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[連載]観光立国のフロントランナーたち 小西美術工藝社 デービッド・アトキンソン氏 (3)

2017/07/10
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長との対談の第3回では、アトキンソン氏の著書『新・観光立国論』ついて話を聞きました。

どんなニーズも受け入れられる多様性が消費を生む

中村 著書の『新・観光立国論』を執筆された動機についてお聞かせください。『新・観光立国論』を書かれたのにはどんな背景があったのでしょうか。

『新・観光立国論』 2016年の訪日外国人観光客数は2400万人を突破し、政府は30年に6000万人を目標にしているが、著者は「日本ほどのポテンシャルを持つ国としては驚くほど少ない数」と指摘。日本の潜在力と世界の観光産業の隆盛を考えれば30年までに8200万人を招致することも不可能ではないと訴える。詳細なデータをもとに日本の観光政策の問題点を鋭い視点で分析するとともに「観光立国」となるべき道筋を説いている。東洋経済新報社刊。

201707101419_1-300x0.jpgアトキンソン氏 「観光立国」というのは、もともとは自民党の二階俊博幹事長が提唱されていたものです。『新・観光立国論』は、二階先生が執筆された『観光立国宣言』をベースにして「新」としたものです。

2014年ごろ、文化財にかける国や自治体の予算があまりにも少なかったので、二階先生にいろいろ相談に行ったことがありました。これまで話したことにもつながってくるのですが、文化財を観に行っても、しっかりとした解説もできていないし、保護もできていない。一度は行くのですが、一過性でいかなくなってしまう。そんな問題点を訴えたのですが、二階先生は「文化財はある意味、研究者のためのものになっている。観光に結びつけて日本の社会・経済に貢献することができるよう文化財のあり方を変えていくべきだ」というような話をされました。

文化財行政を良くするには、収益モデルを構築することが必要というような議論になり、「そのために必要なのは『観光』だ」ということで意気投合しました。二階先生に大変貴重なご指摘をいただき、『新・観光立国論』をまとめることになりました。

中村 『新・観光立国論』は日本が訪日観光客の誘致を進める中で、大きな反響を呼びました。2020年に政府は訪日外国人観光客数4000万人、30年に6000万人にすることを目標にしていますが、その政策運営にも影響を与えています。一方で、アトキンソンさんは、消費額も重要との認識を持たれています。政府の目標は30年に15兆円。16年の3兆7000億円からこの水準まで引き上げるためにはどんな施策が求められますか。

アトキンソン氏 よくそういう質問を受けますが、これは、売上高10兆円規模のトヨタ自動車をイチからつくるにはどうすればいいですかと聞くのと同じくらい難しい問いかけです。観光産業が世界のGDPの10%になっていますが、それを考えると、日本のGDPは500兆円から、観光産業というのは日本で50兆円規模になってもおかしくない。海外から15兆円を稼き、残りは国内で35兆円を稼ぐみたいな話です。これほどの巨大なマーケットをどうつくるのかを「こうすればいい」と正々堂々と答えられる人は、本物ではないと思いますよ。

例えば、トヨタは一つの種類の車だけを造ってすごいのかというと、そうではありません。トラックもあれば、高燃費の車もあれば高級車も製造しています。なおかつ、国によっても、所得階層や男性・女性、趣味嗜好などさまざまなニーズに対応して車を製造しています。それがトヨタなのです。

私は日本の国内産業の中で、最も国際競争力が強いのは「食」だと思っています。それ以外は見当たらないと思います。日本にはとんでもない数の飲食店があります。高級フレンチがあれば、和食料亭がある。懐石もあれば立ち食いまであるわけです。東京23区にあるフランス料理とイタリア料理店だけで世界中の和食店よりも多いんですから。それがどうもうかっているのかは個々の店舗ビジネスの問題です。一番のポイントはどんなニーズも受け入れられるような多様性が重要なのです。

中村 なるほど。

アトキンソン氏 訪日客が増える中で、これからホテルがもっと必要になります。1泊40万円の部屋に泊まる客もいれば、そうでない客もいる。上から下まで全部あるホテルを作るべきなのですが、実際は格安のホテルばかりが建設されています。

15兆円をどうするというのは、「それぞれの民間の工夫次第」という話なんです。変な規制があれば、撤廃すればいいですが、それですぐに訪日客が6000万人に増え、15兆円の金を落とすということにはなりません。結局は、それぞれの分野に携わる人が、頭を使って考えて取り組むしかないことなんです。

表面にとらわれず本質を見極めよ

201707101419_2-300x0.jpg中村 外国人観光客の多様なニーズにうまく対応し、需要を取り込む経済環境を整えることこそが重要ということですね。『新・観光立国論』にもありましたが、その多様性が日本人にはないということですね。

アトキンソン氏 環境整備は不十分ですね。整備が急務なのに言葉遊びをいまだにしている人が多い気がします。私もいろいろな政府の委員会の委員をしていますが、どこかの研究所の人がこんなことをいいました。「昔はツーリストと呼ばれたが、その後、トラベラーになった。で、今はエクスペリエンス・コレクターだ」。横文字にして、意味のないことをカッコよくみせる傾向があったり、「モノ消費からコト消費へ」みたいなキャッチフレーズを作って興奮したりしているのを不思議に感じます。流行や感覚的な話は邪魔です。

例えば、2016年の外国人観光客の消費額が3兆7000億円となった中で、マスメディアが中国人の「爆買い」をよく取り上げていましたが、そこに本質があるかというと、あまり本質があるとは思えないです。実際に、きちんとした形でデータ分析をすると、爆買いがどれほど消費に重要なものなのかというと、大したことはないんですよ。

観光ということをそもそも考えると、観光というのは総合力であり、多様性なのです。「爆買い」は、全体の消費の数字で大半を占めているわけではありません。そもそも、中国人が日本に来て爆買いをした場合、買っている物は日本ブランドであっても輸入品が多いでしょう。観光収支を計算するときに、消費した金額から輸入した分の消費が差し引かれて計算されるので、全体でみると、実質的のところ、お金は表面的な数字ほど国に落ちてはいないんです。

当時、中国人の爆買いに興奮した人は、爆買いが沈静化すると、今度は悲観して「観光バブルの崩壊」などと言い出します。でも、表面的な数字ほど評価すべきではなかったので、悲観する必要はなかったんです。

中村 マクロ経済的な視点が足りていないんですよね。

アトキンソン氏 結局、モノ消費からコト消費に変わったというのは、分からないわけではないですが、しかし、観光のように経済規模が50兆円にもなるものが、モノからコトに変わって、コト消費だけで50兆円になるわけはないんですよ。だから、「モノからコト」っていうのは一面的な動きに過ぎず、モノもあれば、コトもあれば、それ以外のものもあって、色んなものがあって、初めて成り立つんです。

もう一回、トヨタ自動車の話に戻りますが、キャッチフレーズで「これからは高級車の時代です」と訴えて、トヨタが高級車の販売を強化するようになったとしても、トヨタが他の商品を全部やめてレクサスだけを造るかというと、そんなことはありません。安い車を造っていれば、低燃費の車も造っている。ピンポイント、ピンポイントで言っているだけで、トヨタ全体を語る上では、何の役にも立たない考え方といえます。

世界には11億9000万人の観光客がいます。その中で、全員がコト消費型のツーリズムだなんて言っていたら、その発言は日本人にまだ世界レベルの観光学者を育てていない証拠だと思っています。そもそも観光産業は、世界のGDPの1割にものぼる巨大産業なので、徹底的に研究されているわけです。自分が知る範囲なんですが、ツーリズムの種類は47あるということが言われています。47種類もあるのに、それが「モノからコト」って片づけるのは危険です。(続く)

デービッド・アトキンソン 1965年英国生まれ。オックスフォード大学(日本学専攻)卒業後、大手コンサルタント会社、証券会社を経て、92年ゴールドマンサックス証券入社。取締役を経て、パートナー(共同出資者)となるが、2007年退社。2009年国宝や重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社し、取締役に就任。11年同社の会長兼社長、14年社長。著書は『新・観光立国論』(東洋経済新報社)、『新所得倍増論』など多数。政府への提言を続ける一方、地方の観光振興にも尽力する。奈良県立大学客員教授、政府の行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員、文化庁日本遺産審査委員、迎賓館アドバイザー、二条城特別顧問、日本政府観光局(JNTO)特別顧問などを務める。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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