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[連載]観光立国のフロントランナーたち 佐賀県・山口祥義知事(2)

2017/05/29
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ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会 理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。佐賀県の山口祥義知事を招いた対談の第2回では、佐賀県の観光政策の取り組みなどについて話を聞きました。

県民に「蘭心」を磨き上げたい

201705291040_1-300x0.jpg中村 山口知事は就任されてから、佐賀県の観光振興に向けてどんな取り組みをされているのでしょうか。

山口知事 私はよく「蘭心竹生(らんしんちくしょう、「蘭のように華やかな心を持って、竹のようにまっすぐに生きる」という意味)」という言葉を使うのですが、佐賀県民は「竹」のように生きるまっすぐなところを持っているのですが、あでやかな「蘭心」を表現することを苦手としているところがあります。しかし、これからの時代は「蘭心」がポイントになります。佐賀県の素晴らしさをいかにうまく表現できるか、磨き上げることができるかが必要だと思っています。

県の特徴的な取り組みとして「さがデザイン」という考え方があります。県が取り組むさまざまな政策に横串を貫くような形で、クリエイターやデザイナーの視点を取り入れます。そうすることで政策のコンセプトは何なのか、何のためにやるのか、そのためにはどうしたら心地いいのか、ということをあぶり出していきます。こうした他の自治体にはない佐賀らしいシステムを採り入れています。

さがデザイン 佐賀らしさを磨く視点。「モノ」と「コト」を磨き上げ、新たな価値を付与することで、人のくらしやまち・地域を心地よくして、豊かなものにする取り組み。農林水産物などのアピール力・商品企画力の向上や人に勧めたくなるような土産品の開発、海外で売れるようなパッケージ作成等の販売促進、意欲ある担い手が希望を持って農林水産業に取り組める環境づくりなどを支援する≫

その取り組みの中で、2016年7月に「勝手にプレゼンフェス」というイベントを行いました。佐賀に思いを持ったクリエイターやデザイナーに集まってもらい、自由なアイデアを私にプレゼンするのです。自治体はいつも企画内容をある程度定めて、コンペをして、民間企業に応募してもらいますが、民間の方々から「俺たちのやりたいようにやらせてくれ」「せめて訴えさせてくれ」という声があったので、「じゃあ、勝手にプレゼンしてよ」といった感じで、みなさんの企画を聞きました。

中村 ユニークな取り組みですね。

山口知事 まったくの白紙状態で臨んだのですが、「こうしたらいいんじゃないの、佐賀県は」というような企画がたくさん出てきました。残念ながら、プレゼンの時間は1件当たり15分しかなくて、すぐチーンと時間の合図が鳴っちゃって…。でも、その中で、いくつか採用されたものもありました。その一つが「佐賀城公園の整備」です。古くは「薩長土肥」の一角として日本を動かしていた佐賀藩の城下町であり、現在に至るまで行政・教育・文化の中心となってきた佐賀城公園一帯において、様々な公共空間を統一的にリノベーションすることによって、にぎわい創出を図り、県内外の方に佐賀の素晴らしい歴史や文化を知っていただくとともに、心地よく感じていただける空間にしようというものです。

201705291239_1.jpg2016年7月に行われた「勝手にプレゼンフェス」

ちなみに公共空間の活用でいえば、夜間の観光スポットの創出として、昨年7月から始めた県庁展望ホールを活用したプロジェクションマッピングでは、佐賀の歴史や文化を盛り込んだコンテンツが大変好評で、3月末までのおよそ8ヶ月間で夜間の展望ホールに4万7000人以上もの方に来場いただき、4月以降も上映を延長しています。

そして、2017年7月21日からは「アート県庁」として規模を今までよりも拡大し、より楽しんでいただける内容になる予定です。

また、その他の取り組みとして、まず県民の皆さんにとことん佐賀のことを知ってもらって誇りをもってもらうという運動をやっています。昨年スタートした「佐賀さいこう!」プログラムがまさにそうです。「さいこう」には「最高」「再興」「採光」「再考」「さぁ行こう」などの意味を込めました。大事なことは、やはり自分の地域を誇らしく思えない地域というのは振興しないというのが私の持論です。

JTB時代に国の地域活性化伝道師として日本中を回りましたが、地域のみなさんが「地域に誇りが持てない」「つまらないところだ」という意識を持っていると、議論をしてもどんどん沈んでいくんですよね。「やっぱりダメよね」「うちの町は何にもないわよね」というような、いわゆる心の過疎、誇りの空洞化が生まれ、あきらめてしまう。それがすべての諸悪の根源なのです。佐賀みたいにすばらしい“本物感”があるところは、まずそれを皆さんに気づいてもらうという作業から始めなければいけない。「佐賀さいこう!」プログラムを今やっているところです。

中村私も佐賀の出身ですが、昔は「佐賀は何もなか」ってみんなよく言っていました。

山口知事 今でも若干そういうところがあって。先日も、地元のタクシー会社の運転手さんにお手紙を書きました。「謙虚な気持ちは大事ですが、もう少し自分が紹介したい観光スポットやお店などをしっかりと観光客に紹介して、『佐賀よかでしょ』って言おう」という内容です。みんなで少しずつそうやって雰囲気を盛り上げていきたいんです。佐賀の人はすごくまじめで、お付き合いしたら本当に味がある、深い、おもしろい県民だと思うのですが、やっぱり最初は「よそいき」になってしまったりしますよね。

明治維新150年に博覧会開催、「葉隠」にスポット

201705291040_2-300x0.jpg中村 先日、博多で飲んでいたら、女性が「佐賀の人はとにかく自分の県が好きな人が多い。福岡からみるとそう思う」と言っていましたね。「佐賀は自分たちの町のことはすごく愛しているけど、自分たちはすごく田舎者だと思っています」とも言っていました。

山口知事 ただ、強烈に佐賀に対するいろんな思いを持っているので、必ず協力してくれる。「佐賀のためにやらんね」って言ったら「はい、やります」って。これは他の地域にはないと思いますよ。

先日、佐賀県のプロモーション曲「The SAGA Continues…(ザ サガ コンティニューズ…)」をラップ音楽で出したんですよ。メンバーは佐賀藩出身の大隈重信が創立した早稲田大学の出身者だったり、佐賀出身の人だったり、佐賀藩主だった鍋島家が維新後に茶園を開いた東京・渋谷の松濤出身だったり。佐賀藩にゆかりのあるラッパーたちが結集して、幕末維新期の佐賀藩の歴史を楽曲にしてくれました。ミュージックビデオでは、佐賀藩ゆかりの札幌出身である俳優の武田真治さんが10代藩主鍋島直正役として、またサックスプレーヤーとして出演してくれました。彼らは自ら佐賀藩の歴史を勉強して歌詞に反映したり、役を演じてくれました。

佐賀の若者が自分たちの地元を誇りに思うようにと、佐賀藩にゆかりのある東京のお台場や松濤公園を紹介して「東京にも歴史上佐賀が創り出した場所がいっぱいあるんだぜ」という雰囲気も織り交ぜられています。そんなふうに佐賀の位置が客観的に見られるようにいろいろ仕掛けをしています。来年(2018年)3月には、「肥前さが幕末維新博覧会」を開催する予定です。

中村 来年が明治維新150年ということで、すごくいいタイミングですね。実は、先日、高知県の尾﨑直正知事とお会いしましたが、今年、「大政奉還150年」ということでイベントを展開し、高知県はすごく盛り上がっていますね。

山口知事 高知は坂本龍馬、鹿児島は西郷隆盛、山口県・長州も桂小五郎というスターがいます。薩長土肥の4県の知事で現在、連合を組んでいるのですが、実は、うちだけ何も博覧会などの計画がなかったんです。「佐賀は何もなか」というところが出てしまったのかもしれません。でも、これはむしろ佐賀だからやるべきではないかということで、肥前さが幕末維新博覧会の開催を決めました。もう高知は今年から博覧会を実施しているので、そういった意味で、佐賀は出遅れているのですが、2018年3月17日から開幕します。せっかくやるのですから、佐賀の本物を感じられる博覧会にしたいですね。

例えば「葉隠(はがくれ)」です。これは幕末よりももっと以前からあり佐賀の人の精神的支柱となっていますが、今まであまり表に出ることがありませんでした。そこで、この門外不出の「葉隠」にスポットを当てることも考えています。また、上士・下士の境なく藩士の子弟が机を並べて学び、優れた人材を輩出した藩校・弘道館のニュートラルな教育システムが佐賀にはあったので、そういったところを紹介していきたいと考えています。トランプ大統領の登場や中近東・北朝鮮の情勢などをみると、世界は混とんとした面がでてきています。そんな不透明な時代だからこそ、本来、佐賀がずっと培ってきた誠実な“本物”の姿はむしろ輝くのではないかなと思っています。(続く)

肥前さが幕末維新博覧会 2018年3月17日から2019年1月14日まで、佐賀市城内エリア(メイン会場)を中心に、佐賀県内全域で開催。

葉隠 佐賀・鍋島藩士の山本常朝(1659~1719)の談話を田代陣基(1678~1748)が筆録したもので、鍋島家に仕える家臣としての奉公のあり方や忠義の重要性などが説かれている。2016年は「葉隠」が成立して300年にあたる。

山口祥義(やまぐち・よしのり) 1965年佐賀県出身。東京大学法学部卒業後、1989年自治省(現:総務省)入省。鳥取県商工労働部長、長崎県総務部長、総務省地域力創造グループ過疎対策室長、東京大学大学院総合文化客員教授などを経て、2013年に官民交流でJTB総合研究所に出向。地域振興ディレクターとして各地の地域振興を支援。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐として開催地決定や盛り上げに尽力した。14年に退官後、15年1月の佐賀県知事選で初当選した。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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