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[連載]観光立国のフロントランナーたち JATAアウトバウンド促進協議会 菊間潤吾会長(2)

2017/04/24
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アイデア・企画次第で大手と対等…旅行ビジネスの醍醐味

中村 菊間会長が今の仕事に携わることになったきっかけについてお話をおうかがいします。菊間さんはお父上の立ち上げられた会社を学生時代に手伝われていた。大学を卒業され、現在、会長を務められているワールド航空サービスに入社されたんですよね。

菊間会長 そうです。父の会社を手伝っていて「旅行会社が面白いな」と思ったのは、例えば、テーマ性のある旅行やニッチでも深掘りした旅行を提案したときに、そこに興味を持った顧客が会社の規模など関係なく申し込みに来られるんです。出版業界とだいぶ似ているところがありますね。読みたい本であれば、「大手出版社じゃないから読まない」とはなりません。われわれが内容のある企画を提案することによって、大手と全く同じ土俵で戦うことができます。それがとっても面白かった。ある意味で、ニッチなところからのスタートがしやすい。インバウンドでもおそらくそういった感じなんだろうと思いますね。

中村 仕事の醍醐味みたいなものを感じられたわけですね。

菊間会長 そうです。ドイツの「ロマンチック街道」という名前は今では一般的ですが、私がドイツ旅行を企画した当初はロマンチック街道なんていう言葉は日本では知られていませんでした。語学研修でドイツに行ったとき、週末は授業がないので、ほかの国から研修に来た連中とドイツのいろいろなところに旅行しました。当時は、旅行先といえばロンドン、パリ、ローマの時代でしたが、「いやあ、こんな中世風の街がドイツにあったのか」と驚かされました。

観光客もほとんどいないのですが、こういうところこそ旅心をくすぐるんですね。歴史的なことも調べると、さらにおもしろい。「これはいい」と思って「ロマンチック街道」を前面に打ち出した商品を売り出したんです。ロマンチック街道なんて言葉もなかった時代なのに顧客がツアーに申し込んでこられる。大手は「“ロンパリローマ”ばっかりだけど、こういうツアーに行きたかった」という声もいただきました。それが1973年ですね。

ビルマ(現ミャンマー)が鎖国を解禁した時にビルマのツアーを企画したんです。当時、東南アジア旅行は「女遊びの目的地」というイメージが強かったので、女性やインテリ層の男性はなかなか行きづらいところでした。行きたいけど、そういう遊びで行っているんだろうと思われるのが嫌で敬遠されていたんです。

それで、私はパンフレットに「対現地女性に興味ある方のご参加はお断りいたします」って大きく書いて商品化しました。。そうしたら「そういうツアーがやっとできた」「アジアの文化にとっても興味があったけど行きづらかった」という人がどんどん参加してきてくれました。大手は「こういうことやらないのよね」と言って結構おいしくやらせていただきました。

中村 それも1970年代ですか?

菊間会長 そうです。ちょっとニッチだけど旅心をつかんだ商品をいかに作っていくかということです。それができれば売れる。だから面白いと思いました。

インバウンド需要の増加やLCCの台頭…業界の逆風に

201704242233_1.jpg中村 その当時はとにかく夢中になってやっていると、どんどん実績になってついてきた時代ですね。2000年くらいになってから、海外旅行がだんだん伸びなくなりました。いろいろな要因があったと思いますが、この十数年の停滞を経て、現在、少し変化が表れているように思います。、そのあたりをどう見ていらっしゃいますか?

菊間会長 海外旅行のマーケット自体、ここ数年、日本発着の旅客機の7~8割は日本人の顧客のための座席供給だったんです。「インバウンドの功罪」と呼んでいるのですが、今は50%・50%、もうじき40%・60%となろうとしています。インバウンド需要がどんどん増えています。その中で、旅行会社は日本人の出国に対する供給数が非常に圧迫されているわけです。ただ航空座席数が伸びてないのかというとそれなりに伸びてはいます。それはLCC(格安航空会社)が大半です。そうなると、旅行会社の入る場所がないんですね。旅行会社が生きていくための座席がインバウンドのおかげで非常に狭められているんです。

国が掲げる訪日外国人観光客数6000万人の時代である2030年に国は航空政策をどう考えられているか。これは大変に大事な視点だと思っています。LCCが中心になる時代の中で、旅行業界がどうやって存在意義を示していくのか。これからの大きなテーマになるだろうと思います。

以前は、ゴールデンウイーク(GW)が控えて海外旅行に行く人が非常に少ない4月上旬は通常、旅行価格は底値の時期で、商品としては席もガラガラだし、面白い商品がいっぱいできていました。でも、今は桜を見に来るツアーなどで、海外でたくさん席が売れるものですから、オフシーズンじゃなくなってしまったんです。11月下旬も欧州などは寒くて旅行に行かないので、オフシーズンだったんですよ。ところが今は紅葉の時期にあたって海外でやたら売れてしまう。そうなると、われわれにとっては安く売るチャンスがなくなっていくんです。

中村 格安の座席があるから、その浮いた分で付加価値の高い旅行商品をより安いコストで提供できた。旅行商品にもバラエティーがあったんですね。

菊間会長 うちの会社でこのゴールデンウイークから「双方向チャーター」というのをやります。欧州の顧客がチャーター機を使って日本に観光に来られる。そのチャーター機を使って、欧州向けのツアーを出すんです。今年のGWで一番需要が高い日にチャーターをうちも引いて、向こうからの300人の団体を受け入れ、当方から300人を欧州に行ってもらう。そういう時代にもなりました。これは新しい形ですが、今後、増えていくだろうと思います。

中村 双方向チャーターですか。初めて耳にしましたね。

菊間会長 どの国でもインバウンド政策はいっぱいあるわけですよ。それはその国の経済の活性化で、収益を外貨で獲得できる話だから、どの国もインバウンドに関しては熱心です。でもアウトバウンドに関しては国として熱心には扱わない。それは日本だけではなくどの国でも一緒です。アウトバウンド促進協議会を作った一つ理由としては、そういった考えに風穴を開けたいという思いがあったんです。

アウトバウンド振興が生み出すメリット

201704242233_2.jpg中村 アウトバウンドはお金が海外に流出するという点では、ある意味、輸入することと同じですからね。

菊間会長 そうですね。1980年代にかけて日本で海外旅行が大きく伸びていた時代がありましたが、あの時は国が斡旋(あっせん)をしていました。「テンミリオン計画(海外旅行倍増計画)」という風に運輸省(現・国土交通省)が名付けました。あの時代、日本は貿易摩擦が激しくて、モノを売りつけるけども、買うものがないから、そういう形でお返ししましょうということだったと思います。

アウトバウンドは国の政策としてはなじまないかもしれないけど、政府の要人が外遊されて、いろんな国とお話をされると、結局、「日本からの観光客をもっと増やしてくれ、送客してくれ」というような声が最も多いと聞きます。観光立国として経済が成り立っている国や、外貨獲得のトップが出稼ぎで、外国人の観光収入が2番目という国もあるんです。

中村 途上国にとっては、観光による外貨獲得は生命線です。日本への期待は大きいですね。

菊間会長 アウトバウンドというのは一つの外交だと思っています。日本からのアウトバウンドを振興することは大事な話です。ただ、それを国がやるよりも民間ベースで活性化させる組織体を作ってやっていくってことが一番なじみます。ですから、われわれの団体に対して、国土交通省や観光庁、外務省のみなさんに興味を持って参加していただくのはいい流れだと思っています。

最近の話でいえば、2015年に安倍首相がウズベキスタンを歴訪する前に、政府関係者から現地視察団の団長になるよう要請されました。チャーター便の就航など観光関連の話が出てくるだろうとの想定から白羽の矢が立ったようです。ウズベキスタンの副首相や経済大臣、元事務次官という方にもお会いしましたが、案の定そういう話が出ました。それで初めて日本とウズベキスタンのチャーター便を3、4便やったんです。

すると、その後、安倍首相が行かれたときに「チャーターをしてくれてありがとう。もっと増やしてくれないか」と要請されたそうです。官邸からも相談があり、1便増やしました。おっしゃる通り、途上国にとって観光は貴重な外貨獲得方法なんですね。ある意味、政府間の外交交流以上に切実なんです。

例えば、タイと日本の関係をみますと、日本人の観光客がたくさん行くことによってその国の経済とかいろんなものを見るわけですよね。それによってビジネスチャンスを感じて多くの日本の企業がタイと仕事を始めました。観光客がたくさん来ることによっていろんなビジネスチャンスが生まれたことは歴史が証明しています。

安倍首相がロシアのウラジオストクに行かれたときもプーチン大統領と極東の経済活性化で観光の話が出たようです。その後、われわれにボールが投げられています。政府のみなさんが外遊をされればされるほどアウトバウンドの重要性を肌で感じられていると思います。政府としても側面的にどういう応援ができるのかを考えられています。ツーウェイツーリズムという言葉がよく使われるようになりましたが、具体的な政策として具体的にどこまでのことをやるのかはなかなか難しいのではないでしょうか。

中村 地方空港で海外便が廃止・減便されるケースが後を絶ちませんが、これは日本から海外に行かなくなったことも背景にあります。海外から日本を訪れる往路の需要はあっても、地方から海外に行く復路の搭乗率が悪い。相互の交流がない限り、政府が地方空港をいくら支援しても伸びない状況になっています。これをどうしたらいのか。単に国内のインフラの整備ではなく、むしろ、海外現地の観光地の整備支援などのODA(政府開発援助)のような予算の使い方が必要なのではないでしょうか。

菊間会長 ODAが単にインフラのための応援だけではなくて、その国の産業を育てるという意味で、観光振興にいかに積極的に投資できるのか。我々として、そういう点での提案を政府にしていかないといけないと思っています。(続く)

日本インバウンド連合会の理事長に今春就任した中村好明・ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)社長が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロンティアたち」。今回は、一般社団法人日本旅行業協会アウトバウンド促進協議会の菊間潤吾会長をゲストに招き、協議会の取り組みなどについてお話しをうかがっています。

菊間潤吾(きくま・じゅんご) 1952年東京生まれ。独協大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、1975年ワールド航空サービス入社。1995年代表取締役社長。2013年から会長。世界各地へのユニークな旅をプロデュースし、旅行業界のパイオニア的プランナーとして知られる。主な著書に『大人が旅するオーストラリア』『マカオ歴史散歩』『中国の神髄』『ヨーロッパの田舎』『フランスの美しき村』『新モンゴル紀行』(いずれも新潮社)など。日本旅行業協会副会長兼海外旅行推進委員会委員長、キプロス共和国名誉総領事、全国公正取引協議会連合会副会長。

中村好明(なかむら・よしあき) 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会に理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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