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星野リゾート進出 新今宮再開発、地元とともに

2017/06/12

大阪人の先入観なのだろうか。高級旅館などを手がける星野リゾート(長野県軽井沢町)が4月、JR・南海新今宮駅前(大阪市浪速区)にホテルを建設すると発表したことは、地元関係者を驚かせた。駅前に日雇い労働者の街「あいりん地区」があり、高級リゾートとは街の雰囲気がマッチしないと思われた。

しかし、星野佳路(よしはる)代表は「先入観を持たずに見てみると、観光地としての潜在能力の高さに気づくはずだ」と断言。関西国際空港から鉄道で乗り換えなしにアクセスできる利便性や、歓楽街「新世界」などに近く「大阪の文化を最も体験できるエリア」であることなどを強調した。

新今宮駅前は近年、日雇い労働者向けの安価な簡易宿泊所に大勢の外国人旅行者が訪れ、にぎわいをみせている。「このエリアを再開発する使命を与えられた」とする星野リゾートは、街をさらに発展させることができるのか、期待される。

市有地塩漬け30年超

201706091933_1.jpg宿泊料が低額で、日雇い労働者らが利用する簡易宿泊所。1泊1000円を切る簡宿もある=大阪市西成区
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星野リゾートが進出するのは、駅前の一等地にもかかわらず大阪市が30年以上も塩漬けにしていた土地だ。かつては金属加工工場などがあったが、市は昭和50年代(1975年~1984年)に公園を整備するため買い上げた。

その後、土地の用途は公園以外にも広がったが、あいりん地区としてのイメージが強かったからか、利用計画はなかなか定まらず、これまでは駐車場や資材置き場などとして暫定利用が続けられてきた。

潮目が変わったのは大阪を訪れる外国人観光客の急増だ。宿泊需要への対応が急務となり、市はホテル限定のプロポーザル(提案型入札)方式の事業者公募を実施。星野リゾートと合意に至った。

実質的な条件だけに目を向けた星野リゾートだからこそ、市が有効活用できずにいた約1万4千平方メートルの一等地を、格安といえる約18億円で取得できた。建設予定のホテルは温浴施設やレストランを備えた20階建てで、客室数は608室となる計画だ。

斬新な仕掛けで成長

201706091933_3-300x0.jpg新今宮駅前のホテル開発計画を発表する星野リゾートの星野佳路代表=平成29年4月24日、大阪市北区(前川純一郎撮影)

あいりん地区と星野リゾートという組み合わせは大きな話題を集めた。関係者からは「地域の事情を知らずに土地の取得を決めたのではないか」との声も多く聞かれたほどだ。しかし、星野リゾートはこれまでも意外性のあるさまざまな仕掛けで成長してきた。

星野リゾートは、生糸業などを営んでいた星野国次氏が明治37(1904)年に長野・軽井沢で温泉を掘削し、大正3年に星野温泉旅館を開業したのが始まりだ。

その後は長く軽井沢で旅館業を営んできたが、4代目となる星野佳路氏が代表に就任した平成3(1991)年以降、リゾート運営に重点を置く経営方針に転換。経営不振で破綻状態だった北海道のトマムリゾートを復活させて注目を集めた。

不振に陥ったホテルや旅館を引き受けては、新しいコンセプトで出直す「リゾート再生」に特化するようになった。

関西では平成21(2009)年、京都・嵐山で「水辺の私邸」をテーマに、小舟に乗らないとたどり着けない規格外の旅館をオープン。28年には東京駅近くのオフィス街の再開発ビルに露天風呂や茶の間を備えた高級旅館を開業するなど、斬新なコンセプトを次々と形にしてきた。

独自の文化尊重を

201706091933_4.jpg星野リゾートがJR・南海新今宮駅前に建設を予定しているホテルのイメージ(星野リゾート提供)

星野リゾートの進出は地元でも好意的に受け止められている。

あいりん地区にある日雇い労働者向けの簡易宿泊所は1泊1000~3000円と格安で、これが外国人旅行者からの人気の秘訣(ひけつ)だが、肝心の労働者の数は減り続けている。社会構造の変化で建設現場に労働者を斡旋(あっせん)する役目は終えつつあり、若者の流入も減少して労働者の高齢化が進んでいる。

こうした背景もあり、簡易宿泊所は外国人旅行者向けにかじを切り始めた。言葉の壁に苦労することも多いが、畳の部屋にベッドを置き、共用パソコンや無線LANを配備するなど受け入れ態勢を整えている。

治安面の不安を懸念する声もあるが、現状でも世界の有名観光地と比べても安全な部類に入るだろう。あいりん地区に宿泊する外国人旅行者を取材しても、危険を感じている様子はなかった。星野リゾートの進出がさらに旅行者を呼びこむきっかけになるのではと期待されているのだ。

ホテルの開業は5年後。労働者の街から観光客の集う街にかわりつつあるあいりん地区で、絶好の一等地を手に入れた「再生屋」の星野リゾートが、街の再開発に果たす役割は小さくない。とはいえ、簡易宿泊所を拠点にする日雇い労働者にとって、ここは依然生活の地であり、ホテルが「異物」になってしまう恐れもある。

星野代表は土地取得前に何度も街に足を運び、雑多な街並みや「2度漬け禁止」の串カツなど、新世界に代表される「こてこて」の文化に魅せられたという。これらは、地域に根ざす人たちによってはぐくまれた独自の文化だ。仮に、星野リゾートが地元の反発を招くような「異物」としての開発を進めれば、街の文化も損なわれてしまう。

ただ、星野代表の言葉を聞く限り、こうした心配は杞憂(きゆう)にも思える。実際、星野リゾートには北海道のトマムリゾートを地元住民と共同で再生させた実績がある。

地域文化を尊重して守りつつ、大勢の観光客が安心して訪問できる地に-。星野リゾートと地元が共生しながら一つのモデルをつくり上げ、世界から注目される街になることを期待したい。(経済部・藤原直樹)

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