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日本発!起業家の挑戦 登山・アウトドアを楽しく安全に YAMAP代表・春山慶彦氏に聞く

2017/06/07

登山やハイキング、バックカントリー(山野の整備区域外)スキーを楽しむ人は増えつつあるが、それでも欧米に比べると人気が高いとまでは言えない。日本には素晴らしい山並みがあるのに意外だ。その景観美を登山という体験の中でもっと多くの人に気軽かつ安全に楽しんでもらおうと、春山慶彦氏は2013年にYAMAP(ヤマップ)を始めた。

山間部でも位置確認

201706061313_1-300x0.jpgYAMAP代表の春山慶彦氏(右)

YAMAPは、登山その他の野外活動者が紙でもスマホでも利用できるハイブリッド地図を無料で提供するアプリだ。携帯の電波が入らない山間部でも、アプリ上で位置が確認できるほか、利用者がアウトドアでの体験を他の愛好家と共有できる点も魅力だ。

  • 【関連サイト】YAMAP

――YAMAPの仕組みを教えてください

「スマホのGPS(衛星利用測位システム)機能を使って、地図上で位置を追跡できるスマホ用ソーシャルアプリです。電波がない山奥でも離島でも、自分がどこにいるか、いつも使っているスマホの画面で確認できます。地図の印刷もスムーズです。利用者の多くは登山者やスキーヤーです。日本全国と、海外では米国、ニュージーランド、スイスなど100カ所のエリアについて地図情報を扱っています」

――アプリには、どんなソーシャル機能があるのですか

「実際に登山をした利用者が山道の状態やトイレの場所を軌跡・距離・時間などの記録や写真とともに『活動日記』として共有して、コメントし合っています。また、地図に追加・修正する必要があれば利用者が掲示板で知らせて、私たちが最新情報を地図に反映する仕組みになっています。アウトドア情報のWikipedia(ウィキペディア)化を目指しています」

――利用者数は

「およそ38万人の月間アクティブユーザーがいます。米国では自然に触れるためにハイキングやキャンプに出かけることが一般的になっていますが、日本ではそうしたアウトドア活動の人気は限定的です。想像されるよりもずっと少ないと思います。特に都市部で暮らす若者で、ハイキングやキャンプに出かけるのは一部の人です。そんな状況を変えられたらと願っています」

――アプリの利用は無料です。収益を上げる方法は

「3通りあります。1つはフリーミアムモデルです。アプリの基本的な機能の利用はすべて無料ですが、最短1週間単位で料金を払ってプレミアム会員になり、カラー地図や最新の気象情報などの追加コンテンツが利用できます。2つ目はハイカーやスキーヤーへの保険の販売。3つ目は、利用者に登山の装備などを勧めて販売するアフィリエイトモデルです。この中ではアフィリエイトの収益性が最も高いです」

――なるほど。その規模のユーザー数に対してフリーミアムモデルのみで収益を上げるのは難しいですものね。最近、カシオや京セラと興味深い提携をしていますね

「はい。カシオはアウトドアでの活動に着目したスマートウオッチを開発していて、連絡を受けました。私たちのプラットフォーム上の登山愛好家コミュニティーとつながることに関心を示し、YAMAPをライセンス利用することになりました」

――簡単に聞こえますが、スタートアップが大企業と提携することは、通常そんなにスムーズに運びません

「もちろん難しい場面もありましたよ。大企業はスピーディーに動きません。スタートアップでは利用者からのフィードバックを基に一つのミーティングで決断できることが、大企業では多くの人が関わり、異なる承認プロセスがあるために数週間から1カ月かかってやっと決まるということがありました。しかし、スピードの点を除けば、YAMAPと大企業とのビジネスはとても良好です。カシオは連携を積極的に推し進めようとしてくれました」

――その動機や目的は何だったと思いますか

「YAMAPにはアウトドア愛好家の活発なコミュニティーがあります。カシオも京セラもそのコミュニティーとつながりたかったんです。スタートアップの創業者の多くが自社の技術が最も価値の高いものだと勘違いしますが、そうではありません。大企業には既に技術があります。大企業が関心を持っているのは、スタートアップの周りに築かれたコミュニティーであることも多いです」

――多くの顧客が既にスタートアップの製品を高く評価しているため、大企業は需要があるという確証を持って提携を進められるからでしょうか。顧客の反応を知るために市場調査や定性調査を行わなくて済みますから

「そういう側面もあると思います。いずれの企業もYAMAPの機能を修正したり、特別に仕様変更したりすることは求めませんでした。利用者が今の製品を気に入って使っていることを理解してくれました。大企業がコミュニティー向けのプラットフォームを一から作って管理するのはとても難しいと思います。これは、スタートアップが得意とする分野です」

訪日外国人にも期待

――海外展開を始めましたね。欧米と日本では登山者に違いがあると感じますか

「最大の違いは教育です。米国では野外活動を教育に結びつけることが多いように感じます。私はアラスカで生物学を学んでいたことがあるのですが、登山やキャンプに出かける人は、その地域の地理や生物についての知識が豊富で家族や友人とそうしたテーマでよく話すようです。一方、日本では一般的にハイキングが単なる娯楽と捉えられているように思います。年齢構成も大きく異なります。米国では登山やアウトドアスポーツを行う人の6割を20~40代が占めますが、日本では6割が60歳以上です」

――アウトドア業界全体としては、年齢構成はどんな意味を持ちますか

「若い人がもっと登山やアウトドアスポーツに関心を持たなければ、登山者の数が急激に減少するときが来てしまいます。登山道などの整備予算が減ってしまえば、日本の資産が失われることになります」

――今、インバウンドが注目されています。海外からの登山客は解決策になり得るでしょうか

「もちろんです。解決策として大いに期待されますし、既に海外から日本の山を目指してやって来る人が増え始めています。神社仏閣を訪れる以外に何か体験をしたいと考える観光客は多いです。もともと母国で登山やアウトドアスポーツを楽しんでいる人たちが、日本旅行中にハイキングやスキーを体験するようになっています。ニセコではYAMAPがよく活用されていますよ」

「野外活動をすればその国をまったく違う角度から体験できます。1カ所での滞在時間も延びるでしょう。美しい登山道やハイキングコースは日本中にあります。海外の人が日本に対して『自然の美しい国』というイメージを持つようになってくれればうれしいです。観光客がいろいろな地域の景観美を発掘することで、国内の若者にも新たに登山に関心を持ってもらえるかもしれません」

――YAMAPの拠点は福岡です

「はい。福岡にはユニークなスタートアップコミュニティーが育っています。ワークライフバランスを整え、人生を豊かに楽しむためにも福岡に本社を置いていることは意義深いです」

                   ◇

東京に住むインドア派の私にとって、自然との触れ合いは公園で目にするハトぐらいのものだが、郊外や地方に足を延ばせば、美しい自然があちこちに残されていることに驚かされる。日本人も外国人も、より多くの人がその景観美を楽しむことができれば素晴らしい。より手軽に安全にハイキングに出かけるためのツールを提供するYAMAPは貴重だ。

YAMAPがカシオや京セラとのビジネスに成功していることに、私はスタートアップ界に身を置く者として勇気づけられた。米国ではスタートアップと大企業の協業が大きな成功に結び付いている。近い将来、国内でもそんなコラボが増えていくに違いない。 文・ティム・ロメロ、訳・堀まどか

                   ◇

ティム・ロメロ 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページhttp://www.t3.org、ポッドキャストhttp://www.disruptingjapan.com/

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