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[連載] 観光立国のフロントランナーたち 日本観光振興協会の久保成人理事長(最終回)

2017/12/25

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。日本観光振興協会の久保理事長との対談の最終回となる第4回では、オリンピック後の日本が直面する課題と解決に向けた取り組みについてうかがいました。

Beyond2020と人口減少社会

中村 東京オリンピック/パラリンピックまであと2年8か月。オリンピック後はまさに「Beyond(ビヨンド)2020」となるわけです。このオリンピック後の未来へ向けて、日本の観光関係者はどういうことに取り組んでいくべきか。また、日本観光振興協会としてどんなチャレンジしていくのかお聞かせください。

beyond2020 2020年以降を見据えた日本文化の魅力発信やレガシー(遺産)創出のための取り組み。政府は「beyond2020プログラム」と名付けた認証組織を設け、公的機関や民間、任意団体などの幅広い取り組みを認証し、活動を後押ししている。

久保理事長 2020年は一つの区切りになりますが、その前後で何かが急激に変わるわけではなく、大きな流れは続くでしょう。日本にはいろいろな課題がありますが、最大の課題は人口減少です。高齢化も問題ですが、それ以上に人口が減るということは厳然たる事実です。1億2000万人だった人口がどんどん減って、推計によれば2100年には5000万人を切るとみられています。

「2100年なんて関係ない」と思われる方もいるかもしれませんが、これは遠い未来の話ではなく、われわれの子や孫が直面する問題です。自分たちの子孫が関係するであろう未来において、人口が5000万人を切るような国になる。これは日本の最大の課題といえます。

これに対してどう対策をとるか。いろいろな地域を歩いていると、自分の市町村が人口減少によってどうなっていくのかというのは、非常に切実な課題になっていることがよくわかります。おそらく多くの地域では2040年、2050年といったもっと近い未来に人口が3割くらい減少する地域が日本中に現れる可能性があります。そのような自治体にいる方は、本当に大変な問題だと認識されているし、首長も責任を感じて悩んでいます

中村 私も地方に行くと、同じような悩みを打ち明けられることがあります。

久保理事長 私は、解決策は2つしかないと考えています。一つは移住です。とにかく人に来て住んでもらう。二地域居住やお試し居住といった形でもいいので住む人を増やしていく。一時的な移住からスタートしても、その中から定着する世帯が現れるかもしれない。そして、定着して子供が生まれ、自然増に変わる期待も出てきます。

もう一つは、交流人口の増加です。旅行者を増やして長期滞在をしてもらう、インバウンドで国際交流人口を増やすというやり方です。また、例えば、東日本大震災の後に宮城や岩手などの被災地でかつてボランティアとして活動していた人たちが、その後もいろいろな交流を続け、時々、被災地を訪れているという人たちが結構いらっしゃいます。そのような交流人口を地域として増やしていく。人口減少社会にはこの2つの解決策があると思っています。

これを口で言うのは簡単ですが、本気でやろうとすると地域が相当しっかりしていないとできないと思います。これはDMO(観光地経営法人)の人材の話とつながってくるのですが、結局は「人」なんです。高い意識を持った人がいる、高い能力のある人がいる、ということが非常に大事なのです。現在は大都市にそういう人材が集中しがちです。地方にもそういった人材を育てるか、連れてくるかする必要があると思います。

観光が地方の雇用の受け皿に

中村 あるいは、人を育てるのと連れてくるのとその両方を行う必要がありそうですね。

久保理事長 そうは言っても若い人は地方から出て行ってしまうし、行きたいと思ってもなかなか職がないという問題がありました。若い人や行きたい人に職を提供するためにはいろいろな方法があると思います。その一つの答えが、「観光によって職を作る」ということです。今、「都市からの脱出」ということで地方への移住をする人が増えているので、非常にいいチャンスです。

DMOもそういった人材を求めていて、それに応じようとする人がたくさん出てきています。DMO側もそれなりの高給を出そうとしていますが、もっと高い給料を大都市でもらっているような人が多い。しかし、給料が下がってでも応募する人がいるのは、今やっている仕事よりも内容が面白いからという理由です。何が面白いのかというと、収益性がありながら、かつ社会貢献ができる仕事に魅力を感じているという声を聞きます。

売り上げの数字、コストに日々、忙しく追われる都市から脱出したい。そう思っている有能な人材はかなりいて、それを求める側が地方にいて、また、それを仲介していく人たちがいて、人と人とがつながって動いていくと、DMOのリーダーとなる人材が生まれてくる。そんな仕掛けを作ることができるのではないかと思っています。

中村 これまで地方ではせっかく大都市圏で勉強して来ても、それを地元で生かせるような場がありませんでした。これからは語学ができるとか、マーケティングができる人たちが地方で活躍できるステージが、訪日客2020年4000万人、2030年6000万人を掲げるインバウンド時代に向けて、日本の地方にも生まれつつあるのだと思います。

久保理事長 今まで地方で求められてきた人材は製造業が中心で、仕事の内容は単純労働か技術系の仕事でした。大都市でマーケティングや広報宣伝をやっていたという人たちが働くような場所はなかなかありませんでした。ところが、インバウンド4000万人時代になれば、いろいろな地域でそういう人材を求める職場が生まれます。遠方の大都市からそうした人材が移住すれば、いずれ子供が生まれて自然増にもつながるかもしれないし、このような人口を増やす取り組みを続ければ、日本の地域は変わっていく可能性が大きいと思います。

中村 私はインバウンドのベッドタウン(外客の皆さんが泊まるだけの町)ではなくて、インバウンドのホームタウン(外客の皆さんの心の故郷)になっていかなければならない。そしてこのホームタウン化こそが真の観光立国であり、地方創生の礎となりうるインバウンドだと思います。

久保理事長 興味深いご意見ですね。日本観光振興協会は地域と一つになって仕事をしています。地域の危機意識にわれわれも共感して、観光で何とか頑張っていきたいという地域を応援しています。それで地域が変わっていけば、違う世の中が実現するのではないかと思っています。最終的に地域の人が変わらなければならないので、まずはいろいろなやり方で意識を変えていくことが必要です。協会としても、人材育成の支援をはじめさまざまなチャレンジをしていきたいと考えています。(終わり)

久保成人(くぼ・しげと) 1954年大阪市生まれ。1977年京都大学法学部卒業後、運輸省に入省。2010年国土交通省鉄道局長、12年国土交通省大臣官房長を経て、13年8月から15年9月まで観光庁長官。16年6月から現職。日本ナショナルトラスト理事、日本自動車連盟経営諮問委員会委員、ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構副会長、北前船交流拡大機構副会長などの役職も務めている。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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