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[連載]観光立国のフロントランナーたち 佐賀県・山口祥義知事(3)

2017/06/12
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会 理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。対談の第3回では佐賀県の山口祥義知事に、県が見据えるインバウンドの展望について話を聞きました。

「柿右衛門の器でご飯を食べたい」

中村 佐賀のポテンシャルを生かし、世界の人を呼び込むための戦略として取り組んでいることはあるでしょうか。

山口知事 私が非常に期待しているのは、「焼き物」です。佐賀には有田焼だけではなく伊万里焼、唐津焼、武雄焼、肥前吉田焼もあります。隣の長崎県には波佐見焼、三川内焼があります。このような恵まれた環境を生かそうと考え、長崎県と連携し、文化庁の日本遺産に認定された「百花繚乱プロジェクト(「日本磁器のふるさと 肥前 ~百花繚乱のやきもの散歩~」)」を展開しています。

日本遺産 地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として認定し, ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形のさまざまな文化財群を総合的に活用する取り組みを支援する制度。世界遺産登録や文化財指定は、登録・指定される文化財(文化遺産)の価値付けを行い, 保護することを目的としているが、日本遺産は地域に点在する遺産を「面」として活用・発信することで,地域活性化を図ることを目的としている。

201706121200_4.jpgさらにいうと、柿右衛門や今右衛門などの器で食べてみたいなって純粋に思ったわけです。今までそのような先生方の器で食べたことがなかったので(笑)。その想いが、人間国宝などの名作で料理を提供する「USEUM ARITA(ユージアム アリタ)」(2016年12月25日営業終了)につながりました。佐賀には焼き物の人間国宝の先生方もたくさんいらっしゃいますが、お客様はもとより、何より作品を提供いただいた先生方がこの企画を大変喜ばれていました。「私たちが作っている器というのは使われてこそ価値がある」と。だから鑑賞するだけのミュージアム(MUSEUM)ではなく、頭文字のMをとって”USE”(使う)という意味を持たせたユージアムなのです。

USEUM ARITA 佐賀県立九州陶磁文化館(佐賀県有田町)のアプローチデッキに2016年8月、有田焼創業400年を迎え、期間限定でオープンした、「名作で、ごはんを食べる美術館」。佐賀の食材にこだわった料理を、人間国宝と三右衛門の作品を使って楽しむという日常では体験できない食空間を演出し人気を集めた。

料理も”さいこう”のものにしたかったので、佐賀牛、イカ、アスパラ、リンゴ、玉ネギなどの佐賀県の素晴らしい食材をふんだんに使いました。また、器と料理のマリア―ジュをテーマとして、国内外からトップクラスの料理人が50名以上集まり、器と料理の新たな可能性を探り、次世代に発信する世界料理学会も開催しました。そうした活動から派生して、アーティストや県内のイタリア料理店などが参加するコラボ企画も実現しました。今は対抗戦のように、武雄、伊万里、唐津などが地域ごとにプロジェクトの提案をやっています。

中村 農業県として食が豊かで、玄海の幸もあり、さらに器。そういうところから民間の人たちが目覚めていけば国際観光人材になりますね。

山口知事 そういう地域でがんばる人たちを浮かび上がらせたいと思っています。私が一番大事に思っていることは、知事が目立たないこと。地域で暮らす人々が目立つことが私の喜びなんです。地域を良くできるかどうかは、その地域で輝いている人間がどれだけいるか、そしてその地域にどれだけ外から多くの人が訪れるかということに尽きるわけです。その土俵づくりをいかにするかというのが私の仕事です。

中村 いろいろな知事の方とお会いしていますが、珍しい考え方ではないでしょうか。

山口知事 佐賀県というピラミッドの組織のトップで私が率先して仕切るのは、例えば災害や事故など危機管理事象への対応が必要なときです。逆に言えば、普段はあなた(県民)自身が主役として逆ピラミッドの上にいて、それぞれ自由にやってください、行政は下から支えて応援するから、ということです。そんな県だからこそみんな会いにくるわけです。

中村 そういう意味でいうと、農業をやっている人がインバウンドをしてもいいのですね。

山口知事 昨年11月に農業を楽しくやろうという女性たちが「カチカチ農楽(のら)が~る」というグループを立ち上げました。知事が、こういうのやってくれと言ってもうまくいきません。まずは自発的な動きを見守って、本当に必要なタイミングで行政も支援してあげるということが大事なんです。

カチカチ農楽が~る 佐賀県内の女性農業者が企業・団体や学生などと連携して「佐賀の農業」を全国に発信することを目指し、2016年11月に発足した。メンバーは20~60代の20人。県内各所で農産物などを販売する「マルシェ」を開いている。

熱気球の競技会「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」、世界選手権として開催された昨年は33カ国・地域から参加者が集まりましたが、そのうちの23カ国・地域はホームステイなんですよ。選手たちは朝から晩までバルーン競技で大変なので、家庭もサポートに入ってもらう。県民を巻き込むかたちで世界と交流するというのが一番の大きなインバウンドではないでしょうか。

201706121200_5.jpg佐賀インターナショナルバルーンフェスタでは選手たちが民家にホームステイしながら競技に臨む。県民と選手たちとの親交も深まっている

「各藩」の戦略で海外とつながる時代

中村 窯業や農業の方でも、自らインバウンドに取り組むモチベーションが高い方もいらっしゃいます。

山口知事 佐賀は、儲けてはいけないという文化をどこかに持っています。しかし、少しずつみんなで儲けて、それを元手にCSRやNPOのように人助けをやったり、資金が回るようにすることが、実は社会貢献につながるという方向に意識を変えることができれば佐賀はもっと良くなります。

中村 肥前浜宿のような規模で漁師町と商人町と宿場町が残っている地区は国内にほとんどありません。ですが、肥前浜宿でゲストハウスをやろうと思っても、酒蔵祭りなどのシーズンにしか観光客が来ないので成り立たないという話もありました。実際にはマーケティングで一年を通して戦略的に呼び込むやり方もあるわけですが、そうした知識がないとチャレンジする人が出てこないのではないでしょうか。

山口知事 唐津も同じです。ユネスコ無形文化遺産にも登録された唐津くんちにはあれほどの観光客が来るのだから、DMOの視点でどんどん新たな魅力づくりを進めていけばいいと思っています。そのあたりの戦略を考えていくということも私の課題になるでしょう。

中村 今、県として海外でのプロモーションやマーケティングはどのようなことをされていますか。

山口知事 例えば、香港では佐賀牛がトップブランドですし、呼子イカも人気があります。だから「食べたい!」と目的を持って海外から来てくれるのですが、佐賀牛と呼子イカを食べるだけのツアーになってしまいます。食の魅力を活かした上で、リピーターをどう増やしていくかを考えたいと思っています。

これから日本は150年前の幕末維新期のような時代に戻っていくと思います。今まで右肩上がりで、日本株式会社という一つの地方機関として機能してきましたが、今はこんなに世界が近くなって、地方空港に多くの国際便が入ってくるようになっています。地域がそれぞれ自立した、群雄割拠の『各藩』が戦略によって大きく変わる、世界につながる時代になりつつあるので非常に楽しみです。

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中村 では、九州新幹線西九州ルートについてはいかがでしょうか。

山口知事 アクセスがよければお客様が来ると思っています。一番恐れるのは、新幹線が通ったらお客様が来るという新幹線神話です。そんなに簡単なことではないと思っています。新幹線がなくても福岡から一時間程度のところであれば在来線の方がむしろ楽しいと感じています。JR九州が観光列車で旅行を楽しむ方向でがんばっていますが、そういったメリットもあるわけです。西九州ルートについては、フリーゲージトレインの開発が遅れていますが、今は、2022年の開業のあり方について昨年3月に確認した「6者合意」に従ってその準備をしています。

フリーゲージトレイン(軌間可変電車) 車輪の左右の間隔を変えられる電車。レールの間隔が異なる新幹線と在来線を直通運転できる。九州新幹線西九州ルート(博多―長崎間)はフリーゲージトレインの運用を予定している。しかし、実用化に向けた車両試験では、車軸摩耗などの不具合が発生するなど開発に遅れが出ている。

6者合意 フリーゲージトレインの開発遅れから、西九州ルートの開業のあり方について議論が行われ、与党PT検討委員会、国、JR九州、鉄道・運輸機構、長崎県、佐賀県の6者で、2022年度に武雄温泉駅で対面乗換方式で開業することなどが合意された。

中村 長崎-武雄温泉がつながるのは何年後ですか?

山口知事 5年後の2022年です。その区間はフル規格の新幹線が通る予定になっています。ところが佐賀県区間は、フリーゲージトレインの開発の遅れにより、武雄温泉駅でのリレー方式による開業です。だから普通の特急と、新幹線を対面で乗り換えるということがまず起きます。それはむしろ武雄にとってチャンスです。

もしフル規格の新幹線が通ったら、武雄にすべての新幹線が停まってくれるかどうかも怪しいものですから。(2007年夏の全国高校野球選手権で逆転優勝した)佐賀北高校じゃないですが、「ピンチの裏側には必ずチャンスがある」。ですから、チャンスを逃がしません。私たちがやるべきことはインバウンドを受け入れたり、本当に佐賀自身がディスティネーション(目的地)としての魅力を持つような体制を作ったりすることです。九州新幹線はそのためのツールでしかないので、ミッションを誤ってはいけないと考えています。(続く)

山口祥義(やまぐち・よしのり) 1965年佐賀県出身。東京大学法学部卒業後、1989年自治省(現:総務省)入省。鳥取県商工労働部長、長崎県総務部長、総務省地域力創造グループ過疎対策室長、東京大学大学院総合文化客員教授などを経て、2013年に官民交流でJTB総合研究所に出向。地域振興ディレクターとして各地の地域振興を支援。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐として開催地決定や盛り上げに尽力した。14年に退官後、15年1月の佐賀県知事選で初当選した。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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