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[連載] 観光立国のフロントランナーたち 日本観光振興協会の久保成人理事長(1)

2017/12/04

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(一般社団法人日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回から4回にわたって、公益社団法人日本観光振興協会の久保成人理事長が登場します。

久保理事長は前観光庁長官で、退官後、日本観光振興協会理事長として、日本の観光立国実現に向けて精力的に活動しています。久保理事長に観光庁長官時代から現在の日本観光振興協会理事長としての取り組みと、2020年以降を見据え日本文化に取り組む「Beyond2020」に向けた課題などについてお話をうかがいました。

DMOの形成とICTの活用で観光産業が多様化

中村 2017年も最後の月になりましたが、日本の観光立国の現状と現在の日本観光振興協会としての取り組みをお聞かせください。

久保理事長 おかげさまで当協会の会員は増加傾向にあります。新しい会員は既存の観光関係、交通関係の企業団体の方だけではなく多様化してきています。その理由は観光産業への関心がとても広範囲になってきているからではないかと分析します。背景としては観光地域を経営するという考え方が普及してきて、日本版DMO(観光地経営法人)の活発な形成があります。加えて、ICT(情報通信技術)の活用で、それらを扱う企業が観光という分野へ参入してきています。
この2つの背景があって、会員の数が増えて、多様化してきているということです。典型的な現象として、DMOがICTを活用し統計やビッグデータを用いた分析を行うなどの試みが活発になってきています。

日本版DMO(Destination Management/Marketing Organization) 多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人のこと。

中村 まさにインバウンドの高まりにより、富士山のように上に引っ張り上げられて、すそ野が広くなっています。観光庁などの政策も追い風でDMOやDMC(Destination Marketing Company)という機運が高まり、国内の観光産業界全体にインバウンドの効果が出てきているという側面もあると思います。

久保理事長 私は昔からインバウンドと国内観光をあまり区別していません。訪日外国人旅行者も日本国内に入れば国内観光をするわけですから、インバウンドが増えればそれが牽引(けんいん)役となって国内観光に従事するいろいろな組織を活性化していくだろうと以前から思っていました。その現象が実際に起きていると思います。

「いなか民泊」の推進を

中村 今回、いわゆる民泊新法(住宅宿泊事業法)が2018年6月15日に施行されるということが報道されていますが、まさにこれから地方で、従来型の観光ではない「農泊」などのいろいろな選択肢や可能性が出てきたと思います。

久保理事長 そうだと思います。今の訪日外国人旅行者が何を求めているのか。もちろん買い物も食事もあるかもしれませんが、少しずつ地域の人との交流や接点を求めるようになっていると思います。各種のアンケートでも「せっかく来たのだから、日本の地域の人とコミュニケーションを持ちたい」というコメントが数多く出てきています。そのための方策はいろいろありますが、地域での民泊はその一つといえます。私はそれを「いなか民泊」と呼んでいます。

「いなか民泊」では、その土地でしか味わえない体験ができます。日本の地域の生活の一端を味わうことができるということが旅行者にとって魅力です。また、受け入れ側、特に地方で、今まで外部との接点が少なかったお年寄りが「いなか民泊」で旅行者を受け入れると、すごくやりがいや生きがいを感じるという感想もたくさんあります。これは、ある意味「生きがい民泊」というものにもなるのではないかと思っています。「生きがい民泊」では経済的にも年金以外の収入が入り、これがおじいちゃんやおばあちゃんから孫への小遣いにもなる。旅行者、受け入れ側の双方にとっていいものになるという印象を受けています。

DMOの人材育成

 

久保理事長 当協会の話をさせていただくと、昨年4月に「DMO推進室」という日本版DMOの窓口組織を作りました。そのDMO推進室という組織を通じて、いろいろな支援をしていますが、DMO側からの要望で一番多いのは、人材育成に関することです。

 

DMO候補法人向けにアンケートを実施したところ、一番困っているのは人材と財源という結果でした。人材については、「さまざまなレベルや分野に応じた研修をします」と呼びかけをすると、必ず定員以上の申し込みがあります。

中村 日本の人口が減り、現役人口が減っていき、観光産業が斜陽産業化しつつある中で、インバウンドという大きなチャンスがやってきました。その中で、何とかして人材を育てて成長しようというモチベーションが地域に生まれています。

久保理事長 本当にそうだと思います。地域で頑張っていこう、振興していこう、という意欲的な地域ほど、インバウンドは求められていると思います。私も業務で各地を行脚するたびに、ひしひしとそれを感じています。

DMOでなければ地域の観光地経営ができないというわけではないのですが、DMOは一つのやり方として有力な手段です。DMOの人材を育てることが日本の観光地経営を推進し、またインバウンドに対する対応策にもなるのだと思います。

中村 DMOという形になってくると、従来の観光産業におけるような情報への受け身的な姿勢から、情報発信に対する主導性を発揮して、地域の観光産業を変えていく上で能動的な主体者へと自己変革を遂げていかねばなりません。現在の日本のDMOを本物に育てていく必要があります。

久保理事長 観光産業は、大都市から大きな旅行会社が送ってくる旅行客を受け入れるという受け身な姿勢だったのが、地域側で主体的に自分から手を伸ばして観光を振興するということが始まったと思います。それがDMOという形になって表れています。また、それが特に人材研修における当協会に対する期待にもなっており、初歩から中級、また上級まで、あるいはマネジメントやマーケティングに特化したもの、いろいろな形の研修がDMOより当協会に求められています。当協会自身もレベルアップしながらこの人材の育成に取り組んでいきたいと思っています。

インバウンドで気付かされる地域の誇り

中村 これまで訪日客があまり来なかった地域、あるいは国内客すらあまり訪れることのなかった地域に、今後、民泊などで旅行客がやってくるということで、地域の人たちも、自分たちの地域への誇りやアイデンティティ、興味や関心というのが高まってきているということをすごく感じますね。

久保理事長 よく言われるのが「自分たちの地域には何もない」「外国の方に体験してもらうものなんてここにはない」ということです。しかし、「この風景、この田んぼ、皆さんが毎日食べているようなものこそが観光資源です」ということをまず知ってもらう。磨きがいのある資源はたいていどこの地域にもあるものです。だんだん地域の人たちが自発的かつ自覚的にそのことを認識し始めたと思います。それは観光立国にとって実はとても大切なことで、地域の人たちが「自分たちの地域には何もない」ではなくて、「そうか、自分たちの地域にはこういう資源があって、それがわが地域の誇りだ」ということに気付かされる。非常に大切なことだと思います。

インバウンドの話は経済中心になりがちですが、最近は経済だけではなく、経済プラスアルファの効果が出てきていると強く感じます。つまりお金では評価ができないような現象が日本各地で起きているということです。(続く)

久保成人(くぼ・しげと) 1954年大阪市生まれ。1977年京都大学法学部卒業後、運輸省に入省。2010年国土交通省鉄道局長、12年国土交通省大臣官房長を経て、13年8月から15年9月まで観光庁長官。16年6月から現職。日本ナショナルトラスト理事、日本自動車連盟経営諮問委員会委員、ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構副会長、北前船交流拡大機構副会長などの役職も務めている。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』(日経BP社、2017年)がある。

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