Logo sec

インバウンドに〝スルー〟される奈良、旅行消費全国最低、目当てはシカと大仏だけ…観光客増も喜べぬ古都の事情

2017/12/11

 昨年、外国人観光客が初めて100万人の大台を突破した奈良市。世界遺産・東大寺や奈良公園周辺は連日、外国人のグループでにぎわっている。ところが、一人当たりの旅行消費額で見れば、奈良はダントツの全国最下位。立ち寄った外国人客の約9割が日帰りで、宿泊は大阪や京都で-というケースがほとんどだ。“通過される街”奈良。外国人客はいったい何を目当てに足を運んでいるのか。21カ国から来た53組に突撃取材を敢行し、テレビでおなじみのフレーズをぶつけてみた。「YOUは何しに奈良へ?」-。(奈良支局・神田啓晴、藤木祥平)

口コミで訪れた外国人客も

シカに鹿せんべいを与える外国人観光客=奈良市

 昨年、奈良市を訪れた外国人観光客は前年比61・64%増の157万6千人。東京都(約1310万人)や京都市(661万人)にはさすがに及ばないが、堂々の数字といえる。

 奈良にはどんな思いでやってくるのか。11月下旬から12月初旬にかけ、東大寺や奈良公園を散策している外国人観光客に声をかけて回った。最も気になる「奈良のお目当て」は、実に39組(73・5%)が「シカ」または「奈良公園」と回答。「大仏」「寺社仏閣」を挙げた観光客も33組(62・2%)に上った。「紅葉」「庭園」などの少数意見もあったが、ほとんどがシカや東大寺の大仏を目的に訪れていることが分かった。

 世界最大級の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が発表した「外国人に人気の日本の観光スポット」で、東大寺は5位にランクイン。レビューには、「ここに来なければ奈良を訪れたとはいえない」「関西に来るなら、必ず訪れるべき場所です」などといったコメントが並ぶ。奈良公園もトップテン入りこそ逃したが、11位と健闘している。

 

 一方、「あなたの国で奈良は有名ですか」と聞いたところ、34組(64・1%)が「NO」と回答。オーストラリア人男性(36)は「有名ではないけど、日本に行ったことがある友人が『奈良は良かった』と教えてくれたので旅行に組み込んだ」と話す。友人や知人に勧められ、奈良を訪れたのは23組(43・3%)。口コミによる好循環も、インバウンド(訪日外国人)が近年急増する一助となっているようだ。

平均宿泊数はわずか0・8泊

 だが、喜んでばかりもいられない。奈良の場合、外国人観光客から高い関心が寄せられる半面、それがなかなか観光消費や宿泊客数の伸びに直結していないのだ。

 観光庁が発表した「訪日外国人消費動向調査」(平成28年確報値)に、奈良が直面するジレンマが垣間見える。外国人観光客が滞在先でどれだけのお金を使うかを示す「旅行消費単価」を見ると、奈良県は平均4527円で、なんと全国最下位。ちなみに、8442円で“ブービー”の山梨県にもかなり水を開けられているのが悲しい。

 近畿の他府県のデータをひもとくと、大阪府の3万6720円がトップ。次いで京都府の1万6303円、兵庫県の1万1311円。奈良はまさに一人負けといっていい。

 観光消費額をアップさせるには、宿泊客数をいかに増やすかが肝要だ。だが、同調査の「平均泊数」を見ると、奈良は0・8泊とこちらも全国ワースト。残念ながら、不名誉な“2冠”を達成してしまった。

お金を使う機会は寺社の拝観料だけ

 街頭調査で得た回答の数々は、観光庁のデータの確かさを裏付ける結果となった。「奈良で買い物する予定は?」と尋ねたところ、大半が「…」と言葉を詰まらせた。あるドイツ人女性(39)は「お金を払うとしたら、寺社の拝観料くらいかしら」とつれない返事。日帰りで奈良を訪れた外国人観光客は、53組のうち47組(88・6%)と9割近くに上った。

 調査に協力してもらった観光客の6割以上が、日本には2週間以上滞在するという。それなのになぜ、大半が奈良では宿泊しないのか。オーストラリアから訪れたジョシュ・モファットさん(25)は「他にも回るところがあるからね。時間があれば泊まってもいいんだけど…」。

 近畿運輸局と関西経済連合会などの分析によると、昨年4月から試験販売した訪日外国人向けIC乗車券「関西ワンパス」(KANSAI ONE PASS)利用者の関西2府4県における滞在時間は、大阪府の62・5時間、京都府の25・5時間に対し、奈良県は最短の4・7時間にとどまった。大阪や京都に宿泊し、奈良には日帰りで足を伸ばす行程が定番化している実態が改めて浮き彫りになった。

ホテルの開業ラッシュに膨らむ期待感

 実を言うと、奈良県内のホテル客室数は全国最下位。この事実が少なからず足を引っ張っているのは確かだろうが、奈良の観光産業の先行きは決して暗くはない。奈良市内では今年、JR奈良駅周辺に3棟のホテルが相次いで新設された。東京五輪・パラリンピックが開催される平成32年までには、さらに6つの宿泊施設が相次いで新規開業する見通しだ。

 隣接する県営プールと奈良署双方の跡地では、外資系高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」が開業予定。奈良公園内の裁判所跡地には、緑豊かな庭園に囲まれた高級温泉旅館が計画され、ともに富裕層の来訪が期待できそうだ。

 また、明治政府が全国に建設した「五大監獄」で唯一現存する奈良少年刑務所(重文)の監獄棟をリノベーションする計画のホテルは、奈良が誇る歴史遺産を生かし、インバウンド誘致の目玉となるだろう。

 市も観光センターを約30年ぶりにリニューアル。観光客の滞在時間延長や宿泊客数増加を狙い、文化体験スペースやカフェを新設した。また、観光スポットでQRコードを読み込めば、11カ国語でそれぞれの歴史や情報を紹介する取り組みもスタート。奈良公園や薬師寺など市内の計500カ所以上が対象となっている。

 同市観光戦略課も、東南アジアや香港、台湾など各国の旅行業界にPR。課題の宿泊客増加に向けて攻勢を強める。同課の担当者は「奈良は京都、大阪と大量消費できる2つの都市に囲まれ、空港も新幹線の駅もない。地元の商店街や宿泊業界とも連携しながら、他府県にない魅力、奈良で足を止めてもらう理由を外国人に発信していきたい」と力を込める。

 官民一体で外国人観光客の受け入れ態勢の整備を急ぐ奈良。本格化するホテルの開業ラッシュを観光振興の起爆剤につなげられるか。「シカ」と「大仏」頼みの現状からの脱却が求められている。

あわせて読む

COOL JAPAN

もっと見る
「COOL JAPAN」の記事をもっと見る 「人気」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る

地方創生

もっと見る
「地方創生」の記事をもっと見る

奈良県

もっと見る
「奈良県」の記事をもっと見る

旅行業

もっと見る
「旅行業」の記事をもっと見る

文化財

もっと見る
「文化財」の記事をもっと見る 「京都」の記事をもっと見る

インバウンド

もっと見る
「インバウンド」の記事をもっと見る