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[連載] 観光立国のフロントランナーたち (2) 国際医療福祉大学大学院 岡村世里奈准教授

2017/11/13

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。国際医療福祉大学大学院の岡村世里奈准教授との対談の第2回では、岡村准教授の国際医療交流研究への取り組みのきっかけから現在までの取り組みについて振り返ります。

研究取り組みのきっかけには米国ロサンゼルスでの国際カンファレンスにおける日本の医療への認知度の低さへの衝撃がありました。政府の医療ツーリズム振興や観光立国推進の中で、新たに感じた課題について話をうかがいました。

認知度低い日本の医療サービス

中村 どういう経緯で法学から訪日客の医療の問題にかかわるようになられたんでしょうか?

岡村准教授 もともと医療法が専門だったんですが、国際医療福祉大学では大学院長(当時)の開原成允先生(故人)にずっとお世話になっていました。開原先生は医療の産業化や医療ツーリズムに高い関心をお持ちの方で、経済産業省の医療産業研究会の委員等もお務めになっていらっしゃいました。この開原先生のご指示で、2008年に、米国のMedical Tourism Association(メディカル・ツーリズム協会) がロサンゼルスで開催する「World Medical Tourism & Global Healthcare Congress」という医療ツーリズム関連の国際会議に参加することになりました。

当時の私は、自分の専門分野とも関係ないのであまり興味はなかったのですが、開原先生のご指示でしたし、旅費もすべて負担していただけるということしたので“おつかい”程度の軽い気持ちで参加しました。しかし、実際に参加してみると、そこでは40か国以上の医療ツーリズムに関係する医療機関やファシリテーター、政府関係者等が集まって、医療ツーリズムに関する多岐にわたる議論を展開しており、すぐに日本国内での取り組みや議論が非常に遅れていることに気づかされました。

そして何よりもショックを受けたのは、カンファレンスに参加されている方々が日本の医療や医療機関のことをほとんどご存知なかったということでした。

中村 日本の医療や病院には、今はまだ国際的なブランド力がないということですよね。

岡村准教授 そうですね。臨床分野であれば国際学会等で活躍されている先生はたくさんいらっしゃると思いますが、少なくとも医療ツーリズムのような「国際医療サービス産業」の世界では、日本や日本の医療機関は無名状態で、国際比較等の評価の対象にも加えてもらえないというのが当時の状況でした。

その後、民主党政権下の2010年に発表された新成長戦略において「国際医療交流」が柱の一つとして掲げられると、関係省庁でさまざまな関連施策が始まります。例えば、外務省関係では医療滞在ビザが創設されましたし、観光庁関係では医療観光に関する海外向けのプロモーションが積極的に行われました。そして、厚生労働省関係では、医療機関における外国人患者の受け入れを円滑に行うための研究を行う研究班が立ち上がることになり、私も分担研究者の一人としてこの研究班に参加することになりました。

研究班での私の最初の仕事は、医療ツーリズムで日本の医療機関を受診する外国人患者の受け入れに関する医療機関のためのマニュアルを作成するというものでした。日本国内には参考になるような書籍や先行研究はほとんどありませんでしたから、海外の関連書籍を読み漁ったり、国際カンファレンスで知り合った医療ツーリズムの先進国の医療機関の方々にお話を伺ったりして、それを日本の医療文化や医療習慣、医療実態に合うように調整して作成しました。

また研究班では、医療ツーリズムや外国人患者の受け入れに関心のある医療機関や関係者を集めて、定期的にシンポジウムや勉強会を開催しました。そうすると、医療機関や関係者の方から外国人患者の受け入れに関して、「こういうトラブルがありました」「こういう対応で困っています」といった情報がたくさん寄せられるようになりました。

徐々に高まってきた訪日客受け入れの危機意識

中村 実際に調査や研究をしてみると、これまで表に出ていなかった課題が表面化していった感じですね。

岡村准教授 はい。そして当初は医療ツーリズムに関する課題やトラブルに関する情報提供が多かったのですが、徐々に、現場の医療機関の方々から、緊急医療を必要とする訪日客患者の対応で困っているという声が多く寄せられるようになっていきました。そして2014年頃になると、研究班内でも「医療ツーリズムに関しても検討しなければならない課題は残っているが、訪日客の緊急医療の問題の方は深刻で至急手を打たなければならないのではないか」と認識が高まってきました。

そこで、研究班で実施した外国人患者の受け入れに関する医療機関向けのアンケート調査では、それまで「外国人患者」と一くくりにしていたものを、「在留外国人患者」「医療ツーリズム目的で日本の医療機関を受診する外国人患者」「日本滞在中に病気やけがで医療を必要とする訪日の外国人患者」の3つに分類して、それぞれの受け入れ状況について医療機関に回答してもらうことにしました。

すると、やはり医療ツーリズムなどには無関心な医療機関でも訪日客の緊急医療対応で困っている実態が明らかになりました。そして、ちょうどこのころ、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」が発表され、この中では、不慮の病気やけがで医療を必要とする訪日客が安心・安全に日本の医療サービスを受診することができるようにすることが目標の1つに掲げられました。このような時代の変化から、研究班の研究の対象も医療ツーリズムから訪日客の緊急医療対応にシフトし、私自身も訪日客の緊急医療の問題に取り組むようになり現在に至っています。

訪日客がこれ以上増えると、もう持たない

中村 なるほど。そういった中で、こういった領域に関わるようになって感じている手ごたえとか、やりがいみたいなものはありますか。

岡村准教授 手ごたえというよりもどちらかというと危機意識の方が高いですね。私は、もともと法学という外の世界から医療の世界に入ってきた者ですから、医療現場を外部者の視点と内部者の視点の両方から見ているところがあります。そして、その複眼的な視点で訪日客の緊急医療対応の問題を見てみると、今まさに手を打たないと、これからどんどん悪化するのではないかという強い危機感があります。

どういうことかと言いますと、現在、日本の医療現場は医師や看護師不足問題をはじめとしてさまざまな課題を抱えており、ぎりぎりの状態でまわっています。そしてそのような状態のところに、言葉も通じない緊急医療を必要とする訪日客患者が突然飛び込んでくるわけです。

現在、この問題があまり表面化していないのは、ひとえに医療現場の方々が緊急医療を必要とする訪日客患者をたとえ言葉が通じなかったり未収金が発生する可能性があったりしても見捨てるわけにはいかないと1つ1つのケースに一生懸命に対応しているからにすぎません。

このこと自体は素晴らしいことですが、医療現場に過度の負担とリスクを課すようなシステムは必ずいつか破綻します。そして、訪日客が今のペースで増え続ければそれはそれほど先のことではないような気がします。

中村 その危機感をエンジンとして理想的な解決策をみんなで創り上げていきたいということですよね。

岡村准教授 訪日客の緊急医療に関しては、医療機関だけではなく旅行会社やホテル関係者の方々の中にも苦労されている方はたくさんいらっしゃると思います。ですので、例えば、地方のある県で効果的な訪日客の緊急医療対策が行われているのであれば、それを別の県の関係者の方々にもお伝えして、皆さんで情報を共有できるようになればいいと思います。

中村 要するに、経験や知識の共有が現在は十分なされていないということですね。そういうものを、本来であれば、行政機構がサポートしていけばいいのでしょうが、まだ、それだけの知見が行政機構にもなく、問題そのものが社会全体には共有されきれていない。それをどう先回りして、未来へ継承していくかが課題の段階でもあるんでしょうね。

岡村准教授 大学の研究者の強みは中立でいられることだと思いますので、私自身もその立場を生かして情報共有の場を作っていければと思います。(続く) 

岡村世里奈(おかむら・せりな) 1970年福岡県生まれ。上智大学大学院法学研究科博士前期課程修了。1999年国際医療福祉大学入職後、講師、米ロヨラ大学ロースクール・ビーズリー保健法律・政策研究所の客員研究員などを経て、2012年から国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野、2017年からは同大学院医療通訳・国際医療マネジメント分野の准教授を兼務。

 中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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