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[連載] 観光立国のフロントランナーたち 日本観光振興協会の久保成人理事長(3)

2017/12/19

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。日本観光振興協会の久保理事長との対談の第3回では、観光立国を推進していく上での課題について、久保理事長にうかがいました。

言語のバリアをICTで取り払う

中村 2017年はおそらく訪日客数が2800万人を超えてくるのではないかと思われます。この調子でいけば、2018年は3000万人も見えてきます。その中で、今、日本の観光立国、あるいは観光先進国を実現する上で、日本が抱えている課題や解決すべき問題点についてご指摘ください。

久保理事長 観光先進国とは何かと考えると、大都市だけではなく各地域により多くの旅行者が訪れ、その地域の人々と交流を多く持てる国であるというのが第一要件になると思います。そのためにはいろいろな課題がありますが、まず言語の話をしたいと思います。

身振り手振りで何とかなるとは言っても日本にはやはり言語のバリアがあります。外国語ができる人にとっては何でもないことなのですが、普通の日本人にとっては、言語はバリアです。「英語を勉強しなさい」と言えばそれまでなのですが、バリアを崩す一つの方法は、ICT(情報通信技術)活用だと思います。ICTの進展で、音声翻訳機器が急速に進化しているので、もっと普及させたらいいと思います。

ホテルの従業員のように、接客の場面では言語ができる方が多いですし、自動で翻訳する機器も普及してきています。接客の場面でなくても、一般の方々が、翻訳機器を持つことで言語のバリアを下げるきっかけになるのではないかと思います。もちろん、そういう機器がなくても交流はできるのですが、少しでも言語のバリアを下げる試みを技術によって取り組めばいいと思います。

このような取り組みは、言語のバリアが少ない米国や欧州では思いつかないのではないでしょうか。技術の助けによってバリアを取り払うことで、訪日外国人旅行者と接する心理的なバリアも変わっていくと思いますね。

中村 ICTを力にして言葉のバリアに対する心のバリアも取れてきたら、次の段階で英語をちゃんと勉強しようとチャレンジするきっかけになるかもしれません。技術が呼び水となって相互交流に生かせればいいですね。

ホストコミュニティーとDMOの役割

中村 「いなか民泊」に関連して、先日、グリーンツーリズムの専門家である東洋大学教授の青木辰司(しんじ)先生と打ち合わせをしたのですが、地方がますます高齢化する中で、民泊で「夕飯も朝食も出して」というサービスは過度な負担になってきます。

そこで、英国などで行われているファームステイのように基本的に自炊をしてもらって、自炊をしたくなるような食材を道の駅や地元の商店街、コミュニティー全体で提供していくような仕組みづくりが必要だという指摘をされていました。そうすると、ホスト側の負担が減って、また、それは欧米系の方々の冒険心を満たすので、面白い提案だと感じました。

ファームステイ いなか(農場)に滞在して、ホストファミリーとの交流や農作業や家畜の世話、動物とのふれあいを楽しむ民宿の一種。仕事を手伝う代わりに滞在場所や食事を無料で提供してもらったり、有給で農作業などを本格的にしたりするものなどさまざまなスタイルがある。ご当地の農作物と食事の自炊や乗馬、トレッキングなどいなか(農場)ならではの体験を楽しむことができるのも魅力とされる。

訪日客でもアジア系は、けがをしてもすり傷程度の軽微なものが多いのですが、欧米系は骨折や捻挫など本格的なけがをする方が多いようです。それは旅の本質が欧米系の人たちは「冒険」で、そういう意識がある。だから、自分で食材を買って自分で地元のレシピを学んで、という体験を好みます。日本の民泊というのは、どうしても1泊2食付きという固定観念があります。しかし、民泊の本質というのは「自炊」というところがポイントなのではないかなと思いますね。

久保理事長 地域で民泊に取り組むのであれば、コミュニティー全体で迎えるようにして「食事はこちら」「食料調達はこちら」「宿泊はこちら」と役割分担をすれば、ホスト側の負担も減って、よりうまく回っていく可能性がありますね。

中村 いろんなオプションを出したり、さまざまな対応をしたりするのは1軒ではできませんが、地域全体でやる。これを英国では「ホストコミュニティー」と呼ぶらしいのですが、宿泊施設同士が困ったことや、うまくいったことなどを共有し、協力しあう仕組みが非常に発達していますね。

久保理事長 DMO(観光地経営法人)がそのような形の宿泊を推進して地域全体で役割分担を作っていければ個々の負担は少なくなりますね。

中村 残念ながら日本にはそういう先進的な地域がまだ少ないようです。

久保理事長 DMOが推進するにはふさわしい取り組みと思いますが、まだ、そういう発想はあまりないですね。日本の地域でも欧州の民家とは違う日本独自の面白い体験を作ることができるはずです。訪日外国人旅行者は、何気ない日常の空間に入ることを求めていますから、日本もそんな仕組みや迎え方を考えないといけませんね。

それができないと、日本の真の開国はまだ遠いかもしれません。地域に多くの外国人旅行者が訪問することによって、真の開国がなされるのではないかと思います。本当に今後の日本のことを考えれば、いろいろな地域、また、そこに住む若い人たちを含めて真の開国をする。そのためにはさまざまな方法があると思いますが、訪日外国人旅行者がその地域に行って「いなか民泊」を含め宿泊をする、それが結果として迎え入れる側との化学変化のようなものを生み出して、真の開国となっていくのでしょう。

中村 ホスト側として受け入れて世界中の人がやってくると、逆に海外に出かけていくきっかけにもなります。そういう動きが日本中で起きれば、双方向のツーウェイツーリズムも実現しますね。(続く)

久保成人(くぼ・しげと) 1954年大阪市生まれ。1977年京都大学法学部卒業後、運輸省に入省。2010年国土交通省鉄道局長、12年国土交通省大臣官房長を経て、13年8月から15年9月まで観光庁長官。16年6月から現職。日本ナショナルトラスト理事、日本自動車連盟経営諮問委員会委員、ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構副会長、北前船交流拡大機構副会長などの役職も務めている。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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