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[連載]観光立国のフロントランナーたち 澤の屋旅館 館主 澤功(3) 

2016/10/17

201609301149_1.jpg家族旅館だから良いわけじゃない

中村好明 改めてうかがいます。外国人旅行客が、なぜ澤の屋に泊まりにくるとお考えでしょう?

 

澤巧 うちのアンケートで見ると、「どうして日本に来るのか?」という質問に対する最も多い答えは、「日本の歴史文化に興味がある。日本の人たちの生活を体験してみたい」なんですね。

201609301207_1-250x0.jpg中村 つまり、日本人の生活を"体験したい"ということですね。

 うちの場合、家族でやっている旅館ですね。「家族旅館に行けば、日本人の生活が体験できるだろう」って考えるそうなんですよ。

中村 マニュアルが存在するような大型ホテルですと、どこの国でも同じかもしれませんが、澤の屋さんのような旅館は分業していないので、ある意味"暮らし"と"宿泊"が繋がっている<
ということですね

 「澤の屋にはマニュアルがない。その代わり、こちらが何を要望しても一生懸命対応してくれる」。お客さんから、そう言われたことがあります。「家族だけの対応ですからサービスも何もない」ってお話しをしたら、「そのまんまで顔が見えるから、私は澤の屋に泊まるのです。もしも澤の屋が、家族旅館でなくなって、チェーン店になったり、あるいは規模を大きくしたら、来ないでしょう」とも。

中村 それは、かつて、日本人客が離れていったのとは正反対の視点ですね

 ところが、では、外国のお客さまを受け入れるのに、家族旅館が一番適していのるかっていうと、あるお得意のお客さんからは「それは、全然違うよ」って否定されました。

中村 え? 違うというのですか?

宿は旅行の手段に過ぎない

 「自分たちの目的はあくまで旅。宿は手段に過ぎないから、宿選びは、結局のところ、旅の目的に合わせるだけです。例えば仕事のときは夜中までインターネットを使いたい。しかし、澤さんのところの部屋は、畳にちゃぶ台。あれじゃあ、パソコンを使いづらい」と。じゃあ、1階の食堂の一角に設けたインターネットコーナーを使ってくださいと反論したら、「しかし、澤さんのとこの旅館は、午後11時に消灯。それははやすぎる。だから仕事のときは、澤の屋さんではなく、ホテルを選ぶのです」。そういうのです。

中村 宿は、あくまで旅の目的に合わせて選ぶものということですか

 谷中で澤の屋に泊まりたいときもあれば、都心でゆったりと大きなシティーホテルに泊まることもある。お客さんは、そういう旅をしているのだと知りました。ただ、その方たちが言うには、豪華なホテルや食事なんて、すぐに忘れてしまう。記憶に残るのは、その国の人との触れ合いや親切にされたことだって。

中村 するとやはり家族旅館が良いのではないでしょうか

観光は宿だけのものではない。街ぐるみでの受け入れが大切

201609301207_2-250x0.jpg いえ、家族の旅館の場合、問題があります。そこには家族しかいないということです。そうなんです。宿周辺、町ぐるみでお客さんを受け入れないといけない。そう気がつきました。つまり、観光とは、旅館だけのものじゃないまです。最初のころは「うちは観光旅館だ。旅館の中で、日本のおいしい料理を食べてもらおう」と張り切っていたものです。ところが、旅館で夕食を食べる人、いないんですよ。ごく稀に食べたいという方がいる。例えば、1人いる。たった1人の夕食の仕込みをすると、これはもう赤字になっちゃうのです。

中村 そうですね

 家族と相談して、それだったら、夕食は、周辺の街にお願いしようと決めました。それで、旅館周辺のエリアマップを作ったんですよ。街のお店には「玄関に"Welcome to"って書いておいてください」とお願いをしました。そうそうすれば、外国の人が店に来るからと。それと、「写真入りのメニューを作ってください。そこに値段さえ書いてあれば、もう、それで完璧です」と。もっとも最初のエリアマップでは、間違いを犯しちゃいましたが。

中村 と、おっしゃいますと?

 外国の方にさしあげるのだから、エリアマップは英語だけで作ればいいと考えました。ところが、それを持って街に出たお客さんが帰ってきて、こう指摘されたのです。「これは、だめだ。お前に教わった食堂の近所まで行ったので、街ゆく人に地図を見せて道を尋ねた。そうしたら、そこに英語しか書いてないものだから、みんな逃げ出しちゃった。こういうものは、英語と日本語とを併記しなさい」とね。

中村 そういうことですね

 あるテレビの取材で、「澤の屋は、あえて旅館での夕食提供をやめた。外国のお客さんが地元の街へ食事に出かけるように仕向けた」って放送されたことがあるのですけど、あれは間違い。

中村 1人分の夕食を作っていたのでは赤字になる。いわば、必要に迫られ、地元の街の人にお願いにしたというのが事実なんですね

 

つづく
最終回「異文化の接点。それが宿」
10月24日掲載予定

 

日本のインバウンドビジネスを切り開いてきたひとり、ジャパンインバウンドソリューションズの中村好明代表取締役社長が聞き手となり、訪日ビジネスの最前線を走る人々を迎え、「観光立国」日本に向けて、いま何が大切かを探る対談連載。題して「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」を始めます。

第1回は、東京・谷中で訪日客を迎え続けて35年を数える澤の屋旅館の館主、澤功(さわ・いさお)さん。止むに止まれず始めた訪日客対応だったという意外な事実から、訪日客4,000万人時代に向けて日本の旅館はどうするべきかまで4回(毎週月曜日掲載予定)に渡ってお伝えします。今回はその3回目です。1回目はこちら。2回目はこちら

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