Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本政府観光局 松山良一理事長 (2)

2017/08/07

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長との対談の第2回では、松山理事長の就任から現在までの取り組みについて振り返ります。東日本大震災の影響で、訪日外国人観光客数は大幅に減少しましたが、そこには、被害に対する海外の誤解が背景にありました。訪日客の回復に向けたJNTOの対応や、急回復した背景などについて話をうかがいました。

存在感が薄かった日本の観光産業

中村  松山理事長が就任されたのは2011年10月ですが、ちょうど東日本大震災が発生して半年が経過した時期だったかと思います。原発事故の影響などもあり、観光客が激減した時期でしたね。

松山理事長 あの当時は、日本全体に暗いムードが広がっていました。自信を失った部分も大きかったと思います。訪日観光客数も2010年に860万だったのが、11年には620万まで落ちました。JNTOとしても、とにかく復活させなければいけないと必死になって頑張っていた状況の中で、私が着任することになりました。

着任する前から感じていたことなのですが、日本の観光力のポテンシャルは非常に大きい。私は、商社マンとして、欧州や米国に長く勤務していたのですが、彼らにとって日本は「いつかは行きたい国」なんです。しかし、「今行くには高いし、遠い。そのうち行こう」というイメージのデスティネーション(目的地)なんです。「いつかは行きたい国」になっていますが、「今行こうという国」にはなってないのが現状です。しかしこれをうまく工夫すれば、これから多くの人たちを日本に呼ぶことができると思いました。

それでいろいろ資料などを調べていると、日本にとって、観光産業というのはあまりメーンの産業ではありませんでした。しかし、GDP(国内総生産)の貢献度でいうと、建設業は27兆円に対して、観光産業はそれに匹敵する24兆円にも上ることが分かってきました。建設と観光というのは産業としての存在感が全然違いますが、経済規模はほとんど一緒なんです。

産業としての観光をもう少し強くしなくてはいけない。その一助になれればと思い、JNTOに着任しました。

日本全体が被災? 海外での「誤解」払拭に奔走

中村  私も経験しましたが、2011年という年は何かに取り組むにも非常に難しい年でした。震災の被害はこれまでになく大きく、たくさんの犠牲者を出し、インフラを失いました。国民全体に自粛ムードが広がりました。一方で、こういう状況だからこそ、逆に積極的に取り組むべきだとも感じました。

なぜそう感じたかといいますと、当時よく覚えているのですが、中国に行っても、韓国に行っても、東南アジア諸国に行っても、台湾に行っても、日本向けのビジネスは閑古鳥状態になり、各国の日本市場の担当者が失業したり、左遷されたりする姿を目の当たりにしたためです。われわれは常にたくさんの外国人観光客の方々に来てほしいと思っていますが、送り出す方々が当時、すごく苦労されていた。そういう人たちをしっかり応援するという意味においても状況が厳しい時にもインバウンド振興に継続的に取り組むことが重要だと思いました。

松山理事長 私も韓国などに行った時に同じ経験をしました。「仕事がない」「もう倒産だ」「何とかしてくれ」と韓国の旅行会社の方が嘆いておられました。とにかく復活させなくてはならない。最初に取り組んだのは今の日本の現状をしっかりと世界に伝える、「今、日本はこうなっています」ということを認知してもらうことでした。

震災当時のCNNやBBCなど海外のニュースなどを通して、日本全体が津波の被害を受けた、日本全体が放射能に汚染されたと思われていたんです。でもそうではありません。

被災地以外は「business as usual(平常通り)です」というような事実をしっかり伝えることに一生懸命取り組みました。一方で、いくら日本人のわれわれが大丈夫と発信したところで、みんながみんな信じるわけではない。ですので、実際に日本に来てもらって、自分で体験したものを発信してもらうという取り組みをしたんです。

JNTOのウェブサイトで「Japan Now on Video」というコーナーを設けて、海外のセレブにも様々なメッセージを発信していただきました。

中村  放っておけば、マイナスの情報しか発信されないので、積極的に現状を伝えないと、どうしてもマイナスの情報に負けてしまうんですよね。

松山理事長 1000人規模で、旅行会社やメディアなどを招いて、実際に日本の現状を見てもらいました。こうした取り組みから、「大丈夫なんだ」という感じになってきたと思います。また、世界の観光産業トップが集まる世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)を、2012年に仙台と東京で開催しました。震災があったから延期しようという話もあったのですが、「やるべきだ」という声もあり、仙台でも開催しました。ほとんどの観光産業のトップの方は現地に行ってくださり、被災地を見て実情を理解してもらい、それが大きな発信になったと思います。その結果、2012年は836万人まで訪日客数も回復したわけです。

翌2013年には政府が訪日客1000万人という目標を立てました。JNTOも一生懸命頑張ったのですが、その中で、目標達成に向けて、観光産業自体が一つになったと思います。観光産業は産業としての結びつきがあまり強くはなかったのですが、訪日客1000万人を達成しようということで、旅行会社や航空会社、宿泊施設、自治体、すべてが一つになって1000万人達成に向かっていった感じでした。またVISA緩和などの取り組みもあり、2013年9月にはアルゼンチンのブエノスアイレスで、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、雰囲気ががらりと変わりました。こうした官民力を合わせた結果、1000万人を達成したわけです。

これで大きな成功体験ができたと思います。

東京五輪決定…免税制度、ビザ発給の緩和も起爆剤に

中村  そこで何か大きなスイッチが入りましたね。

松山理事長 そうなんです。2013年オリンピック誘致が決まった時の政府目標は2020年2000万人だったんですけど、2016年に2404万人になりました。

中村  現在は2020年の政府目標が2倍の4000万人です。そして、訪日外国人観光客の消費額8兆円を見込んでいます。

松山理事長 2016年3月に政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、観光産業というものを基幹産業に育て上げようということが初めて盛り込まれました。

中村  観光産業はずっと“補欠”扱いで、基幹産業という概念はそれまではありませんでした。もう一つ、理事長が先ほどお話された2013年で私にとっての大きなエポックだったのは、免税制度が2013年12月に改正が与党で決定され、従来、免税対象ではなかった食料品や薬品、化粧品などが対象になりました。翌年2014年10月1日から制度が施行され、15年の訪日客の消費額約3兆7000億円のうち40%はショッピングでした。

松山理事長 2013年は、免税制度のほか、タイ、マレーシアのビザ(査証)免除を始めた時期でもあります。それまでビザ緩和というのは、だいたい1年間に2カ国だったんですね。それが2014年以降は年に4、5カ国ビザ緩和の取り組みがあり、これは訪日客を誘致する上で非常に大きかったですね。

中村  中国に対しても期限内なら何度でも出国できるマルチビザが解禁されましたね。

松山理事長 そうですね。こうした政府の柔軟な対応が観光産業の大きな発展に結び付いてきたのではないかなと思います。私自身は英国にいた期間が長いのですが、英国という国は、観光資源はそれほど多くはないけれど、たくさんの英国人が海外旅行に出かけます。冬のクリスマスの時期と夏はだいたい1~2週間は休みますが、その半年前にはツアーを予約するのが一般的な行動パターンですね。

一方、イタリアは、本当に観光大国ですね。「観光とはこういうものか」と感じたのですが、まずホテルがシーズンになると、1週間単位でないと貸さないんですよ。1泊ではなく1週間単位。そういったホテルは1週間滞在しても楽しめるよう観光プログラムを持っているんです。1週間いる間にこんなことができる、こんな体験プログラムがあるというのを準備しています。受け入れの体制がしっかりしているということです。

もう一つ、イタリアは地方が元気です。それぞれが違う文化を持っていて、それぞれに自信と誇りがある。「ここは素晴らしいですよ。いらっしゃい、いらっしゃい」とプロモーションを行っているわけですね。それを見ていると日本もそういう魅力はいっぱいあるのですが、まだ、自信と誇りに満ちているわけではないんですよね。

中村  政府が進めている働き方改革、別の言い方をすれば、休み方改革ですね、そういうところが観光立国の実現には不可欠ですね。(続く)

松山良一(まつやま・りょういち)1949年鹿児島県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1972年三井物産入社。2004年米国三井物産副社長、三井物産理事兼九州支社長などを歴任。08年駐ボツワナ特命全権大使兼南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表。11年から日本政府観光局(独立行政法人国際観光振興機構)理事長。

中村 好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

あわせて読む

「JNTO」の記事をもっと見る

日本政府観光局

もっと見る
「日本政府観光局」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る 「行政」の記事をもっと見る

旅行業

もっと見る
「旅行業」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

松山良一

もっと見る
「松山良一」の記事をもっと見る