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求められる日本の先進医療 増える訪日患者

2016/08/29
201608291639_1.jpg聖路加国際病院の会員ロビー

日本の先進医療を求めて来日する外国人が増えている。

中でもプライバシーを守りたい裕福な中国人が日本の病院の高い信頼性と親切、丁寧な対応に注目、日本で治療、診療を受ける医療渡航者の大多数を占める。

医療ツーリズム体制の充実に取り組む政府の後押しもあって、外国人患者の受け入れに積極的な病院も増加。新たな収益源になりうるとの読みからで、両者を仲介する旅行会社も力を入れている。

「受診した日本の病院で初めて検査内容などの説明を聞いた中国人は多く、感動して泣き出す患者もいる。だから満足度は高い」

医療渡航者を受け入れる病院をサポートする「医療渡航支援企業」に国から最初に認証された日本エマージェンシーアシスタンス(EAJ)の辛鑫・国際医療事業部主任は、日本で医療サービスを受けたい中国人が多い理由をそう説明する。

中国の有名病院では順番待ちの長い列ができるため診療時間は数分で終わり、説明もない。にもかかわらず医療費は高い。このため「中国の病院には行きたくない」という富裕層は少なくない。

EAJと一緒に医療渡航支援企業に認証されたJTBの調査によると、中国人に病院への不満点を聞いたところ、次の3つが上位を占めた。

  1. 「医療費が高い」
  2. 「待ち時間が長い」
  3. 「医師・看護師・検査技師の信頼性が低い」

調査結果をまとめたJTBグループのジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター(JMHC)の高橋伸佳センター長は「自国医療への不信感が来日につながっている」と指摘する。中国人は病院を選択する基準として真っ先に「評判・信頼性」をあげるからだ。

「国際化に舵を切る」と聖路加国際病院

「中国でも高いブランド力をもつ」(辛氏)という聖路加国際病院。日本政府が外国人患者の受け入れ推進を打ち出し、医療渡航者の長期滞在などを認める医療滞在ビザを創設した2011年1月、同病院の福井次矢院長は「今年を期して本格的に国際化に舵を切る」と宣言。外国人患者と英語などで意思疎通できる職員を増やしたり、世界で最も厳しいといわれる医療施設評価認証機構の「JCI認証」を取得したりと矢継ぎ早に手を打った。

2012年秋には東京・大手町に、外国人ビジネスマンをメーンターゲットにした聖路加メディローカスを開設した。人間ドックに力を発揮するPET(陽電子放出型撮影法)―CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁気共鳴画像装置)など最新の検査機器を備え、医療の質とあわせて外国人患者を増やしている。

同病院人事課の原茂順一マネジャーは「高品質とそれに見合った価格をポリシーに、患者に不義理がないように徹底的に対応する。中国人などは満足するとリピーターになるし、親族や友人を連れてくる」と話す。福井院長は「メディローカスの外国人比率は10%前後だが、 2020年には20%を目指す」と手応えを感じている。

201608291650_1.jpg外国人患者の問診を通訳する聖路加国際病院の担当者(右)

今年の外国人患者は治療で200人強、人間ドックで 150~ 200人に達する見通しで、問い合わせは月間250~300件という。「どんな治療ができるのか」「金額は」といった質問が多いという。

 

湘南鎌倉総合病院はハラル認証も取得

外国人患者の受け入れに熱心な湘南鎌倉総合病院は、2012年に国際医療支援室を開設すると同時に認証プロジェクトを推進。同年に外国人にアピールできる「JCI認証」を、2013年には日本版JCIと呼ばれる「JMIP認証」を取得。さらにムスリム(イスラム教徒)にとって食の安全・安心を確保する「ハラル認証」も差別化戦略の一環として取得した。

「医療渡航者のほとんどが中国人」という同病院だが支援室の海老沢健太主任は「訪日客の治療に積極的に応じる。安心して来てほしい」とアピール。そのために英語、フランス語、中国語など外国語が話せるスタッフを揃える。その甲斐あって患者数、売り上げとも増加、売り上げは全体の10%を占めるまでになった。「将来は20%程度まで引き上げる」と意欲的だ。

「医療は産業ではない」の声も それでも世界は高い評価

日本で医療サービスを受けた外国人は高い技術力と親切、丁寧な対応に満足して帰国する。このため医療ツーリズムは拡大の一途だが、言葉の壁や文化の違いのほか、「倒れたら助けるのが医療であって産業ではない」という意識が医療現場には依然として残っており、「医療ツーリズムに積極的ではない」「旅行の一環で治療はやめてほしい」との声も聞く。

しかし「世界の医療サービスを知り、日本人より厳しい目でみる中国人」(辛氏)の口コミもあって、世界で高い評価を得ているのは確かだ。正確なデータはないが「訪日客の伸びと連動している」(高橋氏)といわれるほどで、人口減少時代に突入した日本の病院にとって医療ツーリズムは収益源になりうる。


ある病院関係者は「医療費抑制傾向が続く中、頼りになるのは保険外収入。また最新鋭の医療機器を買い続けるためにも、インバウンドを受け入れる態勢を強化していく」と打ち明ける。病院にとってもはや医療ツーリズムは欠かせない。

初日は成田空港に到着してから東京・銀座や浅草に向かい、翌目は箱根で露天風呂に入る。3日目は京都と大阪を訪れ、4、5日目は大阪の病院「聖授会」でPET(陽電子放出型撮影法)検診。6日目に関西空港から帰国―。

五つ星クラスのホテルに泊まりながら

日本旅行が扱っている「PET検診ツアー」の基本プランだ。訪日外国人観光客に人気のゴールデンルートをめぐりながら五つ星クラスのホテルに宿泊し、ミシュラン三ツ星店で食事を堪能する。費用は日本の地上手配部分で80万~100万円が標準(検診費用は別に約50万円かかる)という。

訪日医療ツーリズム推進室の青木志郎室長は「あくまでも標準的なコースだが、医療観光は定番のコースを売るのではなく、医療をメーンとして、それに付随した最高級の宿泊、食事、交通をオーダーメイドで提供する」と強調。「特に中国人は食事に手を抜かないので直接予約に行くこともある」と笑う。

経済的に裕福な中国人がメーンの検診だが、その前後に訪れる場所として夏は北海道が人気。中国映画「非誠勿擾(邦題:狙った恋の落とし方)」の舞台となった釧路や阿寒湖など道東がブームという。移動は専用車やファーストクラスを使い、通訳もつく。すると1人当たり数百万円に達するが、「親切、丁寧、施設もいい」と納得して帰国すると、数年後にはまたツアーを利用してくれるという。

同社が医療ツアーに乗り出したのは2009年4月。中国の旅行会社「優翔国際(ラビオン北京)」と提携し、同国の富裕層を対象に聖授会OCAT予防医療センターでのPET検診と観光を組み合わせたオーダーメイドツアーを開始。同年は49人、2010年は過去最高の268人を来日させた。「PET検診で来日する」中国人ブームの火付け役となり、その後も年間80~100人強が利用している。

富裕層相手に儲けたい旅行会社が相次いで参入したが、価格競争に突入。しかし「富裕層は安全・安心・正確という医療の質を求めてくる。加えて高度な手配能力が必要。手間がかかるので、安定的に収益をあげられるほど甘くない」(青木氏)ことが分かると撤退が相次いだ。

JTBは2010年から、中国人を中心にオーダーメイドの医療ツーリズムを提供している。参加者は増加傾向を示しており、2015年度は前年度比20%増えた。この間、中国には北京、上海、広州に拠点を構えるとともに、日本では100超の病院と提携した。

JMHCの高橋氏は「中国などからの医療渡航者は有名な医師とブランド病院、最新機器による高度医療を求めてくる。ニーズを聞いて対応する必要がある」と話す。このため現地からの問い合わせに対する病院の紹介、セカンドオピニオンの取り次ぎ、医療滞在ビザなど医療渡航に関する情報提供から、医療サービスを受けた後のフォローまでトータルで応えるという。

こうしたサービスを提供する医療渡航支援企業の存在は、受け入れる病院にとっても大きい。聖路加の原茂氏は「外国人患者の受け入れは煩雑で、見積もりも面倒。問い合わせから治療に至る割合は10~ 15%と打率は低い。支援企業に任せると100%になる。患者の医療情報も欲しいものを持ってきてくれる」と評価する。手間いらずで治療に専念できるうえ、商品づくりなどのアドバイスも受けられるという。

渡航支援企業を認定して不安の払しょくを

医療周辺だけでなく、来日する医療ツーリストが不安に感じるのが言葉の問題。来日から帰国までの生活も不安だ。だからこそ政府は医療渡航支援企業を認定して医療渡航者の不安の払しょくに努めている。

その1社がEAJで、空港への送迎から宿泊、滞在中の生活面での支援まで外国語で丁寧に対応する。同社の辛氏は「病院に連れて行って終わりではない。安心して滞在できるよう24時間対応する。深夜でも呼ばれるとタクシーを飛ばして宿泊先まで行く」とフルサポートぶりを強調する。

サービスが認められて2010年以来、44カ国から1,000人を超す患者を100超の病院に送り込んだ。

「日本国際病院」政府が海外に発信

外国人患者の医療渡航をコーディネートする支援企業の活躍が医療ツーリズムの拡大に不可欠だが、日本には2社だけだ。対外的な信用力をつけるまでにはいかない。一方で受け入れる病院の経験、ノウハウも不足している。そこで政府は外国人患者の受け入れに熱心な病院のリストを「日本国際病院」として海外に発信することにした。

政府は昨年、成長戦略に国際病院構想を盛り込んだ。日本の先進医療を求める中国やロシアの富裕層を呼び込み、医療サービスだけでなく観光も組み合わせることで経済成長につなげるためだ。政府と病院、旅行会社などが連携して医療ツーリズムを盛り上げようとしている。

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