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「まるでロボット!」南海ラピートが呼ぶ 訪日韓国鉄道オタ

2016/08/03

「大阪で珍しい車両にあたった!」。韓国で「チョルド(鉄道)オタク」と呼ばれる鉄道マニアが「韓国には見当たらない」と、羨望(せんぼう)のまなざしを向ける日本の鉄道がある。大阪・難波と関西国際空港を結ぶ南海電気鉄道の特急ラピートだ。

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インターネットで歓喜の書き込みが相次ぐ韓国での人気ぶりに着目した同社はインバウンド(訪日外国人)を取り込もうと、韓国など東アジアでラピートを前面に押し出したPR活動を展開。オタクにとどまらず、一般の旅行客にも人気を拡大させた。短期間にまさに特急並みのスピードで外国人客が急増、空前の混雑状況となっている。

ハングルの案内充実

「ワォ」。7月19日(月)午後、南海・関西空港駅のホームに深いブルーのラピートが入線すると、大型のスーツケースを引いて列をなしていた韓国人客らから興奮気味の歓声が上がった。

発車までの約10分間、ホームの各所で車両を背景に、サムスン電子社製のスマートフォンで記念撮影する姿が見られた。熱心な客はわざわざ先頭車両が見える位置まで走り、鉄仮面のような特徴的な車両の“顔”を写真に収めていた。

乗り込むとスーツケースを置く専用スペースがあり、そばには韓国人になじみ深いロッテの免税店やインバウンド限定の特典が記されたパンフレットが並ぶ。車内の案内や停車駅を示す電光掲示板にはハングル表記が多用され、韓国人客にとっては至れり尽くせりといった感じだ。

座席はびっしりと埋まり、難波駅到着までの道中、あちこちで楽しげな韓国語の会話やカメラのシャッター音が響いていた。

同じ車両に乗り合わせた大阪府吹田市の主婦(30)は「初めて乗ったけど、乗客の服装や髪形から大半がアジア系の外国人客だった。以前、旅行で行った韓国の電車みたいな雰囲気だった」と話していた。

スピードと快適性

「韓国高速鉄道KTXの座席もラピートみたいに広ければいいのに」「先頭車両がロボットの顔みたいでクールだ」「丸い窓の電車なんてレジャー施設以外で見たことがない」…。

韓国人らが書き込むインターネット上のブログには、ラピートのデザインや快適さを絶賛する声がずらりと並んでいる。

難波-関西空港間を南海線・空港線経由で運行、40分弱で走る特急ラピートは平成6年、空港線の開通に合わせて投入された。ラピートとは「速い」という意味のドイツ語で、一般公募で決まった。最高時速は120キロ、 1日約 30往復している。

6両編成。大阪湾などをイメージした青色の車両の形は、航空機の流線形とSLの力強さを融合した。楕円(だえん)窓のデザインも航空機のイメージから生まれた。内装も上質で、全席指定・禁煙。座り心地のよいシートも特色だ。

ガンダム車両で注目

「韓国人の人気は26年、アニメ『機動戦士ガンダムUC』とタイアップして赤い車両を走らせたのをきっかけに火がついた」。同社総務部の松崎彰宏課長補佐(36)は振り返る。

赤く塗装された「機動戦士ガンダムUC」とのタイアップ車両は 2014年4月末から6月末までの2カ月間走らせた。昨年11月~今年5月には、映画「スターウォーズシリーズ フォースの覚醒」の公開に合わせて、黒い塗装に映画の登場人物を描いた特別仕様の車両も登場させ、世界的な人気を誇る作品だけに、韓国のファンも大挙して押し寄せた。

もともと人気の牽引(けんいん)役となったのが、韓国で「チョルドオタク」と呼ばれるマニアたちだった。

「日本のオタクほど数は多くないが、鉄道愛の深さは決して負けていない」(松崎氏)という彼らは自国の鉄道では満足できず、来日して日本製の精巧な鉄道模型を買ったり車両を撮影したりして堪能しているという。

同社によると、「大阪で真っ赤な珍しい車両に当たった!」といったチョルドオタクたちのネットの書き込みが広がり、アニメ好きや一般の旅行者に波及して認知度が一気に上がったとみられる。

韓国出身で同社インバウンド事業部の呉雄飛(オ・ウンビ)さん(28)は「韓国にも鉄道はあるが、多くの車両の内外装は質素。基本的には通勤や移動の手段という認識だろう」と明かす。

インバウンドに活路

沿線住民の高齢化などで利用者が減少傾向となっていた同社は、この状況を千載一遇のチャンスととらえた。インバウンドに活路を見いだそうと、韓国やタイなどの東アジアでラピートを旗印にしたPR活動を強化したのだ。

「関空から乗り換えなしで快適に難波まで行ける」と各国の観光展で積極的に売り込み、現在も割引切符の販売を続けている。

昨年2月、従来のゆるキャラ「ラピートくん」とは別に、インバウンド関連に活動を限定した「関空戦士ラピートルジャー」を登場させ、韓国語や英語など5言語で大阪の名所を紹介する動画を公開した。

今年6月には、新たに外国人スタッフ3人を加えたインバウンド事業部を発足させ、同社のグループを挙げてインバウンドを取り込む態勢を整えた。

爆買いブーム恩恵も

“ラピート効果”に爆買いブームが加わった恩恵は絶大だった。

昨年度のラピート乗車人数は約282万人(前年比約42万人増)、空港線の輸送人員は23年度と比較すると2倍以上となる約812万人(同172万人増)で、いずれも過去最多を記録している。

松崎氏は「日本人の利用者数は増減が少ないため、増加分の大半が外国人客とみている。ラピートに乗車する外国人の約8割が韓国人だ」と説明する。

爆買いの主力である中国人客は団体ツアーが中心で、空港から直接バスに乗り込むケースが多い。一方、韓国人客は個人旅行が中心であるため、電車の利用率が高い。

気になるのは韓国人客の乗車マナー。空港で購入したファストフードを車内で食べる客が後を絶たない。特にポテトフライが強烈なにおいを放つため、日本人客から苦情が出ることもある。

ほかに「スーツケースが場所を取りすぎている」「自分の指定席に韓国人が勝手に座っている」といった指摘もあるそうだ。

胃袋も狙い撃ち

追い風は止む気配がない。同社インバウンド事業部によると、韓国では日本のグルメを紹介するテレビ番組が人気といい、旅行者が番組をまねてネット上で食べ歩きの様子を自慢する遊びが流行。「食い倒れ」で知られる大阪への関心が高まっている。

同社はさっそく、難波駅でラピートに乗ってきた韓国人らの胃袋を狙い撃ちすることにした。

同駅ビルに5月、すしや天ぷらなどの和食を提供する食堂を開業。店頭にリアルな食品サンプルを並べ、4言語のメニュー表を用意するなど外国人受けを重視している。

インバウンド事業部は「訪日する韓国人客は、高齢者と比べて『反日感情』が強くない若者が中心。格安航空会社(LCC)の増便もあり、今後も多くの利用が期待できそうだ」としている。

産経新聞 井上浩平

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