Logo sec

[連載]観光立国のフロントランナーたち 小西美術工藝社 デービッド・アトキンソン氏(最終回)

2017/07/18
201706261719_1.jpg

ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長との対談は今回が最終回です。

最終回はアトキンソン氏が執筆した『新・所得倍増論』について話が及びました。世界第3位の経済大国でありながら、生産性が低い日本の弱点を指摘。人口減という現実に目をそむけ、危機感をもたない日本に厳しいまなざしを向けています。

経済大国のようで経済大国でない日本

中村 ご執筆された『新・所得倍増論』の中で、アトキンソンさんは、人口が減少する中で、日本が戦後の高度成長の成功体験を忘れられず、その妄想の中で物事を進めようとしていることを問題視されていました。

『新・所得倍増論』 世界第3位の経済大国でありながら、生産性は世界第27位の日本経済をデータに基づき客観的に分析。潜在力を全く生かせない「日本病」に陥っている日本の生産性を高め、平均年収を現在の2倍、GDPを1.5倍にするための処方箋を示している。東洋経済新報社刊。

アトキンソン氏 実は、私自身、この本を書き始めるまで、なぜ日本が世界第3位の経済大国なのかを十分に説明しきれていませんでした。大学で日本の経済を勉強し、その後、ゴールドマンサックス証券で7年も働いていたにもかかわらずです。日本の産業をよくよくみてみると、農業も含めてそうなのですが、なぜ産業として成り立っているのか不思議なものもあります。トヨタ自動車はすごい企業ですが、世界を席巻するようなとんでもない技術を持っているわけではありません。何でこうなったのか不思議に思っていました。

今回の本を執筆するにあたって、改めて日本を分析して、日本の高度成長の要因が、すべてとはいいませんが、かなりの部分、急激な人口の増加にあったことが分かってきました。日本は世界3位の経済大国ですが、一人当たりのGDP(国内総生産)をみると、20~30位をうろうろしています。一人当たりの生産性は低いのですが、その分を人口増でカバーしていたわけです。人口の激増は過剰な競争社会を形作ります。また、特に日本のような男性社会はなおさら競争になります。その原動力が日本を発展させていったんです。でも、日本は経済大国のようにもみえますが、生産性は低い国なんです。

中村 私自身も感じるのは、コメが余っているにもかかわらずコメを生産し続け、人口が減っているにもかかわらす毎年100万戸近い住宅を建設し続けている。終戦直後の飢餓感を忘れられないからではないかということです。時代が変化しているのにその変化に対応できていない。そこが、日本の低い生産性に表れているように思えてなりませんね。生産性の低さは高度成長期も今もそう大きく変化はしていません。

アトキンソン氏 そうです。人口が増加している段階では、成長が可能でしたが、今の少子化の中では競争も生まれない。そうなると、イノベーション(技術革新)も生まれない。それなのに、みんな人口が増えていた時の社会のままの過去の妄想を抱いたまま人口減少社会を迎えているのです。そんな妄想を抱えたままなので、外国人就労や移民の問題などの議論が全く進まない。日本人は要するに過去に生きているんですよ。ここで妄想を捨てて、現実をみないと、もうどうにもなりません。

でも、私が「高度成長は全て人口激増が可能にした妄想だ」なんて言うと、すごい攻撃がきますよ。「会議が長い」「書類にハンコをもらうのがたくさんあるからだ」「残業が多い」「規制が多い」「世界最高の商品を作っているのに日本は過当競争だから値段が取れない」といった声もあります。しかし、会議やハンコ、霞が関がああだ、こうだ、と言うのは事実としては事実なんですが、根拠がないわけですよ。

そもそも日本の子供の6人に1人が貧困し、国の財政が破綻寸前だとか、社会保障制度もこのままだと破綻してしまう状況にあります。だからこそ生産性を上げなくてはならないんです。この問題を放置することは、極論ですが、手術すればあと10年生きていける親を手術せずに死なせることと同じです。それくらいひどいことをしているという認識が日本人にないのは残念です。201707191049_1.jpg

中村 日本は千何百兆円もの借金をし、赤字国債を刷り続けています。消費税増などの税金も、財政も、観光のビジネスを含め、すべて問題の解決を先延ばししている感じですね。

アトキンソン氏 先延ばしなのでしょうか。先延ばしが成り立つのは将来の人口が今の人口より増えることが前提になります。借金を返す人がこれから減っていくのが確実なのに借金を増やすというのはインチキの世界です。日本経済の現実を考えれば、付加価値を高めてそれで対価をもらい、借金を返す方がハッピーです。

政府などのクールジャパン戦略の会合は日本人が集まって、日本の自慢話や聞こえのいい話ばかりです。まるで日本を礼賛する会です。自分たちでほめあいながら、「外国人にこういうものが評価されている」「今、海外に日本のこんなことがブームになっている」とか話しています。でも、言っているだけで産業化されていないということも事実です。そんなことよりも、大企業の商品戦略会議のように、世界のマーケットを調べ上げて、すべてデータを出して、それを分析して、事業化しなくてはなりません。ビジネスマンは、海外から人を招く時は、国内に誰がどこで何をして、いくらもらっていて、それで誰が発信して、来てもらう時に移動はどうする、泊まるホテルはどうする、などきちんと準備をする。それと同じことをやればいいんです。

11億9000万人の世界の観光客のうち、5億9000万人が欧州で、2億9000万人がアジアです。世界一の市場からは日本へ来てもらっていません。アジアの中で、確かにタイは重要なマーケットかもしれません。でも、タイの観光客は644万人しかいないんです。今は中国のマーケットは最も大きいですが、世界第3のマーケットはドイツです。ドイツを見過ごす手はありません。でも、政府関連の会合などに出席して「世界第3のマーケットはドイツ」と言っても、他の出席者からは「ああそうですか」みたいな反応しかありません。「ああそうですか」はないでしょうと言いたくなる時があります。

海外を知らない日本人「客観的に見られない」

201707191049_2.jpg中村 日本人がなぜ日本を自慢するのかというと、私は、よそを見てないからだと思います。日本人はインバウンドばっかりやって、税金を使ってプロモーションをやっていますが、日本人は海外に行ってないんですよ。日本のインバウンドが昨年2400万人を超えましたが、アウトバウンドは1712万人。出国率は先進国のなかでも最下位クラスです。パスポートを持っている人は23%しかいない。これも先進国の中でも最下位で、出国率はたった12~13%。ビジネスマンの出張を除くと8%を切ります。

世界に行かないから自分たちこのことが客観的に見えていないのでしょう。このままでは訪日客は現在の2400万人から4000万人、6000万人には届かないのではないかと思います。欧州の人たちは自分たちも出かけて行くし、来てももらっている。だけど「来て、来て」だけ。そんな虫のいい話はないのではないでしょうか。

アトキンソン氏 日本は「ものづくりがすごい」と自慢している割に輸出はほとんどしていません。輸出比率は世界44位です。「43カ国の名前を言って」と聞かれても多分43の国の名前は出てこないと思います。輸出もしないし、海外にも行かない。一方、ドイツは輸出額が日本の1.5倍もあります。GDPに占める輸出比率は日本の2~3倍になっています。ドイツ人はどんどん海外に出かけていくし、友達もつくる。それをみると、日本人は出かけていないですよね。

それから、先日、懐石料理のマナーについて紹介している日本の外国人観光客向けのサイトをみつけたんですが、これがすごいんですよ。座敷に入る前、襖の前で座って、一度に開けずに3回に分けて開けるとか、座布団に座るときは立った形から座るのではなく、膝をついてズルズルと座布団に座るとか、おしぼりが出る時は手だけを拭き、口を拭きたいときは懐中している懐紙を使ってくださいとか、いちいちすべて書かれているんですよ。もうこれは完全な上から目線です。

お茶をやっている私としては当たり前ですが、1億2700万人の日本人の中で、いつも懐紙を懐中している人なんていますか? 襖を開けるのだって、日本の料亭でやるのは店の方で、お客さんがしているのは見たことがないですよ。初めて懐石料理を食べにくる外国人観光客に細かいルールなんて別にどうでもいいじゃないかって思いますね。

中村 そういうのが氾濫してしまうとちょっと違ったイメージになってしまいますよね。日本は社会システムがガラパゴス化しているとよく言われますが、そこに風穴を開けるのは日本が真の観光立国になることだと思います。

アトキンソン氏 その通りです。とにかく海外から多くの人に来てもらい、日本がどこまでガラパゴス化しているのかを体験してもらうのが一番いいと思います。(終わり)
                   ◇

デービッド・アトキンソン 1965年英国生まれ。オックスフォード大学(日本学専攻)卒業後、大手コンサルタント会社、証券会社を経て、92年ゴールドマンサックス証券入社。取締役を経て、パートナー(共同出資者)となるが、2007年退社。2009年国宝や重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社し、取締役に就任。11年同社の会長兼社長、14年社長。著書は『新・観光立国論』(東洋経済新報社)、『新所得倍増論』など多数。政府への提言を続ける一方、地方の観光振興にも尽力する。奈良県立大学客員教授、政府の行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員、文化庁日本遺産審査委員、迎賓館アドバイザー、二条城特別顧問、日本政府観光局(JNTO)特別顧問などを務める。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

あわせて読む

「人気」の記事をもっと見る

訪日プロモ

もっと見る
「訪日プロモ」の記事をもっと見る

中村好明

もっと見る
「中村好明」の記事をもっと見る 「連載」の記事をもっと見る

観光立国のフロントランナーたち

もっと見る
「観光立国のフロントランナーたち」の記事をもっと見る

デービッド・アトキンソン

もっと見る
「デービッド・アトキンソン」の記事をもっと見る