中村好明(なかむら・よしあき)1963年生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014 年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015 年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015 年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。
【関連サイト】ジャパンインバウンドソリューションズ

「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」は、日本のインバウンドビジネスを切り開いてきたジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長が聞き手となり、訪日ビジネスの最前線を走る人々を迎え、「観光立国」日本に向けて、いま何が大切かを探る対談連載です。今回はマンション・古民家などの空き部屋を宿泊施設として活用する民泊支援事業を展開する百戦錬磨(本社・仙台市)の上山康博社長をゲストに迎えました。「民泊」に対する規制が緩和され、国家戦略特区に指定された東京や大阪での運用がスタートしました。民泊はなぜこれからの日本に必要なのか。日本での民泊ビジネスの将来を探ります。1回目はこちら、2回目はこちら

 

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