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[連載]観光立国のフロントランナーたち JATAアウトバウンド促進協議会 菊間潤吾会長(最終回)

2017/05/09
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日本のインバウンドビジネスの開拓に奔走するジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国の最前線に立つキーマンたちとその道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。一般社団法人日本旅行業協会アウトバウンド促進協議会の菊間潤吾会長(ワールド航空サービス会長)をゲストに招いた対談の最終回では、菊間会長が考える「観光立国」について話をうかがいました。

目指すべきは「観光大国」「観光先進国」

201705092139_1-300x0.jpg中村 今後、日本が真の観光立国を実現していく上でどういうことが必要になってくるのでしょうか。

菊間会長 私は「観光立国」というよりも、一部で声が出始めている「観光大国」「観光先進国」というものを目指すべきだと思っています。世界の中で、自国民の海外旅行の振興を目的とした「アウトバウンド推進協議会」のような組織がある国はありません。「観光先進国」というのは、実際にツーウェイツーリズム(諸外国との双方向の交流)を実現している国だと思います。

そして、その延長線上に「観光立国」「観光大国」という言葉が出てくるのではないでしょうか。観光先進国になるためにツーウェイツーリズムをいちはやく実現するには、ある国から日本に何万人、何百万人が来て、日本からその国へ何百万人が旅行している、という姿を少しでも早く実現することです。

自然体での双方向ではなく、むしろ意図的に、いろいろな国に対してそういう形を創り上げていく。それが民間と国も一緒になってやっていく。もちろん民間の中で先導し、どうやって創り上げていくかということだと思います。そういった意味では、われわれの協議会に政府の皆さんがからんでくれているのはいいことだと思います。官邸もそうぃったことを考え始めています。官邸が今、一番進んでいるかもしれません。「アウトバウンドは外交だ」という意識を結構強く持っていると思います。

中村 安倍首相は「地球儀を俯瞰する外交」ということで、精力的に外遊をされている。これまでの政権では外遊も少なかったことを考えると、相互交流の大切さが国のトップれベルにおいてもみえてきたのではないでしょうか。

菊間会長 ツーウェイツーリズムというのはどういうことなのかを旅行会社の立場で考えると、われわれ旅行会社は旅行を商売にしているので、使命としては、送り手として日本の旅行者がその国を好きになってもらい、「また行きたい」と言ってもらえる商品をいかに作っていくのかです。また、国際交流というか、親善交流につながるような商品をどうやって提供していくかだと思っています。われわれは本当の意味で使命感をきっちり持って仕事を進めているんです。ただ安く行ってくれればいい、儲かればいいというレベルでとらえている旅行会社はそんなに多くはないんですよ。

中村 そういう会社は淘汰されてきたんですね。

菊間会長 そうですね。ちゃんと根っこがある人は、日本人にとっては知名度がない国、まだ日本人がわずかしか旅行をしていない国でも、その国のいいものをどうやって紹介しようかと頑張っています。そうしないといけないという使命感を持っていると思います。私自身、旅行市場で人気があるから、その商品作ったら売れる、という展開で旅行業を動かしていきたくないんですよね。

中村 インターネット社会で顧客が自発的に旅行商品を探すOTAの時代に、そういったビジネスをしていると、結局、居場所がなくなりますよね。

菊間会長 アウトバウンド推進協議会の最初の事業として、「韓国旅行復活緊急フォーラム」というのを企画しました。当初は、日本の旅行会社と韓国観光公社とでやろうと考えていたのですが、韓国側が本気になって予算を出してくれました。韓国から25社が参加し、自治体関係者も来日しました。当初は日本旅行業協会の会議室でやるつもりだったのですが、キャパシティが足らなくなってしまって。別の場所に変更したのですが、それも入らなくなり、ホテルの大会議場を借りることになりました。

そのフォーラムでも、日本の地方の活性化やツーウェイツーリズムを考えると、韓国ほど日本各地から飛んでいる国際線はほかにはありません。それをもっとわれわれは真剣にとらえるべきです。しかし、韓国の商品を見てみると、すべては価格に訴求しているものばかりです。3万~10万円で、特典やクーポンが付いているものです。われわれは韓国の文化に真正面に向かい合って、韓国の文化をいかに紹介するかという商品を全く作ってこなかった。あかすりと焼き肉…それだけではないはずです。

文化性を重視したツアーは、政治環境がどうあっても分かっている人は分かっているから旅行をするんですね。地方も含めて国に向けての商品展開をがらりと切り替えなければいけません。安くなくても、行く価値のある商品展開です。実際に10万円~20万円くらいのまでの商品というのは落ち込んでいません。安い料金の商品が落ち込んでいます。そういう実態をみると、われわれがもっと相手の国の文化を尊重し、そこに良さを見出して、どうやって消費者に紹介していくのかという本来のプランナーの姿というか、そういったものを韓国からやり直そうという議論をしたわけです。それは韓国側も同感してくれて、やっとわれわれが思っていたようなことを言い出す人が現れ、本来の姿が動き出すと喜んいました。

中村 時代が変化してきているんですね。

菊間会長 そうですね。実際、韓国も地方にはほとんど日本人は行きませんよね。韓国旅行の8割はソウルで、後は釜山です。

中村 最近、日本にも多く登場していますが、何泊もかけて韓国を周遊する豪華な寝台列車があったりしますよね。

菊間会長 ヘラン号ですね。当社は何度かチャーターをしています。国土交通大臣賞をもらったり、韓国の賞いただいたりしました。そういった取り組みをしないで、みんな安・近・短の代表で、料金を下げるだけの商品しか作ってこなかったので、逆に韓国はチャンスなんです。近くて短い期間で行ける国で、刺激的に面白いものに触れられるところはいっぱいあります。安・近・短でも新しいスターを作ることができる要素は韓国にはたくさんありますし、そういった意味でもわれわれは目を開かなければいけないんです。そうすると地方からの出国が増えて国際線がもっとにぎやかになってくれるといいと思います。韓国からは来てくれますからね。

ヘラン号 2008年に運行を開始した韓国初の全個室寝台列車。「ヘラン」は「太陽とともに」という意味。機関車を含め10両編成で、最大定員は54人。全室にトイレ、シャワーを完備している。1車両3室のスイートルームをはじめ、デラックスルーム、ファミリールームがある。ソウルをスタートし、世界遺産の街・慶州や地方色豊かな順天、日の出の名所である正東津など韓国各地を2泊3日で周遊する

中村 まさにインバウンドが隆盛しているからこそ、逆にアウトバウンドの腕の見せどころということですね。

菊間会長 そうですね。われわれの出番があることを意識しないといけません。

プランナーたちのスキルアップこそ協議会設立の狙い

201705092139_2-300x0.jpg中村 最近、ちょっと感じていることなんですが、旅行代理店のカウンターに相談に行くと、接客レベルが低い店員が結構少なくないような感じがしています。われわれ庶民としては何十万円という商品を買うのは、それなりの覚悟がいりますが、顧客の観点と店員の視点との間に差がありすぎて共感が持てないんです。

結局、添乗力の前にまず接客力や、旅に対する哲学的な問いや訓練、研修を受けていないのではないかと心配になることがあります。そこを突き詰めないと、旅行業はさらに厳しくなるのではないかと危機感を持っています。結局、旅というのは列車や飛行機に乗ってから始まるのではなくて、本当はカウンターでのカウンセリングから始まるはずなのに、単なる手配で終わってしまっているからなのではないでしようか。

菊間会長 われわれがこの協議会を設立した本質的な狙いの最上級にあるのは、旅行会社のプランナーたちのスキルアップなんです。彼らは、現地の良さを自分で見つけ出してプランをつくる、ということをやっていません。「いい仕入れがきたから、これでちょっと安くやれば売れるんじゃないの」というようなレベルでしか作っていない。将来に向けてしっかりと技術や経験を積んで、いいツアーを顧客に訴求できるようにしないといけません。それが実現できれば、「観光先進国」と言われることもそう遠くないと思います。

中村 日本が世界最高の「観光大国」になる可能性を持っていると思います。

菊間会長 4年後くらいにはそういわれる時代がくるよう頑張りたいですね。私はもともと海外専門だったので、海外は行ってない国はないぐらい行っていますが、国内に視察に行くと、たまげますよね。これはすごいなと思います。諸外国は日本に太刀打ちできないと思います。

例えば、お祭りです。日本ほどお祭り好きの国民はいなくて、夏なんて毎日のようにやっているじゃないですか。「三大祭り」とかいうものだけでなく、地方にはたくさんの祭りがある。これを海外の人たちが知り始めたら病みつきで大変だと思います。どんな片田舎に行ったって清潔ですし、どこへ行ってもしっかりとした宿があり、食事や土産物、名産品があります。そんな国はほかにないんです。

中村 さきほど菊間会長がおっしゃっていたように、数多くの諸外国を見てこられたからこそ、今の再発見というか視点があるのですね。いろいろな意味で、日本人が、特にインバウンドひいては、観光立国に携わる人たちこそ、やっぱり海外に旅をしていいところは吸収し、悪いところは反面教師としてみていくことによって、日本の足りないところ、同時に、日本の良さを再発見できると思います。そうすれば、ツーウェイツーリズムの戦略として日本は勝ち組にもなれますね。菊間会長、今日はどうもありがとうございました。(終わり)

菊間潤吾(きくま・じゅんご) 1952年東京生まれ。独協大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、1975年ワールド航空サービス入社。1995年代表取締役社長。2013年から会長。世界各地へのユニークな旅をプロデュースし、旅行業界のパイオニア的プランナーとして知られる。主な著書に『大人が旅するオーストラリア』『マカオ歴史散歩』『中国の神髄』『ヨーロッパの田舎』『フランスの美しき村』『新モンゴル紀行』(いずれも新潮社)など。日本旅行業協会副会長兼海外旅行推進委員会委員長、キプロス共和国名誉総領事、全国公正取引協議会連合会副会長。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会に理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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