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[連載]観光立国のフロントランナーたち 日本政府観光局 松山良一理事長 (1)

2017/07/31
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回から4回にわたって、日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長が登場します。

JNTOは日本のインバウンド市場拡大に向けて、観光客の誘致活動を行う政府機関。政府は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に訪日観光客数を4000万人とする目標を掲げていますが、目標達成に向けて、JNTOの担う役割は大きくなっています。松山理事長に政府目標達成に向けた取り組みなどについてお話しをうかがいました。

観光立国の実現に向け、新たなステージに

中村 JNTOは昨年、スペインのマドリードやロシアのモスクワに新たな事務所を開設されたことにより、新しい拠点ができて世界のネットワークがさらに広がりました。2020年の訪日外国人観光客数4000万人という政府目標の達成に向けて、今後、どのように変わり、どう前進していくのかをお聞かせください。

松山理事長 JNTOという組織を私なりに整理してみたのですが、そもそもJNTOの原点というのは明治26年にできた「喜賓会」という組織です。渋沢栄一と三井物産を創設した益田孝がパリに行った際、外国人観光客が数多く訪問していることに感心し、日本も外国人観光客を呼び込むための組織体を作ろうということで創設されました。その後、歴史を経て、1964年の東京五輪のころにJNTOが発足しました。当時は国際観光振興会という名称でした。それから50余年。ようやく50年という歴史を経て、今日に至っています。

日本は、海外から日本に呼び込むインバウンドと日本から海外に旅行するアウトバウンドの両方の振興を進めてきましたが、昔はインバウンドが中心でした。前回の東京五輪の時に日本を訪れた外国人は35万人、日本人が海外に出国するのは12万人でした。その後、アウトバウンドが増加し、70年の大阪万博の翌年には、インバウンドとアウトバウンドが逆転しました。その後、ドルショックやプラザ合意などによる急激な円高もあって、日本人がどっと海外旅行するようになりました。

政府は高度成長とともに日本人を海外に旅行させようという政策を強化しました。1980年代には「テン・ミリオン計画」というのがありましたが、まさにアウトバウンド中心だったのです。それが、ようやく2003年の小泉政権以降、現在の安倍政権にも通じていますが、「日本もちゃんと外国から観光客を呼び込もう」「インバウンドを一生懸命やろう」という政策に変わってきました。

中村 その結果、また新たな転換期が訪れていますね。

松山理事長 その通りです。2015年にインバウンドがアウトバウンドを上回り、逆転したというのは、JNTOにとって非常に大きな一つのトピックスではないかと思っています。インバウンドは外貨獲得、雇用に結びつくので、各国とも「いらっしゃい」「いらっしゃい」と熾烈な争いをしています、しかし、日本はこれまで十分力を入れてこなかったのですが、ようやく大きく動き出すことができました。

各国の政府観光局は、インバウンドに相当に力を入れているのですが、これまで日本は本来の政府観光局としての陣容が十分に整っていなかったと思います。ようやくここにきて、アウトバウンドを上回るインバウンドの増加があり、政府も予算を計上して「ビジット・ジャパン」などの政策を展開するなど訪日客の呼び込みに本腰を入れるようになりました。また、2015年からはJNTOが訪日プロモーション事業の実施主体となりました。そういう意味で、ようやく体制が整ったのが2015年以降といえます。この年はJNTOにとっての非常に大きなエポックになったと思います。

中村 つまり本格的な観光立国のステージに入ってきたということですね。それに伴ってJNTOの陣容は整ってきたのでしょうか。

松山理事長 そうです。当然、人員も増員しました。また、訪日客誘致の拠点となる海外事務所も昨年から今年にかけて増やしています。一般的に諸外国の政府観光局は20~30カ所の事務所を設置して、観光客の誘致を行っているのですが、つい最近まで日本は14カ所しか海外事務所を設けていませんでした。ここへきて21カ所目の設置を目指すところまできており、JNTOとして戦う体制が整ってきたというところまできています。

中村 国際交流基金との連携も強化していますね。

松山理事長 昨年、国際交流基金とは、国際文化交流と訪日旅行の促進に向けた相互連携に関する協定を締結しました。 この連携協定にもとづいて、それぞれの強みを活かして、国際文化交流事業と訪日旅行促進事業を連携して展開し、効果的に日本をアピールしています。

国際交流基金は、文化交流を行いながら日本ファンを海外に作っていく役割がありますが、われわれは、国際交流基金が育てた日本ファンを招き入れる役割を担います。そういった意味で連携が必要なのです。今年1月に本部オフィスも同じビルになり、定期的な打ち合わせも始めています。これからさらに連携もしっかりとできるのではないかと思っています。

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マドリード事務所開設、国際的な活動の拠点に

中村 海外の拠点も、機能も充実し、本格的に戦力が整ってきたということですね。   特にスペイン、ロシア市場についてお聞かせください。

松山理事長 昨年4月から、スペインのマドリードとロシアのモスクワを始め新たに7ヵ所に事務所を設けるための準備を進めてきました。政府の期間として設立するのでいろいろと細かい事務作業があったのですが、モスクワは昨年12月に、マドリードは今年の3月にオープンに至りました。

まずスペインですが、私が非常に期待しているのは、スペイン自体が世界有数の観光大国です。まずは、そこに一生懸命学ばなければならないと考えています。

中村 単にマドリード事務所を作ったということで、スペインから観光客を誘致するというだけではなく、同時にスペインの政府や政府観光局の戦略を学ぶということを重視されているとういうことでね。

松山理事長 戦略を学ぶというという部分は大きいと思います。日本も地方の時代ということで、訪日客を地方にいかに分散させるかということが課題です。その点でいうと、スペインはバレンシアをはじめ地方の観光地が強い。その部分の政策的な対応を学びたいですね。また、国連世界観光機関(UNWTO)の事務局がマドリードにあります。スペインはUNWTOの理事国でもありますので、その部分での連携をしっかりと深めていきたい。観光分野での活躍において、日本もしっかりキャッチアップしないといけないと考えています。

中村 世界の観光市場の活性化に向けて、日本も理事国として寄与したいとお考えですね。

松山理事長 手段としてはいろいろあると思っています。その一つですが、今年は国連の「持続可能な観光国際年」という年なんです。この取り組みに対してJNTOとしてもどういったことで貢献できるかということも考えています。マドリード事務所を通じていろいろなアプローチができるのではないかということもあります。もちろん、スペインからの観光客誘致というのが大きな目的ではありますが。

中村 実は、先日、世界遺産の熊野古道を歩いてきたのですが、スペインの方を多くみかけました。漫画やアニメなどの日本のコンテンツにもすごく興味を持たれていますよね。

松山理事長 熊野古道のある田辺市はスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ市と観光交流協定を締結していますね。日本の鍼灸治療に興味を持っておられる方や盆栽がお好きな方も多いんですよ。先日、サンタンデールという都市で外務省を中心とした会議があり、そこに私も呼ばれたのですが、「スペイン盆栽の会」という組織が素晴らしい盆栽を持ってきていました。そこで、会員の方に「日本に行ったことはありますか」と聞いたのですが、「ない」とおっしゃいます。日本にすごく興味があり、盆栽をやっている。それなのに日本には行ったことはない。そういったところからもスペインのポテンシャルを感じます。

また、イベリア航空が昨年から日本とスペインを結ぶ直行便の運航を始めましたが、スペインとのルートがつながると、さらに南米へと広がりが出てくるんです。

ポテンシャルが大きいロシア、課題はビザ緩和

201707311630_2.jpg中村 なるほど。文化圏という点では、スペインの国だけの話ではないんですね。一方、ロシアはどうですか。

松山理事長 ロシアはまだ、訪日観光客数が5~6万人という状況です。しかし、ポテンシャルは大きいと思っています。もともとロシアから海外旅行に行く人は4000万人くらいいますので、まだほんの一部しか日本に来ていないのが現状です。

ロシアには2つの観光市場があります。1つはヨーロッパ(欧州)ロシア、もう1つは極東ロシアです。欧州ロシアは、まだ旅行先として日本の認知度が低い状況です。極東ロシアは、日本に対する認知度は高いですが、欧州ロシアに比べると、所得水準があまり高くないため、なかなか日本まできてくれないという傾向があります。

欧州ロシアに対しては、とにかく日本の魅力をアピールして、知名度を上げるということを一生懸命やる。極東ロシアについては来たことがある人がいますから、リピーターをいかに増やす取り組みをしたらよいかということを考えているところなんです。

ただ、問題が2つあります。一つは航空路線の連携です。今、ロシアの航空会社であるアエロフロートが毎日、日本航空が7月から10月は毎日運航しています。今年、直行便運航50周年記念ですから、これを契機にもっと連携を図ろうというのが一つです。特に極東ロシアについては地元の航空会社と連携することになりますが、商業ベースに乗せられるかどうかが課題です。

もう一つは査証(ビザ)ですね。観光等を目的とするビザは今まではシングルビザ(一回の出入国が可能)だったのですが、今年の1月からマルチビザ(期限内に出入国が何度もできる)が導入されるなど、要件が緩和されました。この部分は政治的な判断になりますが、ビザ緩和によるロシアからの訪日客誘致は大きなポテンシャルを秘めていると思います。日本とロシアは平和条約の締結がない状況ですが、人の往来が増え、友達や知り合いになれば、「日本はいいところだ」という声が高まると思います。そういう意味からもロシアは大事なんです。(続く)

松山良一(まつやま・りょういち)1949年鹿児島県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1972年三井物産入社。2004年米国三井物産副社長、三井物産理事兼九州支社長などを歴任。08年駐ボツワナ特命全権大使兼南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表。11年から日本政府観光局(独立行政法人国際観光振興機構)理事長。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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