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[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本政府観光局 松山良一理事長 (最終回)

2017/08/23

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回が日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長との対談の最終回です。高いブランドイメージに比べると、実際に観光する人が少ない日本にどう観光客を呼び込むのか。具体的な戦略に話が及びました。

ブランドイメージとのギャップ大きい日本

中村 JNTOの今後の戦略についてお聞かせください。政府が昨年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」の中にも「JNTOの大胆な改革」ということがテーマの一つに挙げられていました。与えられたミッション(使命)をいかに達成されるのでしょうか。

松山理事長 日本は海外におけるブランドイメージが非常に高い国です。国別の観光ブランドイメージではイタリアに次いで世界2位ですし、先日、世界経済フォーラム(WEF)が発表した2017年版の観光競争ランキングでは過去最高の4位でした。一方で日本を訪問する観光客数は世界16位で、ブランド力との間に大きなギャップが存在しています。「いつかは行きたい」を「今行こう」という思いに変え、「今行く日本」にするにはどうすればいいか考え、取り組むということがJNTOの最大のミッションだと思っています。

観光ビジョンの三つの柱の一つである「地方創生への貢献」では、地方の魅力を発信し、地方にインバウンドの恩恵を広げていくための具体的な方策に取り組んでいます。格安航空会社(LCC)の路線開設とクルーズ船の寄港が増えており、海外での各地方の認知度向上を含めたプロモーション活動を展開し、地方に外国人観光客を誘客できるよう取り組んでいます。また、日本での「質の高い観光への貢献」という点で、欧米豪や富裕層をターゲットにした誘致活動を展開するほか、国際会議の積極的な誘致にも取り組んでいます。

中村 私は今年2月から熊本市のMICEアンバサダー(大使)を務めていますが、今、感じているのは、中国を中心に団体旅行から個人旅行に移行する中で、旅行会社は航空機の手配やホテルの手配といったサービスだけで収益を上げるのに限界が来ているという点です。旅行会社は生き残り戦略として付加価値の高いサービスをいかに提供するか、ということが必要になっています。その中で、海外から「必ず呼び込める」イベントであるMICEは、旅行会社にとっても、地方にとっても可能性があります。JNTOとしてのMICEに関する具体的な取り組みはありますか?

MICE(マイス) Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字で、多くの集客が見込めるビジネスイベントをいう。一般の観光旅行に比べて、参加者の消費額が大きく、国際会議などでは海外からの誘客も期待できることから、各自治体が誘致に力を入れている。

国際会議でアジアのナンバーワンを目指す

松山理事長 日本は昨年、MICEの中でもCの部分である国際会議誘致件数が410件となり、アジアでは中国と並んでトップです。ただ米国は約1000件を開催しています。ランキングで日本は世界で7番目のポジションにいるわけです。

政府の目標としては30年にアジアナンバーワンの開催国として不動の地位を築こうということで取り組んでいるところです。では、今、何をやるのか。われわれは2013年からMICE誘致アンバサダープログラムという取り組みを行っており、日本学術会議の大西隆会長や、東京大学第28代総長を務められた株式会社三菱総合研究所の小宮山宏理事長を始めとし、現在は学術関係者47人をMICEアンバサダーに任命しています。国際的な現場で実務的に誘致に取り組んでおられる多くの先生にもご協力をいただいており、戦略的に活動していただいています。

中村 JNTOとしてそれぞれの誘致活動に積極的に関与しておられるわけですね

松山理事長 そうです。誘致を実現するためにどういう手を打てばいいのか、アンバサダーを通じて進めています。これが非常にうまくいっていて、昨年度の成功率は7割を超えています。誘致を提案して、2020年の東京五輪パラリンピックのタイミングで開催する。これは効果が期待できると思います。

もう一つは観光庁と一緒に取り組んでいるユニークベニューの活用です。開会式などのイベントを普通は使えない場所で開催するんです。例えば、パリならルーブル美術館の中でイベントをやるようなものですね。また、国連世界観光機関(UNWTO)がカンボジアのアンコールワットで大きな会議を開催しました。私も参加しましたが、世界中の観光関係者が大勢来られていました。前夜祭はアンコールワットにある寺院が会場になっていたのですが、夜、たいまつを灯した会場に着席すると、カンボジアの観光大臣が現れて皆を出迎えると同時に、LED(発光ダイオード)ライトが寺院を照らすんです。参加者からは「おおっ」と歓声が上がっていました。そういう工夫をこらしてアピールしているんです。

ユニークベニュー 歴史的建造物や文化施設、公的空間などで、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる会場のことを指す。誘致に大きな効果を発揮することから、JNTOでは、各都市のユニークベニューをリスト化するなどして日本での積極展開を促している。

中村 すごく印象に残る演出ですね。

松山理事長 日本も歴史的な建造物はたくさんありますが、消防法などの関係で会場に利用するのは難しかったんです。ですが、先日は迎賓館でビジネスネットワーキングを行うなど、少しずつですが普段は利用できないところで、開会式などを開催するユニークベニューができるようになってきました。

また、これから特に力を入れていくのがMICEのM(ミーティング)とI(インセンティブ)ですね。つまり企業の会議と報酬旅行です。これもある意味、先進的なのはアメリカなんです。アメリカのインセンティブツアーは西海岸を中心に大きな企業関係のイベントが開催されています。そこには巨大なお金が集まりますが、日本にはまだ来ていません。アジアの保険会社や化粧品会社などがインセンティブ旅行などを催していますが、ここをしっかり勝ち取れるような形で取り組んでいます。これも規模によって大小いろいろありますから、小さな規模については地方にきめ細かく対応できるようにしていきたいですね。

日本版DMOを積極支援、地域連携の橋渡し役に

中村 また、アフターコンベンションというのも大切ですね。欧米の方々は国際会議などで家族を呼んだりします。そういう会議の後の楽しみを提供することも重要です。いろんな意味でMICEというのは大きな可能性があります。

松山理事長 その通りです。MICEは経済効果も高く、観光の質の向上への切り札です。ところで、観光の質を向上させるには二つの面があります。一つは、来ていただく方々が満足すること。そして、帰国してもう一回リピートしてもらうことが一つの柱です。この為には受け入れ態勢を整える必要があります。もう一つは受け入れた観光に携わる皆さんも、しっかりそこで稼ぐということです。この二つがないと質の高い観光にはならないと思うんです。

受け入れ態勢は非常に大事で、よく海外キャッシュカード対応のATMがない、Wi-Fiがないという声が聞かれます。こうした課題にも自治体や観光産業などにそれぞれ取り組んでいただいています。改善に向けたハードルが高いことは高いのですが、日本人は、こういう問題が分かると一生懸命に対処しようとします。ですので、私自身は、あまり悲観はしていないですね。

それから「日本人は親切」と言われますが、外国人からは意外と「非常に冷たい」と思われています。外国語を話すにも言葉に完璧さを求めようとします。そのため、外国人と目が合うと目をそらしたり、「ノー、ノー、ノー」と言って逃げてしまったり。特にこの点は改善しないといけないと思います。笑顔でハロー。それで十分です。あとは日本語でもいいんです。

中村 科学的、客観的なデータに基づくきめ細かいマーケティングも必要ですね。

松山理事長 われわれも情報を伝達するのが一つの大きなミッションです。ビッグデータなどを分析して発信をしていこうと考えています。また、個人客になると、口コミが大きな動機付けになります。デジタルマーケティングを強くして、口コミに直接働きかけるブロガーやSNSに対する発信もしっかりやっていきます。それを一つ一つ実現していくのが今のわれわれの仕事です。

中村 いろいろ楽しみですね。最終的に地方のインバウンドを増やすのは、リーダーシップを持った人がいるかどうかにかかってきます。

松山理事長 われわれも大きな課題の一つはリーダー育成も含めた人材育成だと思っています。また、地方でのインバウンドを牽引する組織として、日本版DMOというのがありますが、われわれとしても地方に対する取り組みを強化しています。一つはDMOの成功事例の紹介と支援です。

中村 知識や情報も必要ですね。

松山理事長 その通りです。成功事例を伝達することを中心としたDMOの支援です。もう一つはコンサルティング業務ですね。いろいろなところがインバウンド誘致をやりたいと思っていますが、どうやっていいかわからない。ほとんどの地方がそうだと思います。その部分はわれわれもしっかりと支えていきたいと思っています。

日本版DMO DMOは「Destination Marketing/Management Organization」の略称。地域の観光戦略のかじ取り役となる法人組織。官民を含め、さまざまな地域の関係者と協力しながら観光地域づくりの戦略を策定したり、戦略を実現するために関係者との合意形成を進めたりして観光による地域経済の発展を図る。

三つ目はファムトリップ(旅行業者向けの視察旅行)が典型なのですが、各地の自治体が一生懸命やっているんですね。でも、その動きがバラバラなんです。これを何とかしたい。ある自治体がファムトリップを行って数週間後に近隣の別の自治体が同じように企画をされるケースがよく見受けられるんです。

中村 そうなると、逆に、呼ばれている旅行業者側は同じ内容で、「またか」となってしまいかねませんね。

松山理事長 そうなんです。旅行会社側も訪日観光に詳しいキーパーソンを視察旅行に派遣しないケースも出てきます。そうなると効果的なプロモーションは難しいですよね。一方で、われわれは各国の旅行会社に広くネットワークを持っています。日本各地のDMOと連絡をとりながら、各地連携して効果的なプロモーション活動がとれるような形で貢献していきたいと思っています。

中村 こうしたお話しをうかがうと、活動は本当に多岐にわたっていますね。訪日外国人観光客4000万人の目標達成は高いハードルですが、実現できない数字ではありません。目標達成に向けたJNTOのますますのご活躍を期待しております。どうもありがとうございました。(おわり)

松山良一(まつやま・りょういち)1949年鹿児島県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1972年三井物産入社。2004年米国三井物産副社長、三井物産理事兼九州支社長などを歴任。08年駐ボツワナ特命全権大使兼南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表。11年から日本政府観光局(独立行政法人国際観光振興機構)理事長。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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