Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本政府観光局 松山良一理事長 (3)

2017/08/14

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長との対談の第3回は、2020年の東京五輪パラリンピックに向けて、政府が目標とする訪日観光客数4000万人の目標に向けた取り組みについてうかがいました。

東京五輪決定「絶好のチャンスいただいた」

中村  2020年の東京五輪パラリンピックはインバウンド拡大の大きな起爆剤になることが期待されますが、2013年9月7日の開催決定の瞬間、どんなことを感じましたか?

松山理事長 あの時、東京・丸の内の東京商工会議所で、招致委員会や東京都の関係者らとともに国際オリンピック委員会総会の生中継を見ていました。スペインのマドリードが優位に立っていて、難しい状況でしたが、安倍晋三首相や高円宮妃久子さまのプレゼンテーションなどの結果、日本に決定したという経緯がありました。私自身感じたのは「絶好のチャンスをいただいた」ということです。五輪開催ということで、世界の注目が日本に集まります。率直にうれしいと思いましたね。

中村  五輪パラリンピックの開催が決まり、実際に2016年には約2400万人とインバウンドの数も2000万人の大台を超え、政府としても政策の中の優先順位がぐっと上がったわけですね。

地方の魅力をどう磨き上げるか

松山理事長 2016年に政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、具体的なアクション・プログラムが決まりました。その中では、国立公園のブランド化をはじめさまざまな施策が打ち出され、やるべきことがしっかりと明確に謳われております。それを今いかに実現するか、ということがわれわれの重要なミッションです。観光ビジョンの実現には3つの柱があります。1つは地方創生、もう1つは観光産業を強くすること、3つめは受け入れ態勢の充実です。それぞれに課題があり、それらを一つ一つ克服していかねばなりません。

何が問題なのか。まず地方創生についてですが、当然、地方の魅力はたくさんあります。しかし、モノづくりの世界で、いいモノを作れば売れるという考えでモノを作っても、お客様のニーズに合わなければ買ってもらえません。それと同じように地方に魅力があっても、実際に来てもらうことが重要なんです。来てもらいたい方々に「行きたいな」と思わせるよう工夫してアピールをしないといけません。そういう意味での地方の魅力の「磨き上げ」というのがこれからものすごく大事になってきます。

その際、当然、来てもらうのは外国人ですから、外国人が「いいな」と思うような形で磨き上げなければいけない。訪日外国人の旅行の形態自体は、これまでは団体中心だったものが、個人が主流になってきています。個人旅行になってくると、ただ見たり、食べたりだけではなく、いろいろなことを体験したい、しかも長期にわたって滞在したいというように大きくニーズが変化します。

例えば、趣味でいえば、登山であったり、マリンスポーツであったりと多様です。一方で、多くの訪日客にとって、日本人の普通の生活を体験したいというのが旅行の根幹にあります。そういった面での対応の「磨き上げ」というのは、極端な話ですが、必ずしも新しいことを始めなければいけないということではなく、日本人として普通の生活をしていけばいいわけです。

ただ、そこにストーリー、物語を持って、しっかり訴えていく。思いやりを働かせて、満足して帰ってもらう。その満足した思いが、SNSや口コミで広がるわけですね。また、感動していただくと財布の紐もゆるみ、消費に繋がります。

中村  イタリアではホテルが1週間単位でしか部屋を貸さず、その代わりにホテルが1週間飽きさせないコンテンツを持っているというお話しを先程うかがいました。、海外の場合、ホテルが、ちゃんとおすすめのコンテンツを持っているわけですよね。そこは日本が弱い点ですね。

松山理事長 日本でホテルや旅館の方々に「1週間滞在するプログラムはありますか」と聞くのですが、ほとんどないんですよね。

中村  働き方改革、休み方改革というところにもつながりますが、日本人は基本的に1泊2日とか、場合によっては、日帰りで観光地にやってきて、ちょっとイチゴ狩りみたいなことをして楽しんで帰ってしまう。そういう日本人の休暇のあり方と、欧米との文化の違いは研究をしていく必要がありますね。

松山理事長 その通りです。日本人は1泊旅行が前提となっていて、受け入れる宿泊施設などもそれに合わせています。ですが、外国の方々は連泊するので、1泊2食の充実した食事が続くことが負担になることもあります。

また、もっと地域が力を合わせ、温泉地だったら温泉地の中でそぞろ歩きができ、いろいろなことが楽しめる環境を整える必要があります。例えば、兵庫県の城崎温泉や熊本県の黒川温泉など著名な温泉地での取り組みはよく知られていますが、これからさらにそういうことが求められてくると思います。日本人仕様でやってきたところはやはり少し変えていかないといけないと思いますね。

中村  そうですね。それで今ちょうど潮目が大きく変わり始めているところですよね。

強い観光産業にするために求められること

松山理事長 そういうことで課題の一つは、地方の魅力を磨き上げることです。2番目は、強い観光産業にしなければいけない。その中にはいろいろなテーマがあるのですが、特に関心を持っているのが、休み方改革です。日本人自身がちゃんと休まなければいけないと思うんですよ。

中村  どれだけインバウンドが伸びたとしても、日本人の国内観光が伸びていかない限り、結局は観光産業も思い切った投資ができませんからね。

松山理事長 政府が新たに提唱している取り組みに「キッズウィーク」があります。子供たちが休めば親も休むという発想からスタートしており、休み方改革における効果はあるのではないかとみています。

中村  子供の休みに合わせて有休をとるということをやると、宿泊施設の稼働期間が増えます。

松山理事長 お盆と正月、ゴールデンウィークという全体の約7%の日数の宿泊だけで全体50%を占めるんです。宿泊施設はピークに合わせて人を雇っていないわけです。ピーク時にはアルバイトを雇う。

中村  そういうことでは結局、観光に人生を投入しようという思いにはならないですよね。高度な人材がなかなか集まらないことになってしまう。

松山理事長 そのためにもキッズウィークを使って、日本人自身が子供のために休みを取って旅行に行くということが大事なのです。また、日本人の国内旅行の閑散期の利用ということでは、インバウンドも重要です。日本人の休暇のパターンと違いますからね。

中村  観光産業を日本の基幹産業化するというところでは、需要の平準化を実現させる必要があります。

松山理事長 観光需要の平準化は大事な第一歩だと思います。日本人が休むことと、インバウンドで国内旅行のピークでない時期を埋めることです。また、観光産業の裾野の拡大というのが大きいと思うんですね。今までは観光産業というと旅行会社や旅館など業種が限られていましたが、どんどんと裾野が広がっていると思います。ある百貨店の方に、「われわれは観光産業です」とおっしゃっていただいたことがありました。今、特にインバウンドは大きな流れがあって、どんどん新しいビジネスが生まれてきています。そうすると、観光で稼ぐということがいろいろとできるのではないかと思うんです。

たまたま最近、東京の谷根千(東京都台東区の谷中、根津、千駄木周辺エリア)をぶらぶらしていたんですが、外国人が多数来ていましたね。久しぶりに歩いたのですが、とても道がきれいになっていました。すぐ近くにバーや蕎麦屋さん、お土産物屋さんができているんですよ。つまり外国人が観光に来ることで大きな人の流れが生まれ、お寺の門前に町ができるように周辺が盛り上がっていくんです。

中村 まさに理事長が話されたように裾野が拡大していくと、インバウンドの恩恵をこうむっていなかった人たちもチャンスを感じる。農水省も農家に宿泊する「農泊」に力を入れています。今回、民泊新法も成立し、いろいろな意味でこれから地方においても、今までインバウンドと関係ないと思われていたところにも裾野が広がりますね。

松山理事長 現にそういった商売と同時に最近はアプリ中心に色々なサービスがありがたいことに増えています。これも一つのビジネスです。そういったインバウンドの大きな流れができていますから、いかに儲かるビジネスをやっていくかということが大事になってきています。そうしたことを意識して取り組んでいただくと観光産業を強くするということに結びつくのではないかと期待しています。(続く)

松山良一(まつやま・りょういち)1949年鹿児島県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1972年三井物産入社。2004年米国三井物産副社長、三井物産理事兼九州支社長などを歴任。08年駐ボツワナ特命全権大使兼南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表。11年から日本政府観光局(独立行政法人国際観光振興機構)理事長。

中村 好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

あわせて読む

「JNTO」の記事をもっと見る

日本政府観光局

もっと見る
「日本政府観光局」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る 「行政」の記事をもっと見る

旅行業

もっと見る
「旅行業」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

松山良一

もっと見る
「松山良一」の記事をもっと見る