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「親日国」パラオに迫るチャイナリスク 中国人観光客急増で頼られるニッポン企業2社

2017/11/10

 西太平洋に浮かぶパラオ共和国から日本企業が国際空港ターミナルの拡張工事を受注し、運営にも参画する。ダイビングスポットやシュノーケリングの人気スポットを抱えるパラオは中国人観光客が急増。受注したのは、羽田空港国内線旅客ターミナルビルの建設・運営を手がける日本空港ビルデングと大手商社の双日だ。両社は「羽田で培ったノウハウを生かして収益を挙げる」と鼻息が荒い。一方、パラオも日本企業を誘致したいとの思惑があった。国交のない中国政府の“さじ加減”で観光客が急減するリスクを憂慮し始めたからだ。パラオは「親日国」として知られており、日本との結びつきをより強めることで「チャイナリスク」を抑制したいとの本音がありそうだ。

天皇、皇后両陛下を歓迎するため、手作りの横断幕を掲げる練習をする児童ら=2015年4月、パラオ共和国ペリリュー島(松本健吾撮影)

 昨年8000万人を超え、過去最多となった羽田の年間旅客数は世界5位。その旅客を迎えるスタッフのサービス水準や施設の使いやすさ、清潔さなども高く評価され、英航空関連調査会社は2014年以降、最高水準の「5スターエアポート」(現在世界に8空港)に毎年選んでいる。

 日本空港ビルは、羽田で培ったノウハウや資産を生かしてビジネス展開できないかと、アジアを中心に模索。しかし、ミャンマーでは国際入札に敗れ、他のアジア諸国では空港の民営化がなかなか進まなかった。そんな中、インフラ輸出を重視する日本政府の後押しもあり、双日とともにパラオ国際空港の運営を手掛けることが決まった。

 パラオには15年、人口の約8倍に当たる16万人が訪れ、3万人が日本人だった。2100メートルの滑走路を持つ空港は、ボーイング767など中型機も乗り入れ、成田空港から米デルタ航空が定期便を運航するほか、日本航空や全日本空輸もチャーター便を飛ばす。しかし、パラオ政府が直営するターミナルは狭くて混雑する上、旅客が出発まで一休みする椅子が少ないなど課題も多い。日本空港ビルの稲葉一雄常務執行役員は「立派なホテルも多いが、空港は不便でせっかくの思い出を壊してしまいかねない」と話す。

観光資源に恵まれ、中国人観光客が急増するパラオ(双日提供)
計画では来年5月ごろから改修工事を始め、約5500平方メートルの2階建てターミナルの床面積を1.5倍ほどに広げ、運営にもかかわる。総事業費は約35億円。稲葉氏は「快適性の提供で貢献できる」とみており、日本からの定期便増にも期待する。

 実は、パラオ政府も日本企業に空港ターミナル事業を委託したいとの思いが強かったようだ。

 第一次大戦後、日本の委任統治領となったパラオの国民は今も親日的だ。日系人のクニオ・ナカムラ氏(73)が大統領として独立を成し遂げたほか、国会では日系の政治家が強い影響力を持つ。

 双日の藤本昌義社長は「パラオの(レメンゲサウ)大統領から日本企業にホテルやインフラ関連に参画してほしいといわれ、日本への期待感をひしひしと感じた」と打ち明ける。

 パラオが日本との結びつきを強めようとする背景には、中国人観光客急増への「戸惑い」がある。

 12年にわずか800人ほどだった中国人観光客は、15年には8万7000人と約100倍に膨らみ、外国人観光客の過半を中国人が占めた。

 ホテルなどのインフラ整備が追いつかず、アジア開発銀行(ADB)が「大変なことになる」と異例の警告をしたほどだ。

 パラオ政府は、中国から受け入れるチャーター便を制限した結果、中国人観光客は16年に減少に転じたが、それでも6万5000人と国別の首位をキープ。中国資本のホテルやレストランも建設ラッシュだ。

 パラオは台湾と外交関係を樹立しており、中国とは国交がない。しかも、パラオは「自由連合盟約」を結ぶ米国に安全保障を委ねている。米国はパラオを軍事利用できるほか、第三国の軍事施設を排除することもできる密接な関係だ。

 ただ、太平洋諸国に詳しい塩沢英之・笹川平和財団主任研究員は「中国が民間資本を使って影響力を強めてくることはありうる」と分析する。

 ある関係者は、10月の中国共産党大会で権力を掌握した習近平国家主席のもと、「新興国を中国へなびかせようとする気配がある」と指摘。実際、今年6月には中米パナマが台湾と断交し、中国との国交を樹立した例もある。この関係者は「台湾承認国に対し、民間企業を通して影響力を強め、のちに揺さぶりをかけることは十分考えられる」と分析している。

 中国人客の急増はパラオに大きな経済効果をもたらしたが、韓国では、在韓米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備をめぐる中韓関係の悪化から中国人客が激減。経済と政治・外交を結びつけようとする中国政府の「露骨な意図」をうかがわせた。こうしたやり口にパラオは警戒感を抱き、日本政府も憂慮する。

 パラオでは東急不動産がリゾートホテル「パラオ パシフィック リゾート」を運営。NECもパラオやミクロネシア連邦向けに大容量の光海底ケーブルを計3ルート建設する計画だが、日系企業の進出はまだそれほど多くない。

 日本が太平洋の親日国を大切にしなければ、これらの国々は経済面で中国に“侵食”されかねない。今回の空港ターミナル事業の受注をきっかけに、パラオの重要性を見直すべきではないだろうか。(経済本部 上原すみ子)

                   ◇

 パラオと日本  パラオは第一次世界大戦後、国際連盟の委任統治領として日本が約30年統治し、コロール島には旧日本軍が太平洋の島々を管轄した「南洋庁」もあった。太平洋戦争の激戦地としても知られ、ペリリュー島では日本軍の守備隊が玉砕。戦後70年の平成27年に天皇、皇后両陛下がパラオをご訪問になり、ペリリュー島で戦没者を慰霊された。

                   ◇

 日本空港ビルデングと双日  日本空港ビルは昭和28年、民間資本により建設。現在の主要株主は日本航空やANAホールディングス、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行など。双日は、ニチメン(旧日綿実業)と日商岩井の「日」を頭文字とする商社2社を母体に平成15年設立。大手商社の中でも非資源事業に注力している点が特徴。両社とも初の海外での空港運営事業として、パラオ国際空港の運営に参画する。

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