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観光庁の出国税「財源確保としては疑問」×「予算整理や法の整備を」

2017/10/27

観光庁が、日本から出国する人に課す「出国税」を検討している。平成32年までに訪日外国人客を4000万人に増やす政府目標の達成に向け、訪日客の受け入れ態勢整備などに充てる新たな財源の確保が狙いだ。9月から複数回の有識者会議を経て、今秋に議論をまとめる。だが、旅行業界からは訪日客の増加に水を差すとの懸念の声も上がる。出国税は必要なのか。日本旅行業協会の志村格理事長と日本観光ホスピタリティ教育学会の鈴木勝会長に聞いた。(経済本部 西村利也)

志村格氏 財源確保としては疑問

―-新たな観光財源の確保に向け、出国税の導入は必要か

「出国税が唯一の財源確保の手段になるのか疑問だ。国土交通省や農林水産省、経済産業省関連にも観光関連予算はある。政府全体で既存の財源から観光施策のための財源を捻出することはできるだろう。出入国に関して税を徴収するのであれば、新規の施策を考える必要があるのではないか。既存の政策の延長で財源が足りないという理由で新規財源を作るのは、国民の納得を得られない」

―-出国税は日本人に課される可能性もある。導入された場合の課題は

「28年の日本からの出国者は、外国人が約2400万人へと増える一方で、日本人も約1700万人いる。日本人も課税対象にした場合、受益と負担の関係を考えれば、日本人もメリットを感じられる施策が必要だ。また、出国税を航空券に上乗せする場合は、旅行会社が代理徴収するため、さまざまなシステムの改修が必要だ。旅行代理店はパンフレットなどを作り替えなければならない。予定通り消費税が引き上げられれば、旅行者にとってはさらなる負担になるだけに、旅行意欲は冷え込むだろう」

――出国税以外で検討すべき観光財源の徴収方法はあるか

「米国が導入している電子渡航認証システム(ESTA)のような徴収方法が良いと考えている。頻発する国際テロに対応するために2009年に導入された。ESTAは外国人が短期の観光や商用のために査証(ビザ)なしで米国に渡航する際に必要で、申請料として14ドルを徴収している。そのうち10ドルを観光振興に、4ドルをセキュリティー対策に利用している。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、安全対策強化の観点から、訪日外国人のみから徴収することができる。申請は旅行代理店を介す必要もなく、システム改修の費用もかからない」

――新規財源の重点的な利用分野は

「ESTA導入の場合は、金属探知機に代わる全身ボディースキャナーや顔認証システムの導入拡大などセキュリティー対策に使うべきだ」

――観光振興分野では

「訪日客だけでなく、日本からの海外渡航も促す必要がある。日本への就航便を増やすには、往復で人が乗らないと採算が合わないためだ。特に若者の海外旅行を促進するため、18歳時点のパスポート取得費用の無償化や一部補助を図るべきだ。全国の公立中学・高校の国際姉妹校提携を増やすための補助を実施し、海外旅行者と訪日客をともに増やす。海外でのワーキングホリデーのビザ取得費の一部補助や、登録するとスマートフォンなどで海外安全情報をメールで受け取れる『たびレジ』の普及も進めたい」

しむら・ただし 昭和31年、東京都出身。61歳。東大法卒業後、運輸省(現国土交通省)に入省。観光庁観光地域振興部長や次長などを歴任。平成25年に新関西国際空港常務取締役を経て28年から現職。

日本旅行業協会の志村格理事長(右)と日本観光ホスピタリティ教育学会の鈴木勝会長(西村利也撮影)

鈴木勝氏 予算整理や法の整備を

――観光財源の確保に向け出国税の導入が検討されている

「税金としては良い考えだが、導入するには時期が早い。観光庁が使い道を判断できる予算は年間約400億円だが、国家全体の観光関連予算は約3200億円ある。観光政策を推進する観光庁がこれら全体を統括できなければ、機能は発揮できない。観光経営マネジメントなど観光人材を育成する事業は各省庁で実施しており重複している。また、これまでのプロモーション活動の効果なども分析されていない。予算の無駄を整理し、これまでの施策効果を分析した上で新たな観光財源を確保すべきだ」

――導入以前にすべきことは

「インバウンドが順調に伸びており、今年は約2700万人が来日すると見込まれる。ただ、それは高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に反発する中国で反韓感情が高まった影響で、中韓からの来日が一時的に急増した面もある。また、クルーズ船での来日は約200万人いる。そうした中で中国人がクルーズ船などの手配を仲介する格安ツアーや出稼ぎガイド、違法民泊などの問題が横行しており、日本の旅行代理店などはもうけを取りこぼしている。こうした問題を解決するための法整備などを先行すべきだ」

――有識者会議では出国税で出国のたびに1000円徴収する案も検討されている

「大きな打撃にはならないと思うが、既に日本の主要空港の国際線では大人1人1000~3000円程度の空港施設利用料を徴収しており、出国税を課せば二重取りの批判は避けられない。また、格安航空会社(LCC)の利用客や若者の旅行者にとっては1千円の値上げは影響する。カジノがあるマカオやシンガポールは飛行機代を安くして、現地でお金を使わせている。日本で将来、統合型リゾート施設(IR)が展開された場合も考慮した長期的な戦略が必要だ」

――増えた財源をどのような分野に配分すべきか

「日本が観光先進国に比べて遅れている観光統計やマーケティングの分野だ。どのような客層がどの時期に来日するかを考えたキャンペーンが打てていない。中国の春節(旧正月)時期に大量に来日する中国人旅行者に対応できず、ホテルに空きがない状況を生み出している。時期を1週間ずらした場合に宿泊費を半額にするなどのキャンペーンを打てば、来日客を平準化することも可能で、そうした専門家育成に予算を使うべきだ。また、スイスのように1枚のパスで列車やケーブルカー、さらに世界遺産や博物館、美術館などを周遊できるような周遊パスを日本でも導入できるよう整備すべきだ。それは地方創生にもつながる」

すずき・まさる 昭和20年、千葉県出身。72歳。専門は観光振興論。早大商卒。42年に日本交通公社(現JTB)に入社。JTBワールド取締役、大阪観光大助教授、桜美林大教授を経て平成28年から現職。

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