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[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本航空 大西賢会長(最終回)

2017/10/16

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回は日本航空の大西賢会長との対談の最終回は、東日本大震災で被災した東北地方への支援のあり方や、観光事業の広げていく施策についてお聞きしました。

東北の復興を支援「社員全員がセールスパーソン」

中村 最後に、日本航空再生に向けて取り組まれた2011年の東日本大震災による東北復興について、お聞かせいただけますか。

大西会長 前々から計画していたことですが、東日本大震災発生のちょうど2カ月後から、「ジャパンプロジェクト」をスタートさせました。日本各地にある「風景」「伝統」「文化」「食」「人」の素晴らしさを日本各地・世界に伝える地方創生のプロジェクトで、毎月1地域ずつ、機内誌や機内エンターテインメント、ソーシャルネットワークでの国内外への情報発信だけでなく、機内食やラウンジでの地域の食の提供、旅行商品の開発などで、地域への人の呼び込み、交流人口の拡大のお手伝いをこれまで70回以上続けています。中でも機内誌は、結構発信力があるんですよ。大変申し訳ないのですが、飛行機の中でやることがなくなると皆さん機内誌を手に取られるので(笑)。

中村 確かに読んでしまいますね。

大西会長 私は、特集する県や地域をお伺いして知事さんらと記者会見をするのですが、地元の方と「食べ物おいしいですね」「景色すごいですね」と話をしても、毎日食べて見ているので全然共感してもらえないんですよ。慣れというのは恐ろしいです。先ほどの“よそ者”というキーワードを実感できたプロジェクトですね。今は形を変え、地元の人とタイアップして“よそ者”の目で見たうえで、「これ、いい」という地方の特産品などに手を入れて独自産業にして発信していくことをやらせていただいていいます。これは地方創生の一番大枠の、一番骨太の取り組みです。

もうひとつ、東北地方に特化したところで言うと、震災の影響で地上交通網が寸断されたときは「人流・物流は、僕らが!」と強く思いました。だからといって、日本の交通行政上、定期便を切ってほかに回すことは許容されないんです。だけど、それはそれで国土交通省もしっかりと考えてくれました。

私たちが考えたのは、東北地方の陸路寸断、災害対応初動として、西はとにかく鉄道に任せ、空輸で東北の人流・物流を確保するため、持てるすべての資源を東北地方に投入しました。仙台空港再開までの4カ月弱の間、東北地方への臨時便の運航は全2700便、1日20便強の便を東北地方に送ったのです。私たちの歴史には全くないことでした。

やはり、われわれは破綻時に多くの方々にご迷惑をおかけしていますから、少しでも社会に貢献できないかという思いがあります。復興応援のために東北地方で社員研修をして、これまで800人弱の社員が参加しています。地元の方と話をして、実際に地元の食材を食べたり、いろいろな場所を見たりすると、復興のペースが遅れていることなども含めて、東北地方の現状を正しく発信できるようになります。

そういう発信ができる人間をたくさん作るということが極めて大切で、東北地方の物産展も本社ビルの2階でやっていただいているんですね。社員が集まって、そこで何かを買って食べたり飲んだりすると、彼らの発信力は明らかに変わります。社員全員が東北のセールスパーソンになれるわけです。

自ら体験したことというのは、極めて強い発信力を持ちます。そういうことを東北地方についてもこれからもどんどんやっていきたいですね。また昨年9月に仙台にJAL東北創生室を新設し、地元の方々のご意見をお聞きすることで、いろいろな取り組みもできるようになりました。

「JALホノルルマラソン」閑散期対策の成功例

中村 昨年の訪日外国人観光客が2400万人の一方で、日本からのアウトバウンドは1700万人。すでに700万人の開きがあります。これが拡大していくと、どこかのタイミングでインバウンドを抑制してしまう要因にもなりうるので、これからはツーウェイツーリズム(二国間の双方向の観光交流)が大事になるでしょう。

日本航空は、閑散期対策としてハワイでホノルルマラソンの特別協賛を始められたと聞いています。そういう需要を自ら作り出し、日本人がつい東アジアや東南アジア諸国に出かけたくなるような仕掛けを、官民が力を合わせてやっていくべきだと思っているところです。まずそのホノルルマラソンについてお聞かせください。

大西会長 12月のクリスマスからお正月までホノルルは人で溢れかえるのですが、12月の前半は閑古鳥が鳴いていたので、これはどうしようかと考えていました。時間と土地に縛られるのが観光で、時間に縛られるので在庫がきかず、ホテルはその場所でしか営業できません。つまり地域的な同時性と時間的な同時性、これを持っているものが観光なわけなのです。

いかに平準化するかというのがものすごく大切で、そういう意味では、12月前半のホノルルにどうやってお客様に来てもらうかというのが、業界挙げてのハワイ州にとっては大変大きな課題でした。さあ、それをどうしようかということでトライしたのがJALホノルルマラソンで、いまや参加者は約3万人(内、日本人1万人)で、1億ドルの経済波及効果を出し続けているすごくいい事例の一つだと思います。

観光全体で見て、どこが細ってきているのかといったら、日本国内の観光と、出国日本人です。ここが極めて顕著です。確かにイベントでやっていくというのも有効ですが、これは経済が長期停滞する先進国においてはネックとなり、回答を誰も持っていないんですよ。アベノミクスも今そこですごく苦しんでいると思います。やはり何か刺激しないといけません。一つは大きい規制緩和だろうと思いますし、今、言われているように、ないところに需要を作り出すことも考えられます。

観光客に知識や感動を伝える人材が重要

中村 去年の12月に、中国・西安にある皇帝のお墓の博物館に行ってきました。ああ、こういうことかなと思ったのが、当時は日本から中国へのアウトバウンドが大ブームで、その博物館には日本語のいろんな解説があったんですね。ですけど、後からネットで調べてみたら、そこにあるコンテンツのほとんどがネットにもあって、ネットにあること以上の情報は現地の博物館にはなかったんですよ。で、ガイドさんも知らないんです。結局ネットで全部分かってしまうのです。旅行で行く場所に、ネットでは体験できないエクスペリエンスだったり、深い説明であったり、あるいは交流であったりっていうことがないと行く理由がないのではないでしょうか。それが今、日本中、世界中で起きています。

大西会長 それはすごく大きいヒントだと思います。星野リゾートの星野佳路(よしはる)代表がおっしゃっているのは、観光ガイドが足りないからといって、人数ばかり増やそうと意識するのではなくて、もっと深い知識や感動を観光客に伝えられる人材が重要ということです。大学の先生が出てきて説明してくれるというのであれば、それ相応の料金をいただいてもいいと思います。学びの世界というのは観光では極めて重要で、ここで何かを得られたと思うと満足感が高まります。そういった体験ができるものを作っていくことが求められるでしょう。特に日本なんて説明しきれていないですよね。

中村 そのためには、マニュアルをただ話すだけではだめなんですよね。町の暮らしや伝統などをきちんとインタープリター(解説役)できる人材が求められます。

(第1回の対談で話題に上った)「よそ者、外者、バカ者」にあと2つ必要だと講演などでは話しています。一つは「切れ者」。専門家のいないところでは、本当のイノベーションは生まれません。もう一つは「本物」。本物って言うのは、固有と言いますか、その土地に根差した人です。その本物がないと、「よそ者、若者、バカ者」と切れ者が頑張っても、本当のトラディション(伝統)みたいなものがない限り、会長がおっしゃったようなところに時間とお金を投資していく意味がありません。

大西会長 そうですね。そういうオーセンティック(本物)な何かが絶対必要です。偽物ばっかりではしょうがない。

中村 そうです。そして、それらはネットでは触れ合えません。

大西会長 なぜできないのかですね。逆に、名物添乗員がいれば、どこに行ってもいい、どこでもいいから連れてってくれと言う人もいると思いますよ。

中村 そこに暮らしている人じゃないと分からないことを観光客に体験してもらいたいところです。そして、そこの町の暮らしを繋いでくれる人がいないと、やっぱりそこの町にリピートは見込めないですね。本日はどうもありがとうございました。(終わり)
 

大西賢(おおにし・まさる) 東大工学部卒。1978年日本航空入社。技術畑を歩み2002年整備本部部長、整備本部副本部長兼JAL航空機整備成田社長、執行役員などを経て2009年西日本の地域路線を運航するグループ会社の日本エアコミューター社長などを歴任。2010年1月の日本航空の会社更生法の適用申請後の2月、経営再建を担い社長に就任した。同時に会長に就いた京セラ名誉会長の稲森和夫氏とともに抜本的な経営改革を進め、V字回復を達成。12年9月には再上場を果たした。同年2月から会長。日本空港ビルデング社外取締役、公益財団法人JAL財団理事長、一般社団法人航空保安研究センター代表理事。1955年大阪府生まれ。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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