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[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本航空 大西賢会長(2)

2017/10/02

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。日本航空の大西賢会長との対談の第2回目では、日本航空が取り組む働き方改革や健康経営について話をうかがいました。日本航空は、2012年2月の中期経営計画の際、「心身の健康」に取り組む方針を社員に伝達。以降、社員の健康増進プロジェクトを進めています。どんな取り組みを進めているのでしょうか。

社員の心と体の健康を追求

中村 働き方改革や健康経営の取り組みについてお聞かせください。航空運送事業者として、安全と安心の提供というのが最重要です。その上でも社員の健康は大切です。

健康経営 日本再興戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みの一つ。従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。企業理念に基づいて従業員への健康投資を行うことで、従業員の活力や生産性を向上させ、組織を活性化し、結果的に業績や株価の向上につなげる。経済産業省は東京証券取引所と共同で、上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定する「健康経営銘柄」を選定しているが、日本航空は3年連続で同銘柄に選定されている。

大西会長 グループの企業理念の第一行目に「全社員の物心両面の幸福を追求する」とうたっています。社員を大事にしたいということです。当たり前のことですが、社員の健康も大切で、社員の「心身の健康」についても取り組んでいます。運航乗務員も、客室乗務員も、整備士も、心と体の健康がない限り最高のクオリティを発揮できません。つまり、全社員が本当に健全でないと日々のオペレーションはできないと強く思っています。

社員に向けて、「健康経営」に取り組もうと伝えた時、社員の多くが喜んでくれました。財界など経営者のみなさんにお話を聞きしますと「健康経営を呼び掛けても一般の社員はなかなか乗ってこない」という声もあるようです。しかしながら社内で、アンケートをとったり、ワークショップを行ったりして健康経営についてリサーチすると、社員は反応を示すんですよ。社員の健康に対する意識は非常に高いので、会社としてもさらに健康経営に取り組まなくてはいけないと考えています。

中村 私は日本ホスピタリティ推進協会の理事を務めているのですが、この協会は「ES(Employee Satisfaction、従業員の満足)なくして真のCS(Customer Satisfaction、顧客の満足)はない」というのをモットーに活動しています。まさに大西会長が言われたことは本当の従業員満足こそが顧客の笑顔につながっていくということですね。

大西会長 まったくその通りだと思います。これまで「我々の事業は何?」と尋ねられますと、「航空運送事業です」と言っていたのですが、「それをやめよう」と社員に呼び掛けました。ビジネス上の仕分けは「航空運送事業」ですが、もっと広くとらえますと、「サービス業」なのです。

JALフィロソフィの中に「昨日よりは今日、今日よりは明日」という項目がございます。まさしく、サービス業にここまでいけばお客さまは必ず満足してくださるという到達点はなく、常にお客さまの期待値を超えていくことが必要であり、そのことに「働き甲斐」「生きがい」を感じることができるのであればその社員にとってサービス業は天職だと思うに違いありません。

ダイバーシティこそ成長の原動力

中村 そこを刺激し続けるのが経営側の責務ですよね。

大西会長 そうだと思います。次にダイバーシティ(多様性)です。なでしこ銘柄にも推していただいていますが、われわれの仕事自体、何に依拠して営業ができているかを考えなくてはなりません。一番分かりやすいのは「観光」です。どこに行っても同じ食べ物が出て、どこに行っても同じ景色で、どこに行っても同じような考え方の人がいるとします。それでは観光に行きたいとは思わなくなってしまします。「自然」だってそうです。やはり日常と違う、自分たちがどっぷりと浸かっているものとは違うところに触れようとするから、観光というものが成立するのです。

ダイバーシティ 性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴などの社員が持つ個性を受け入れ、価値として生かすことで、企業の競争力につなげようという考え方。

中村 何十時間、何十万円もかけて観光する価値があるのはそこですよね。

大西会長 では、ビジネスはどうなのか。ビジネスも、みんなが同じような考え方していたら新たなアイデアは出てきません。生まれや育ちが違い、宗教が違い、だから発想も違って、「これはビジネスになるのではないか」と考える人たちがいるからこそ初めてビジネスは成立する。みんな同じことを考えていたら、世の中はあまり面白くないことになっているはずですよ。

中村 イノベーション(技術革新)が生まれてこないですよね。

大西会長 そういう意味で、世界一のサービスのためにダイバーシティは極めて大切ですし、異なる視点からの発想がビジネスにおいて重要になってきます。我々の生業(なりわい)自体が、「非日常性の観光」や「異なる発想のビジネス」、つまりダイバーシティで成り立っており、弊社がダイバーシティ化に取り組むことは親和性が高いと考えております。現在、JALは女性の活躍推進に一生懸命取り組みながら、もっと広くダイバーシティに取り組んでおります。

働き方改革についても極めて同じような発想で、いろいろな制約のある人、しかしながら、その人の能力はすごく高いということであれば、画一的な働き方ではない、さまざまな働き方を提供していきたいですね。

出社するのが難しいのであればテレワーク、あるいは他のところで仕事ができるような環境を整えれば十分にわれわれが期待するような成果を上げてもらえます。そういう意味では働き方を多様化させることで、われわれがその社員の能力を活用でき、本人もその能力をキープすることがきます。

中村 経営の新しいフロンティアになるということですね。

大西会長 「朝9時に出社して夕方5時に帰りなさい」…。これだけでは、社員には受け入れられません。社員の能力を最大限に引き出し、会社が活用する。逆に言うと、そういう社員にとってみたら、会社にもっと自由な形で働ける環境をを提供してもらう。その場をわれわれが作り上げるというのは、必ずいいことがあると思っています。(続く)
 

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大西賢(おおにし・まさる) 東大工学部卒。1978年日本航空入社。技術畑を歩み2002年整備本部部長、整備本部副本部長兼JAL航空機整備成田社長、執行役員などを経て2009年西日本の地域路線を運航するグループ会社の日本エアコミューター社長などを歴任。2010年1月の日本航空の会社更生法の適用申請後の2月、経営再建を担い社長に就任した。同時に会長に就いた京セラ名誉会長の稲森和夫氏とともに抜本的な経営改革を進め、V字回復を達成。12年9月には再上場を果たした。同年2月から会長。日本空港ビルデング社外取締役、公益財団法人JAL財団理事長、一般社団法人航空保安研究センター代表理事。1955年大阪府生まれ。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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