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「歌う尼僧」が悩む若者を救う…“寺の危機”に型破りな方法で仏教の魅力アピール

2017/10/18

 少子高齢化と過疎化の影響で、小規模寺院の後継者不足や「宗教離れ」が進む中、仏教の魅力や日本文化をあの手この手で伝えようと模索する寺院が相次いでいる。オリジナル曲で教えを伝える“歌う尼僧”や、建物の一部を改装したゲストハウス、さらには日本文化と英会話を並行して学べる寺子屋活動まで。型破りな試みは若者の心を惹(ひ)きつけることができるか-。(岩口利一)

仏の教えをポップに

仏の教えをオリジナル曲で伝える「歌う尼僧」中村祐華さん=奈良県下市町

 「南無阿弥陀仏で日が暮れて 南無阿弥陀仏で夜が明ける」(『お寺の一年』)

 9月10日、吉野山に近い奈良県下市町にある西迎院(さいこういん)(浄土宗)の本堂に、ポップな曲に乗せた歌声が響いた。法衣姿で歌を披露したのは、光誉祐華(こうよゆうか)という名でライブ活動を展開する中村祐華副住職(35)。この日は「お寺SONIC3」と題したユニークなイベントを開き、約50人の老若男女が仏の教えを主題にしたオリジナル曲に聞き入った。

 「お釈迦さんは『生まれではなく、行いを問え』と言っておられる。その言葉に私も救われた」「仏は分け隔てなく慈悲をかけてくださる」

 中村さんはそんな教えや自身の経験も交えながら、歌を次々と披露。「手拍子してください」「私のサインは仏壇には供えないで」などと、ユーモアたっぷりのパフォーマンスには会場から笑い声も。肩肘張らずに仏の教えに触れられるとあって人気を呼んでいる。

若い世代を寺へ

 「仏教は死んだ後のことだけに関わるイメージがあるが、それとともにどういう生き方が正しいかとか、いかにトラブルを乗り越えるかとか、人との接し方なども説かれている。若い人たちが思い詰める前に、悩みを解決するヒントになってほしい」

 今年で活動10年目を迎える中村さんは、自らが歌う理由をこう説明する。

 西迎院に生まれ、佛教大学を卒業後、浄土宗の尼僧になった。だが、町の過疎化、高齢化からか、法事などで若者をあまり見かけないことに寂しさが募ったという。

 そこで「若い人に仏教を伝える機会がないのなら、自分から若い人が集まる所へ行こう」と思い立ち、ライブ活動に乗り出すことを決意。京都や大阪を中心に仏教をテーマにした歌を披露するようになった。

 今年7月には京都市内で初のワンマンライブを開催。それまで名乗っていた「愛$菩薩(あいどるぼさつ)」としての活動を締めくくり、現在は「光誉」という戒名で活動を継続している。

 「10年間のライブ活動を通じ、相談を受けることが多くなった。ライブに来てくれた若い人から大切な人を亡くしたときの乗り越え方を問われたり、死をも考えた人からも相談されたりした」

 若い世代に少しでも、仏の教えに興味を持ってもらいたい-。熱い思いでマイクを握り続けている。

寺がゲストハウスに

 奈良市内では今春、ある寺院の建物の一部が改装され、ゲストハウスとして生まれ変わった。奈良市中心部の宝珠寺(ほうじゅじ)(浄土真宗本願寺派)に開設された「THE TEMPLE」がそれだ。宿泊施設の経営に興味があった同市出身の西出恵美さん(43)が競売に出されていた寺を購入。地域住民の理解を得ながら庫裡(くり)を改装し、オープンにこぎ着けた。

 庫裡の和室にはキッチンと月見台を備え、離れはイベントスペースとして使用できる。本尊が安置された本堂はそのままで、住職が読経するなどの宗教活動は続けられている。

「静かな環境で、会話や月見を楽しんでいただきたい。お寺の環境を生かして人が集い、地域の活性化にもつながる場になれば」と西出さん。寺とともに歩みながら、多くの人をもてなしていく考えだ。

寺で英会話も

 奈良時代に開かれたと伝えられる同県生駒市の長弓寺(ちょうきゅうじ)(真言律宗)の塔頭(たっちゅう)の一つ、円生院では、小学生らを対象に「Templish(テンプリッシュ)」と銘打った寺子屋活動を4年前から展開している。月に1回、小学生らがもちつきや茶道、流しそうめんなど和の行事を体験しながら、英会話にも親しむというユニークな試みだ。

 「寺に来た人から『畳がいい』『庭を見る瞬間が至福』と言ってもらい、なんとか寺を活用できないかと思った」と話すのは池尾宥亮(ゆうりょう)住職(38)。ヒントを得たのが、寺から始まった江戸時代の教育施設「寺子屋」だった。英語のニーズが高まっていることにも着目し、日本文化だけでなく英会話にも親しんでもらおうと趣向を凝らした。

 英会話を指導するのはボランティアの高校教諭。現在約150人が登録し、好評を博している。池尾住職は「英語はあくまでコミュニケーションのツール。英語を通じて海外に目を向けることで、逆に日本文化に興味を持つようになれば」と熱心に取り組んでいる。

「内なる危機」に奮起

 少子高齢化と過疎化が進み、「寺の危機」や「宗教離れ」が懸念されている。だが、池尾住職は「内なる危機」にこそ問題があると力説する。

 「仏教は心豊かに生きるための教えなのに、寺もお金を基準にした価値観だから危機になる。宗教離れもわれわれが招いているのではないか」。その上で、「現況を『内なる危機』ととらえ、足もとをしっかりと見つめ直す好機ではないか」と指摘する。

 「Templish」の最後は、参加者全員で「般若心経」を唱える。行事がとりわけ楽しかったとき、経を唱える子供たちの声はひときわ大きくなる。

 「楽しんだことに対する感謝の気持ちが素直に表れている。仏壇がない家庭も増えているが、祈る器は失われていないと実感する」と池尾住職。そんな子供たちの素直な心が、将来の祈りにつながると信じている。

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