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「第2の爆買い」越境通販にメーカー熱視線 フルグラ、おむつ…現地からネットで調達

2017/08/25

インターネット通信販売で海外から日本の商品を購入する「越境通販」の市場が拡大しつつある。訪日観光情報サイト大手はソフトバンクなどと共同で、新たな通販サイトを開設する方針を固めた。日本を訪れた中国人観光客らによる「爆買い」に陰りが見え始める中、メーカーや物流大手などはサービス強化に乗り出しており、今後“第2の爆買い”をめぐる市場争奪戦が激しさを増しそうだ。(佐久間修志)

201708251455_1-300x0.jpgカルビーが中国でのフルグラ正式販売を発表したのにあわせた中国・上海で開催された試食会。中国メディアが多数詰めかけ、注目の高さをうかがわせた=7月下旬(カルビー提供)

「中国を中心に海外市場を1000億円のビジネスにする」

7月24日、中国・上海市で開かれたカルビーの記者会見で松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)はこう強調した。同社は同月28日から中国の通販サイト「天猫国際(Tモール)」で、シリアル食品「フルグラ」の正式販売に踏み切った。

フルグラは平成26年ごろから、訪日中国人がおみやげとして買い始め、徐々にネットでも転売されるようになった。昨年度には「売り上げの約2割が中国流通分」(担当者)となったことから、中国市場への参入を決断。北海道の工場に生産ラインを新設するほか、来夏にも京都に新生産棟を設置する。

この日の記者会見と試食会には60以上の中国メディアが詰めかけた。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には「今度からいっぱい買える」「偽物の心配がなくなる」などのコメントがあふれた。Tモールが販促キャンペーンを実施した8月8日は1日で1万8246袋を売り上げたという。

◇   ◇

201708251459_1-300x0.jpg9月から稼働するANAグループの大型物流OCS東京スカイゲート。中国向け越境通販でのスピード配送に威力を発揮する=8月上旬、東京都江東区(佐久間修志撮影)

「中国人は自国よりも日本など海外で販売された商品に信頼を置いている」

三菱総合研究所の劉瀟瀟(しょうしょう)研究員は中国人の消費者心理をこう分析する。近年は訪日旅行の機会が増えたことから「日本の商品を実際に“体験”した結果、帰国後も商品のリピーターとなりやすい」という。

こうした動きを商機とにらむ日本メーカーは、供給態勢を着々と整える。

子供用紙おむつ「メリーズ」が人気の花王もTモールと京東集団が運営する「京東全球購(JDワールドワイド)」に続き、昨年11月、別サイトに“3店目”を出店した。化粧品大手のコーセーも複数の中国サイトで人気の基礎化粧品「雪肌精」などを販売するほか、今年3月に群馬工場(群馬県伊勢崎市)の生産ラインを増強し、今後の需要増に対応する。

商品を配送する国際物流の主導権争いも本格化し始めた。ANAホールディングス(HD)は9月、越境通販の新たな配送拠点として「OCS東京スカイゲート」を稼働する。グループの航空便と組み合わせ「通関態勢が整えば数日で北京に届く」というスピード感が売りだ。日本通運はアリババ、ヤマトHDも京東とそれぞれ提携し、商品輸送を請け負う。

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新たな流通ルート構築の動きも出ている。台湾・香港で閲覧数トップを誇る訪日旅行情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営するジーリーメディアグループはソフトバンクなどと組み、今秋にも新モールを開設する。7月から出店企業の募集を始めた。

ラーチーゴー人気を支える台湾出身ライターらの日本紹介記事に通販モールをリンクさせ、購買意欲を高める仕掛け。台湾で火が付いたブームが中国に波及するケースも少なくなく、関係者は「高い相乗効果が見込める」と自信を見せる。

劉氏は「中国人のニーズをどう捉えていくかが越境通販における成功の鍵を握る。彼らの心に響くような商品ストーリーを“見える化”する工夫が求められるほか、中国人の心理に詳しい現地パートナー企業との連携なども欠かせない」と指摘した。

3年後は1.9兆円市場に

201708251459_2.jpg 中国向け越境通販の市場拡大は統計上でも鮮明だ。経済産業省によると、平成28年の中国の消費者による日本商品の購入額は、前年比30.3%増の1兆366億円となり、訪日旅行時の中国人の買い物消費額(7832億円)を上回った。まさに“第2の爆買い”の様相だ。

今後の市場拡大も確実視される。海外調査会社によると、中国の通販市場は9276億ドルとすでに世界一の規模を持つ。半面、インターネットの普及率(2016年)はまだ52.3%にとどまり、伸びしろが大きい。経産省は平成32年の越境通販市場は1兆9053億円と、現在の約1.8倍に拡大すると試算した。

日本ではネット通販の利用者のうち、越境通販の経験者は5%程度だ。しかし中国は26%と、4人に1人が越境通販の経験がある。中国人へのアンケートでは「商品の品質が保証されている」「価格が安い」などの意見がともに6割を占めた。越境通販の活況の背景には国内製品に対する不信感があるようだ。

訪日旅行の増加とも相関関係がうかがえる。みずほ情報総研によると、訪日旅行を経験した中国人観光客の6割以上が旅行中に購入した商品を、帰国後に再び購入している。その際、越境通販を利用するケースが少なくなかった。

大和総研の芦田栄一郎シニアコンサルタントは「中国では実店舗でも電子決済が普及しており、ネット通販が普段の買い物と変わらない感覚でできる」と中国における越境通販の手軽さを指摘した。(佐久間修志)

中小にチャンスも国の支援進まず

海外の消費者に商品を直接販売できる「越境通販」は、最小限の設備投資で海外市場へ販路を広げることが可能だ。国内市場の縮小に悩む日本の中小企業にとっては有用なツールといえる。一方で、環境整備に向けた公的支援の動きは進んでいない。

中小企業庁の担当者は「経営規模が小さい地方の中小企業でも、自社の強みを直接売り込める魅力は大きい」と越境通販の利点を認める。ただ、具体的な支援策については「どう売るかは各社の自助努力になる」と距離を置く。

政府は平成25年に閣議決定した日本再興戦略で、中小企業の海外進出について「今後5年間で新たに1万社の海外展開を実現する」と明記した。一方で越境通販の振興策は、27年度補正予算でサイトの出店・制作費などに対する補助金を計上するにとどまる。

観光庁は中国人が訪日旅行をきっかけに日本商品のファンになっている現状を踏まえ、「今度は商品をきっかけに訪日旅行のリピーターになってもらう流れも作る」(国際観光課)との構想を描く。

SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「現在は訪日外国人客誘致に力点が置かれているが、将来的には越境通販との“両輪”で外国人消費を喚起していくことが不可欠だ」と指摘した。(臼井慎太郎)

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