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[連載] 観光立国のフロントランナーたち 国際医療福祉大学大学院 岡村世里奈准教授(最終回)

2017/11/27

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。国際医療福祉大学大学院の岡村世里奈准教授との対談、最終回となる第4回では、今後のインバウンドの振興のための提言として、根拠に基づいたプロモーションの重要性やウェルネスツーリズムの可能性などについてお話をいただきました。

「医療のレベルが高い」だけでは通用しない

中村 日本の医療分野におけるインバウンドをさらに発展させていく上で、関係者は今後どう取り組んでいくべきかご提言をお願いします。

岡村准教授 先ほどお話したように、少なくとも医療ツーリズムの分野では日本はほとんど無名状態です。ですので、まずはしっかりとプロモーションを行うことが重要だと感じています。ただ、ここで気を付けていただきたいのは、医療ツーリズムのプロモーションというと、「質の高い医療」や「優秀な医師」「最先端の医療設備」などといった抽象的な表現を多用してプロモーションを行う方が日本では時々いらっしゃるのですが、このようなプロモーションは国際的にはまったく通用しません。

なぜなら、「質の高い医療」「優秀な医師」といったものは医療ツーリズムに参入するならば当たり前のことで、「質の高い医療」「優秀な医師」などをアピールしたいのであれば、「どれくらい質の高い医療が提供できるのか」「どんな優秀な医師がいるのか」ということを手術実績や成功率、医師の経歴など具体的なエビデンス(根拠)を用いて示していく必要があります。

実際、医療ツーリズムの先進国や先進地域をみてみると、さまざまな臨床医学上の根拠(エビデンス)などを上手に活用しながらプロモーションをしています。この点が日本ではまだまだ弱い気がします。

中村 日本には「匠の技」というような、あいまいで数値化できない美意識のようなものがありますね。

岡村准教授 確かに。しかし、本人の体や健康に直接関係する医療ツーリズムの領域では、数値化した「根拠」を示すことは非常に大切なことです。例えば、ロシア人患者に人気の渡航先(国)はどちらだと思われますか?

中村 タイやアメリカでしょうか。

岡村准教授 それらの国々もそうですが、実はイスラエルが人気なんです。つまり、日本の中にもロシア人を対象とした医療ツーリズムに取り組んでいるところがありますが、ロシア人を対象にするということは、イスラエルの医療機関と勝負するということになるのです。日本では、このように海外の医療機関などと常に相対評価の対象にされているという意識を持ちながら医療ツーリズムに取り組んでいる方が少ない気がします。

ちなみに、このイスラエルの医療機関ですが、少なくとも医療ツーリズムに参入している医療機関は、医療の質や安全性に関してさまざまな国際認証を取得したり、日本の医療機関に劣らないようなスタッフや設備を整えたりしていて、一見しただけでは日本と比べてもどちらがより「質の高い医療」や「優秀な医師」を備えているのか分かりません。ですから、具体的な「根拠」を示してその価値を示すことが非常に重要となってくるわけです。

当たり前のことですが、インバウンドの医療ツーリズムは「国内市場」ではなく「国際市場」を対象にしています。また、医療ツーリズムは自国で満たされない医療・保健ニーズを求めて海外に行くという行動を基盤としているので、その国の医療環境や保健事情にも大きく影響されます。ですから、医療ツーリズムで成功するためには刻々と変化する医療ツーリズムの国際市場の動向や、対象とする国々の医療環境や保健事情などをしっかりと分析して、その国の方々が望むような医療ツーリズムプログラムを開発・提供していく必要があります。

「日本の医療はすばらしいから、少し体制を整えてプロモーションすればうまくいくだろう」というような「井の中の蛙(かわず)」的な発想・姿勢では、なかなか結果は期待できないと思います。医療ツーリズムに取り組まれる方には、是非、国際的な幅広い視野を大事にしながら取り組んでいただけたらと思います。

ウェルネスツーリズムが世界のトレンドに

岡村准教授 最近、医療ツーリズムの国際市場において特に注目されているのが「ウェルネス(健康増進)ツーリズム」です。医療ツーリズムは、分類上、(1)患者を対象とし、治療を目的とした狭義の医療ツーリズム(2)健康な一般人の健康増進や予防を目的としたウェルネスツーリズム―の2つに大別することができます。

これまではどちらかというと前者が注目されてきたのですが、最近では、世界的な高齢化や中流階層の飛躍的な増加によって、生活習慣病を抱える方々が今後急速に増加することが見込まれています。その方々を対象としたウェルネスツーリズム・プログラムの開発・提供・プロモーションが盛んに行われるようになってきています。市場自体も後者の方が前者よりも比較にならないほど大きいですから。

ちなみに、最近、ウェルネスツーリズムに取り組んでいる海外の方から、「日本にはいい温泉がたくさんあるのに、なぜ温泉を利用したウェルネスツーリズムがないのか」といったことをよく聞かれるようになりました。海外の方のほうがかえって日本の温泉の持つウェルネスツーリズム資源としての価値に気づいているようで少し驚きました。

中村 そうですよね。長期滞在してもらうためにも、ウェルネスのためだったらゆっくりここで過ごそうかな、ということが長期滞在の動機づけになるかもしれないですよね。

岡村准教授 例えばメディカル・スパ、いわゆる日本でいう湯治が盛んな中欧では、それが公的医療保障の対象となっている国もありますから。

中村 日本より制度も進んでいますね。

岡村准教授 そうなんです。中欧・東欧地域ではそのような自分たちのウェルネスツーリズム資源を生かして、急性期(病気になり始めの時期)の治療はドイツやフランスで受けても、その後のリハビリテーションやウェルネスは価格の安い中欧や東欧で受けてもらうというウェルネスツーリズムを積極的に実施しています。

そして、その中には、医療機関だけではなく、医療機関と提携してさまざまなウェルネスツーリズム・プログラムを提供しているホテルなどもたくさんありますが、そのホームページを見てみると、3日間から14日間のパッケージ内容や価格などに加えて、自分たちのところで提供したプログラムの臨床的な効果を学術論文としてまとめたものを掲載したりしています。ここでもやはり根拠(エビデンス)に基づいたプロモーションが行われているわけです。

中村 「ウェルネスツーリズム」というキーワードだけでも、相当ひらめく方がいると思います。

岡村准教授 世界の高齢化は2060年ごろまで続きますから、世界のウェルネスツーリズム・マーケットは今後ますます拡大していきます。また、ウェルネスツーリズムは健康増進・予防を目的としたものですから、美容やアンチエイジング、リラックスといったものから生活習慣病や認知症の予防などさまざまなプログラムが考えられます。

特に中国をはじめとしたアジア地域では今後、慢性疾患や生活習慣病を抱える方々が急速に増えてきています。健診や人間ドックなどもいいと思いますが、それに加えて、日本のいい自然環境の中で健康増進・予防につながる長期滞在型のウェルネスプログラムを開発したら、地方のインバウンド施策としても十分に機能するのではないかと思います。

中村 東欧などのウェルネスツーリズムの先進事例を視察して、日本でもすぐやれることを考えてみることが必要かもしれません。そもそも日本でも「湯治」という考え方や文化そのものが薄れてきています。まして「郷に入れば郷に従え」というような姿勢で日本のやり方を押し付けても外国人はついて来ない。そのためには、科学的で客観的な効果効能を根拠(エビデンス)として示す、グローバル基準なマーケティングの展開が必要ということですね。本日はどうもありがとうございました。(終わり)

岡村世里奈(おかむら・せりな) 1970年福岡県生まれ。上智大学大学院法学研究科博士前期課程修了。1999年国際医療福祉大学入職後、講師、米ロヨラ大学ロースクール・ビーズリー保健法律・政策研究所の客員研究員などを経て、2012年から国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野、2017年からは同大学院医療通訳・国際医療マネジメント分野の准教授を兼務。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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