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[連載]観光立国のフロントランナーたち JATAアウトバウンド促進協議会 菊間潤吾会長(3)

2017/05/01
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日本の旅行会社はインバウンドでビジネスチャンスをつかめるのか

中村 今の日本の地方自治体は少子高齢化と人口減の中でインバウンド一辺倒になっていています。逆に地域の住民が海外旅行をすることには「お金が流出するから後押しはできない」といわんばかりのマイナス・マインドに陥っています。

菊間会長 今の国の政策の中では、アウトバウンドに関しては若者をどうやって海外に出すかくらいですね。旅行会社として明らかに立ち位置を今までと変えていかないと成り立たないと思っています。今までの旅行会社のあり方は、旅行市場が自然に増える中で、顧客の受け皿のような商品を作っていれば成長していました。しかし、今では、訪日客の増加に伴って、空き座席が減少し、航空会社の旅行会社向けの座席供給数が圧迫され、インターネット専門の旅行代理店が顧客とダイレクトに取引を始めています。

その中で、われわれがもう少しトレンドを作り、旅行市場を動かしていくような商品作りに展開していかないといけません。その際には、やはり現地の人たちとのコミュニケーションをもっと強くしていかないといい商品は作れません。これは過去の経験だけで作れるものでもありません。そういった部分を今回設立したアウトバウンド推進協議会を通じて活性化させたいと思っており、現在、取り組んでいるところです。

中村 時代の変化とともに旅行業界の置かれている状況を変えていかないといけない。なかなか難しい課題です。

菊間会長 今のインバウンドの増加は、旅行業界にとって大きなビジネスチャンスなのかも知れませんが、ビジネスチャンスを生み出すのは難しい分野なんです。なぜかというと、諸外国の旅行業者が進出してくるからです。

過去を振り返ると、1964~1970年くらいまでの間、日本のインバウンドは増えていました。大手の旅行会社も「外国人旅行部」という部署は一番の花形でした。時代とともに縮小されていきました。なぜ事業が縮小していったのかというと、一生懸命セールスをしても、2年持つか持たないかくらいで、後は各地の観光業者との直取引になってしまうからなんです。日本の旅行会社に頼ってずっと続けるということはなく、どんどん進出してきます。

例えば、ハワイです。日本から多くの観光客がハワイに旅行するようになると、日本の旅行会社は現地の業者を使わずに現地法人や出張所を作って、現地対応をするようになります。

現地にすると、小売店などは恩恵がありますが、現地の旅行業にとっては、どうせ日本の資本が入ってこっちには何もメリットはないということになってしまう。やがては日系の免税店ができたり、百貨店が出店したりして、観光客のお金を吸い上げるという図式ができあがります。

諸外国からのインバウンドが日本に来てもやがてそうなるかと思われます。例えば、中国のある大手旅行会社の社長に話を聞くと、これから客船を作って、自分たちの船で日本各地を周遊して、宿泊も食事も自分たちの船で完結するということを考えていました。別の社長は、海外に免税店を何年以内に何店作るかという計画を立てていて、「タイはだいたいできた。どこそこの国は何店舗作った」と。今度、日本でもどこまで自前の免税店を作って、爆買いもすべて自分たちの免税店で吸い上げていくということ狙っています。でも、これは日本が昔やっていたことなんですね。だから彼らがえげつないとはいえないことなんです。

インバウンドについて、日本の旅行会社は着地型で、ニッチなところにビジネスチャンスがいろいろあると思います。いろいろなトライをするのはいいと思います。それがインバウンドを発展させる道だとも思いますが、旅行業界全体が今後の経営の柱に持っていけるかどうかというと難しい課題があります。

中村 中国からの団体の方日市場そのものが縮小して、日本側の旅行会社もそうした訪日中国人客の「囲い込みビジネス」がうまくいかなくなり、困惑が広がっていますが、今後もさらにそういうことが起こりうるということなんですね。

菊間会長 明らかにそうだと思います。うちの会社でも付き合いのある諸外国からのインバウンドの手配をやっています。実質150~200人くらいのツアーなのですが、1年もしたら、われわれに頼らず彼らは自分たちでやるだろうとみています。ですので、ビジネスチャンスだからもっと向こうの業者に営業をかけて、たくさん持ってこようという風にはなかなかならないですね。

中村 なるほど。慎重に対応をしているところなんですね。

訪日客向けにエンタテインメントや「和の文化」を発信する場所を

201705011507_1.jpg菊間会長 インバウンド向けのビジネス展開については、うちの会社でいえば、東京のど真ん中に、今まで日本にはなかったようなエンタテインメントや和の文化の発信基地的なものを創造したいと考えています。2018年暮れぐらいから動き出すつもりです。

今年の6月くらいから少しニュースになっていくのですが、コンセプト作りからずっと関わっています。5月末から建物の工事が始まって、できあがった後の運営について旅行会社のノウハウを生かしたインバウンドの誘致を考えています。

中村 面白そうですね。

菊間会長 京都では、外国人が舞妓の衣装や和服を着て、街を歩いている姿をよく見かけますよね。でも、東京でそういう場面をみることは少ないじゃないですか。京都は街自体がある意味、舞台のような感じなのであまり違和感がありませんが、銀座や東京駅で、着物に着替えろ、って言われると、私自身、「冗談でしょ」となってしまいます。でも、東京にだって、江戸時代の風情を残したような場所はたくさんあります。例えば、外国人が浴衣姿になって街に繰り出して、その後、パーティーを開いて、江戸切子のグラスでスパークリングワインを楽しむ。そんな施設があったら面白いと思いませんか。

中村 なるほど…。確かに東京にはそういう施設が不足してますね。

菊間会長 最近は、カジノを含む総合型リゾート(IR)が本格的に動き出していますが、IRも、カジノばかりが注目されていますが、カジノだけでなく、米国のラスベガスのように世界のエンタテインメントが集まるようにステージをつくることも考えなくてはいけません。東京ではMICE(研修・セミナーや国際会議、展示会など)も頻繁に行われています。ユニークべニュー(歴史的な建造物や美術館などで会議やイベントを開催し、特別な演出をできる場所)の創出や、展示会や会議などに出席した前後のちょっとしたぶらり旅ができるような仕掛けをつくっていくことが大切だと思いますし、そうした取り組みに積極的にかかわっていきたいと思っています。

中村 単に旅行の手配をするだけではなく、自らがコンテンツを創設していくことで、進出する諸外国との競争に対抗していかなくてならないわけですね。

菊間会長 そんな話がいろいろと私のところにも来るんですよ。菊間君、ちょっといいかな。ちょっと相談に乗ってやってくれ。今、代わるから」なんて携帯に電話がかかってきて、勉強会やるから出席してアイデアを出してほしいという話が多いですね。東京がこんな風に面白くなる、というネタはいっぱいありますよ。

日本人にとって当たり前のサービスに涙する中国の観光客

中村 政府は訪日外国人観光客を2020年までに4000万人にする目標を立てていますが、実現には、東京を外国人観光客にとってこれまで以上に魅力的な場所にしないといけません。

菊間会長 日本人が気づかないことに訪日外国人が感動しています。日本は「おもてなし文化」が根付いています。日本のおもてなしというのは、もちろん「歓迎します」という気持ちですが、それを形にするじゃないですか。「美」というものを通して、しつらえをどうするとか、茶室の花をこうするとか、美を持って迎え入れるじゃないですか。それに加えて、快適性を備えて迎える文化は、外国にはあまりないんです。私は、その意味で、外国の方々が日本にくると、本当に心地いいだろうと思います。

中国の取引先と話していると、「一番人気の旅行先は断トツで日本だし、『また行きたい』という旅行先も断トツで日本で、一番低いのが韓国だ、と言っていました。だから、彼らの国がどう言おうと、訪日客が増えてくるのは当然です。「どこがそんなにいいんだ」と聞いたら中国の旅行会社の幹部がこんなことを言っていましたよ。

「どんな安い旅館に泊まっても、チェックアウトしてバスに乗ると、みんな外に出てきて手を振ってくれる。その姿を見て、中国人はバスの中で鳥肌を立てて涙しています。あんなことしてくれるのは日本以外にはない。われわれは本当に歓迎されて見送ってもらっているんだ」と。その話を聞いた時、日本人にとっては、ごく当たり前のサービスなんだけどなあって心の中で思ってしまいましたよ(笑)。(続く)

                          

日本インバウンド連合会の理事長に今春就任した中村好明・ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)社長が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。今回は、一般社団法人日本旅行業協会アウトバウンド促進協議会の菊間潤吾会長をゲストに招き、協議会の取り組みなどについてお話しをうかがっています。

菊間潤吾(きくま・じゅんご) 1952年東京生まれ。独協大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、1975年ワールド航空サービス入社。1995年代表取締役社長。2013年から会長。世界各地へのユニークな旅をプロデュースし、旅行業界のパイオニア的プランナーとして知られる。主な著書に『大人が旅するオーストラリア』『マカオ歴史散歩』『中国の神髄』『ヨーロッパの田舎』『フランスの美しき村』『新モンゴル紀行』(いずれも新潮社)など。日本旅行業協会副会長兼海外旅行推進委員会委員長、キプロス共和国名誉総領事、全国公正取引協議会連合会副会長。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会に理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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