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[連載] 観光立国のフロントランナーたち (1) 国際医療福祉大学大学院 岡村世里奈准教授

2017/11/06

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回から4回にわたって、岡村世里奈・国際医療福祉大学大学院 医療経営管理部門(医療通訳・国際医療マネジメント分野兼務)准教授が登場します。

岡村准教授は医療ツーリズムなどの研究者として国内外の第一線で活躍し、教育者としても人材育成に取り組まれています。岡村准教授に、訪日客が増加する中での医療現場が抱える課題と日本の病院などの取り組みの現状についてお話しをうかがいました。

訪日客受け入れの経験がない日本の病院

中村 訪日客が増加する中での、日本の医療現場の現状と生じている問題を教えていただきたいと思います。

岡村准教授 訪日客が増えれば増えるほど、当然、病気やけがで病院を受診したり、薬局で薬を購入したりする方が増えていきます。ご存知のように最近の傾向としては、以前はゴールデンルートなど限られた観光地に訪日客が訪れていたのですが、最近は日本各地に広がるようになってきました。でも、日本の病院は訪日客の患者をほとんど受け入れたことがないんです。

よく講演などで外国人の患者の分類の話をさせていただいていますが、外国人の患者には3つの累計があるんです。第1類型は昔から日本に住んでいる在留の外国人。第2類型はいわゆる医療ツーリズムや医療観光といった形で日本の病院をわざわざ受診するために日本に来た外国人です。そして第3類型がいわゆる訪日客で、日本に観光に来ている最中に病気や怪我で意図せず病院を受診しなければならなくなった方々です。

今まで日本の病院が対応していたのは第一類型の日本に長期滞在している外国人の患者なんです。その方たちは、外国人患者といってもだいたい日本語ができますし、日本の医療保険に加入していますので、あまり支払でも苦労する必要がないんですね。また、第二類型の医療ツーリズムの外国人の患者はもともと数も限られていますし、関係する病院も限られています。

命にかかわる「言語」の壁…病院も患者も「困った」

中村 医療ツーリズムは来るのが分かっているから受け入れる側の準備もあるわけですね。

岡村准教授 そうですね。今増えているのは第3類型の訪日客の外国人の患者で、当然、日本語ができない方はたくさんいらっしゃいます。英語、中国語、韓国語以外にも、いわゆる希少言語しか話せない患者も多いんですね。第3類型の患者は緊急で病院を受診されるから、いつ、どんな言語の患者が来るか病院側では全く読めません。

中村 要するに急患は予約するものではないから。

岡村准教授 そうですね。まだ英語はどうにかなるかもしれませんが、中国語、韓国語、ベトナム語といったアジアの言語もそうです。以前、ある病院に聞いたのは、話しているのが何言語か分からず、結局はアフリカで、しかも少数民族の言語だったいうことがありました。ホテルやレストランだったら、身振り手振りでなんとなく通じて対応すれば済むかもしれませんが、病院の場合は命に係わります。そういう患者が今、日本の病院にすごく増えていて、対応できる病院の数が限られているので、患者も困っているし、病院側も困っている、という状況になっています。

中村 患者と病院側の両方が困っている。

岡村准教授 はい、一番大きい問題はやはりこの言語の問題でコミュニケーションがとれないと治療が成り立たない。例えば腹痛で病院を受診してきた方に何か薬を処方するにしても、その方がどんな病気を持っていて薬を既に飲んでいるのかどうかがわからないと、薬の飲み合わせ一つ間違えても命に係わります。

また、もう一つの問題としては、医療費の支払いがあります。

中村 最近、訪日客が医療費の支払いをせずに帰国する問題が報道されていますね。

岡村准教授 はい、以前は訪日客の絶対数も少なく、こうした問題はほとんど報道すらされていませんでした。たとえば、訪日客が日本に観光に来て心筋梗塞か何かで倒れて、そのまま日本の病院に救急搬送されて、ER(救急救命室)に入って、その後、ICU(集中治療室)に入り、結果、残念ながらこの方が植物状態に陥ってしまったとします。国に帰る際に、その費用は総額で数千万円になるわけです。

ちょっとお腹が痛いとか、熱が出て病院にかかるくらいだったらまだいいんですが、実際に病気やけがで手術して、ICUに入ったら、通常は何百万円の世界で、これが全て自己負担になるんです。当然、家族にとっても大変だし、病院にとっては医療費の未払いになるのではないかと不安の種になっているんですね。

日本と海外で異なる医療文化…日本は“高級寿司店”

中村 そういう問題の絶対数が増えてきたというのが背景にあると思うんですけれど、やはり注目され始めていますよね。

岡村准教授 はい、実は医療の世界の間では数年前からこの問題は認識されていましたが、やはり特にこの1、2年で顕著に注目されるようになりました。

言語の問題、医療費の支払い問題に加えて、もう一つ大きいのが医療文化・習慣の違いの問題です。その典型的なのが、海外では医療費は前払いが原則ということですね。

中村 前払いが世界の常識ですか。

岡村准教授 そうですね。いろいろな国があるので一律には言えませんが、やはり海外では患者がすごく価格というものを意識して病院にかかっています。病院もそのことをきちんと考えて、先に価格を提示する習慣があるんですね。ところが日本は公的医療保障の国ですので診察を受けて、検査を受けて、治療を受けて、最後に会計で自分はいくらお金がかかったんだと分かる。

だいたいの場合、3割自己負担であったり、高額医療費になったら高額医療費制度で上限が設定されているので、よほど特殊な治療をしない限りは高額治療費を支払う必要がないので、あまりこの検査について自分は料金を払えるかどうか気にしながら治療を受けたりすることもない。

中村 もしあるとしてもせいぜい歯医者くらいですよね。

岡村准教授 はい、感覚的には歯医者とか美容整形とかが海外の感覚に近いと思っていただければわかりやすいのかもしれません。

お寿司屋さんの例でいうと、海外の病院はちょうど回転寿司の会計システムをイメージされればいいいと思います。ブルーの皿は100円、イエローの皿は200円ですが、さてあなたはどれを選びますか、といって選ぶシステムです。これに対して、日本の病院は高級寿司店のようなシステムで、お店にお任せで最後になってからいくら払わないといけないかが分かる。普段、回転寿司しか知らない人がある日、突然、高級寿司店のようなお任せの日本の病院にかかるわけです。

そうすると病院がなかなか価格を教えてくれないとか、金儲けをするために余計な検査をしているのではないかとか、検査代がそんなに高かったのであればしなかったのに、などというクレームになります。そして、究極は病院が勝手にしたことなんだから料金を払わない、といって帰国する。そうすると、日本の病院にしてみれば、最善の治療をしたのにもう訪日客の患者は嫌です、ということになりかねません。

中村 もう一切訪日客の患者は受け入れません、みたいなことがありますか。

岡村准教授 さすがにそこまでのところはまだ聞いていませんが、両者にとって不幸な状況が出てきていて、どちらが正しいとか間違いという問題ではなく、医療文化・習慣の違いを互いに理解する必要があります。日本の病院も訪日客の患者がそういう考え方であるというのであれば、事前に説明する仕組みを検討すればいいですし、訪日客の患者も日本の病院というのはこういうシステムなんですよ、ということを事前に理解していたならば、そこまでのクレームにはつながらないと思うんですね。

ただ、本当に難しいのは日本の病院の医療関係者はお金のために最善の医療をあきらめるという教育は受けてきていないこともあります。価格を意識して選択肢を患者に事前に提示するということは非常に違和感があると思うんです。

中村 なるほど。お金のために最善の医療をあきらめるというのは、ある種、医療の倫理にかかわるくらいの問題です。日本の病院の医療関係者にとっては許し難いような患者からの申し出ということになるわけですね。(続く)

                  ◇

岡村世里奈(おかむら・せりな) 1970年福岡県生まれ。上智大学大学院法学研究科博士前期課程修了。1999年国際医療福祉大学入職後、講師、米ロヨラ大学ロースクール・ビーズリー保健法律・政策研究所の客員研究員などを経て、2012年から国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野、2017年からは同大学院医療通訳・国際医療マネジメント分野の准教授を兼務。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。国際22世紀みらい会議(Mellon 22 Century)議長。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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